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「プロ棋士が人工知能に負ける日」を1996年に予言した羽生善治氏

冨島佑允(とみしまゆうすけ)

2019年08月08日 公開 2024年12月16日 更新

「プロ棋士が人工知能に負ける日」を1996年に予言した羽生善治氏

<<「ドラえもんのポケットの中(4次元)」、「自動運転の仕組み」、「飛んでいる鳥がぶつからない理由」――日常やアニメの中の「不思議」のウラには実は数学が潜んでいます。

京都大学物理学専攻出身で、数学に造詣が深い冨島佑允の著書『日常にひそむ うつくしい数学』では自然や社会を影から動かしている数学の秘密を解き明かしています。本稿では、同書より、将棋、囲碁、チェスっと行ったボードゲームとAIの関係について解説した一節を紹介します。

※本稿は冨島佑允著『日常にひそむ うつくしい数学』(朝日新聞出版刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

ボードゲームは何パターンある競技なのか?

将棋・チェス・囲碁などのボードゲームは、知的な遊びとして古くから愛されてきました。戦い方のパターンは無限とも言えるほど多様で、かつては人間知性の象徴のような扱いでしたが、最近はコンピューター棋士のほうが強くなってきて、AI脅威論の文脈でも取り上げられることが多くなっています。

それにしても、実際のところ、ボードゲームの試合展開は何パターンくらいあるのでしょうか?将棋については、一局の平均手数が約115手で、各局面における可能な指し手が約80通りあると言われます。

この場合、局面ごとに80通りの指し方があって、それが115回繰り返されるので、全体として約80の115乗のパターンがあることになり、これは1の後に0が220個続く大きさ(10の220乗)に相当します。

ちなみに、将棋の天才として知られる羽生善治さんは、一つの局面 について打ち方の候補が80手ほど頭に浮かび、そのうち大部分を瞬時に切り捨て、最良と思われる2~3手について熟考した上で次の一手を決めるそうです。

80手から数手に絞るのは直感によるものだそうですが、恐らく膨大な局面のデータが脳内に蓄積されていて、有望な候補を瞬時に選別できるのでしょう。

 

コンピューターと人間の勝負の幕開け

ボードゲームにおける試合展開のパターンについて学問的に議論したのは、情報理論の父クロード・シャノンが最初だとされています。

彼は、1950年に書いた論文で、チェスを行うコンピューターについて考察しました。彼はまず、試合展開が何通りありうるかを試算しています。ある局面におけるチェスの駒の動かし方は30通りほどで、投了までに40手ほど指すという想定を置きました。

ここで注意ですが、将棋とチェスでは、差し手の数え方が違います。将棋では、先手が指して1手、後手が指して1手なので、2手で一巡になります。一方でチェスは、先手と後手が指して1手と数えるので、1手で一巡です。

ということは、1手毎に二人が指すので、チェスの40手は将棋でいうところの80手になります。ですので、全体のパターンは約30の80乗通り(およそ10の120乗)になります。ちなみに、この10の120乗は「シャノン数」と呼ばれています。

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コンピュータでも全局面を調べるのは不可能だった?!

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