ぬいぐるみ人気が加速中? “大人が持つことにも違和感がない”日本特有の文化
2025年05月22日 公開
お気に入りのぬいぐるみと過ごしたり、ぬいぐるみとお出かけをしたり、可愛い写真を撮ってみたり。子どもから大人までいろいろな形でぬいぐるみに親しむ人が増えています。なぜ私たちはぬいぐるみに癒やしを求めるのでしょうか。その背景にあるものとは?
キャラクタービジネスやぬいぐるみによるブランディングに詳しい法政大学教授の青木貞茂先生に聞きました。(text:Yuko Suzuki)
※本稿は、『nui nui nui! 大人だってぬいぐるみが好き!』(世界文化社)より内容を抜粋・編集したものです
不安が多い社会で心の安定を保つ拠り所

「日本ではぬいぐるみは子どもだけのものではなく、大人が持つことに特に違和感を持たない文化があります。これは日本に古くから、あらゆるものに魂や霊が宿ると考える、『アニミズム』という信仰があるからで、海外ではまず考えられないような文化です。
江戸時代の頃から、妖怪などの絵草紙が流行っていたりと、架空のものを愛す文化が根付いており、私たちはぬいぐるみを可愛がる気持ちが芽生える環境にいるのです。ただ、高度経済成長期やバブル期など終身雇用が前提の時代には、今のようにぬいぐるみは必要とされていませんでした。
景気が良く、企業が雇用を守ってくれた時代から、雇用が不安定な時代になり、リスキリングを求められるなど、不安を抱えながら自身のキャリアを作って生きていかなければならなくなっています。そんな日々のなかで自分の心の安定を保つためには、安心できるシェルターが必要。それを担うのがぬいぐるみなのです」
硬い人形ではなく、ぬいぐるみ。ふわふわ柔らかく、丸みがあって慈しみたくなる存在です。「ぬいぐるみには動物的な愛らしさがあり、可愛いと感じるのは本能でしょう」と青木先生。
「ぬいぐるみはペットや人間のように病気をしないし、死ぬこともない。安心して愛することができるというのも、ぬいぐるみをそばに置きたくなる理由のひとつだと思います」
ぬいぐるみは自分を守る小さな守護神

アスリートや役者などがぬいぐるみ好きを公言することも増えました。厳しい世界で活躍する一流の人たちがぬいぐるみを可愛がるのは、なんだか少し意外に感じます。
「アスリートは明日の保証がなく、戦って成果を出さなければなりません。怪我をしたら大変です。そんな過酷な状況のなかでぬいぐるみをそばに置いているのは、心を落ち着かせてくれる存在だからでしょう。一種の精神安定剤であり、一番のパートナーとも言えますね。
抱きしめると安心でき、ふっと見ると目が合った気もしてくる。そんなぬいぐるみと過ごしていると、『自分のことを見守っていてくれる』と思えてくるのではないでしょうか。ぬいぐるみは人間が社会で暮らすうえで、自分を保ちながら生きていくための大きな知恵なのです」
ぬいぐるみ収集歴50年という大のぬいぐるみ好きの青木先生。持っていると安心し、自分を守ってくれるぬいぐるみは"小さな守護神"のようです。
「近年特に、大人のぬいぐるみ好きが増えてきましたが、これからの時代、ぬいぐるみに癒やしを求める人はもっと増えていくと思いますね。ぬいぐるみを愛でることは、現代社会を生きる我々にとって、より一層かけがえのない支えになってくると思います」
【青木貞茂(あおき・さだしげ)】
立教大学経済学部卒業後、広告代理店に勤務。同志社大学社会学部教授などを歴任し、2013年
4月より現職。日本広告学会理事。著書に『キャラクター・パワー』(NHK出版新書)など。







