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心理カウンセラーが教える「不安を抑える」4つの方法

下園壮太(心理カウンセラー)

2025年02月28日 公開

心理カウンセラーが教える「不安を抑える」4つの方法

ささいなことが気になり、考えれば考えるほどネガティブな気持ちが膨らんでいく......。そんなモヤモヤした不安を手放すには、どうすればいいのでしょうか。心理カウンセラーの下園壮太さんが解説します。(取材・文:洪愛舜)

※本稿は、『PHPスペシャル』2025年3月号より内容を抜粋・編集したものです。

 

将来を予測する力は、不安から生まれる

人は本来、弱い生き物です。外敵から身を守るための硬い皮膚や牙を持っているわけでもなく、速く走れるわけでもありません。そんな弱い体しか持たない人間は、将来を予測して、予防線を張ることで生き延びてきました。

将来を予測する力は、「不安」から生まれます。「猛獣のフンを見つけたから、この道は通らないようにしよう」「あの岩が落ちてくるかもしれないから、住居の場所を変えよう」など、不安に思う力があるからこそ、危険を回避するための対策を講じることができるのです。

 

弱っているときほど、不安を抱えやすい

不安を感じやすいかどうかは、自分の状態によって変わってきます。

たとえば、ニワトリに襲われるかもしれないとき、通常であれば、逃げてしまえば問題ありません。しかし、足を骨折していたとしたら、どうでしょうか。その場からすぐに逃げることができず、つつかれる危険があります。

つまり、自分が弱っているときは、普段よりも予測すべき危険が増えてしまうのです。いつもは不安に思わないようなことも「なんとなく不安」に感じてしまうようになります。

 

「プチ楽観主義」を目指そう

どの程度のことに不安を感じるかは、人によって異なります。「不安がり」のレベルを、10段階でイメージしてみましょう。極端に不安がる人をレベル10、超楽観主義な人をレベル1とすれば、あなたはどのレベルでしょうか?

もし、不安レベルが8だったとしても、レベル1を目指さなければならないわけではありません。レベルを2つほど下げるだけで、気持ちがやわらぐはずです。不必要な不安で心を消耗せずにすむように、「プチ楽観主義」を目指していきましょう。

 

不安が膨らむ成長プロセス

不安は、次のようなプロセスをたどって成長していきます。このプロセスを知り、自分の状態を客観的に捉えられるようになると、不安が広がるのを防ぐことができます。

 

①情報に触れて不安になる

現代社会には、不安をあおるような情報があふれています。不安は、危険を回避するためのセンサーです。触れた情報から自分に起こりうる危険を察知し、不安な気持ちになります。

 

②危険への意識が高まる

自分の過去に起きたことや、周囲の経験談から、①で察知した危険が実際に起こりうるかどうか、判断しようとします。リスクを見逃さないために、普段よりもシビアに情報を集めるため、危険に関する情報が目に留まりやすい傾向があります。

 

③不安が膨らむ

この時点で「危険はない」とわかれば不安は収まりますが、「危険」と判断される情報がたくさん入ってきたり、体調が良くないなど自分の状態が悪かったりすると、不安が大きくなります。それと同時に、「これはまちがいなく危険だ」と確信するようになります。

 

④考えすぎて疲れる

不安を感じているとき、人は情報を集めながら自分に危険がおよぶ可能性をシミュレーションし、対策を考え続けています。すると、だんだん疲れてきます。そこで考えるのをやめられたらいいのですが、不安が強いと多少の疲れは無視されがちです。そのせいで、どんどん疲れがたまっていきます。

 

⑤警戒心が強くなり引きこもる

疲れがたまると判断力が低下し、他のことへの警戒心も強まっていきます。すべてのことが億劫になり、行動するよりも引きこもることを選ぶようになるのです。また、疲労で生じたストレスから他者と距離をおいたり相手を過剰に攻撃したりして、人間関係が壊れることも。その結果、ますます引きこもるようになってしまいます。

 

⑥自信を失い、さらに不安になる

不安が高まって疲労の蓄積が進むと傷つきやすくなり、何でもネガティブに捉えて悩み込むようになります。他の人と比べて、「なんで自分だけこんなに不安なんだろう」とますます自信を失くし、生きていくこと全般に対して不安を抱くようになります。周囲の声も届きません。

 

⑦ヤケになって突発的な行動をとる

不安でたまった疲労が限界に近づくと、それまでは身がすくんでいた人でも、一か八かの行動に出ることがあります。突発的に仕事を辞める、離婚する、暴力的になる、犯罪やギャンブルに手を出すなど、自暴自棄な行動をとる人もいるので、注意が必要です。

 

●不安は徐々に膨らむ場合だけでなく、一気に膨らむこともあります。たとえば、プロセスの①から⑦まで、一晩で進む人もいます。

●不安に過剰にとらわれていると早い段階で気づけば、自分で回復することもできますが、⑤や⑥まで進むと自分や周りの人だけで回復させることが困難になってきます。その場合は、プロのカウンセラーの力を借りましょう。

 

「プチ楽観主義」になる4つのメソッド

不安を完全になくすことはできません。しかし、不安の拡大を抑えれば、心はずいぶんラクになります。そこで、「プチ楽観主義」になるための方法を紹介します。

 

①情報収集をしない

「なんとなく不安」を抱えているとき、人は情報を集めたくなります。なぜなら、「この不安が危険につながることはない」と確かめたいからです。

しかし、この状態の人はネガティブな情報に対して敏感になっているので、不安が危険につながることを示す情報ばかり集めてしまいます。情報を集めれば集めるほど不安が増すという悪いサイクルに入りがちなので、情報収集をいったんストップしましょう。

 

②睡眠で心身を休ませる

情報収集からいったん離れたら、疲労がたまった心身のケアをしましょう。最初に述べたように、疲れたり弱ったりしているときに、人は不安を感じやすくなります。疲労回復には、何よりも睡眠をとることが大切です。睡眠時間が足りていないと感じている人は、今よりもまず、1時間長く寝るようにしてみましょう。

通勤時に座れる電車に乗って寝る、昼食後に昼寝をするなどでもOK。睡眠の質を気にするよりも、睡眠時間を増やすことが大切です。睡眠をとることで、情報から離れられるというメリットもあります。

 

③努力するのをやめる

私たちは、「努力すれば、道は切り開ける」と教えられてきました。しかし、不安が高まっているときに、この信念を貫くのは危険です。なぜなら、これは裏返すと「うまくいかないのは努力が足りないせい」ということになるからです。本来であれば疲労回復のために休む必要がある状態でも、「努力をやめたら、もっと状況が悪くなるのでは?」という別の不安を抱えてしまい、休めなくなってしまいます。

「人生には、努力で切り開ける部分もあるが、そうではない部分も大きい」と捉え、他力に頼るといいでしょう。周りにいる人に力を借りる、ということだけでなく、「神頼み」や「運任せ」でもいいのです。

 

④呼吸で体をゆるめる

5分で心が軽くなる呼吸法を用いたエクササイズを紹介します。エクササイズをすると、何も状況は変わっていないはずなのに、なぜか心に余裕ができて、不安レベルが下がったと感じるはずです。不安にとらわれているときの心身は、緊張状態にあります。

しかし、呼吸によって緊張が解けると、脳は「リラックスしているし、たいした問題じゃないのかも」と認識するようになるのです。このように脳の捉え方が変われば、心の状態も変わります。

 

〈1〉 今、自分の中にある「不安なこと」をイメージする。一番不安が強い状態をレベル10、不安がない状態をレベル1とするなら、今の不安レベルは何かを考える。
〈2〉 「不安なこと」はいったん忘れ、「はーっ」と大きくため息をつく。
〈3〉 次に息を吸ってから、「ほー」と言いながらお腹を凹ませる。
〈4〉 〈2〉、〈3〉を5~6回、1分程度繰り返す。
〈5〉 「ふー」と軽く息を吐きながら、自分の体に意識を向ける。ボーッとする感じや、手先や足先がじわりとしびれる感じがあれば、リラックスできているのでOK。リラックスできていなければ、〈4〉を再度行なう。
〈6〉 リラックスした体の状態を意識しながら、最初にイメージした「不安なこと」をもう一度考えて、不安レベルが変化したかを確認する。

 

不安はあなたを守ってくれている

これまで不安を抑えるための方法を紹介してきましたが、ある程度の不安は必要なものです。最初に述べたように、人は生きるうえで不安によって危機を察知し、安全を確保しているからです。不安を感じないと、人はすぐに死んでしまうでしょう。つまり、不安はあなたを守ってくれているのです。

不安を抱いてしまう自分のことをダメだと思っている人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。まずは、不安を抱いている自分を認めてあげることから始めましょう。そのうえで、高くなってしまった「不安レベル」を生きやすいように調節して下げることが大切です。

今のあなたの不安レベルの高さは生まれつきのものではなく、恒久的に続くわけでもありません。過去の自分を思い返してみてください。もっと不安レベルが低かった頃もあるのではないでしょうか。不安をあまり感じていなかったときの自分をすぐに取り戻すのは難しいかもしれませんが、「不安レベルはその時々で変動し、下がることもある」と知るだけで、安心できるはずです。

ぜひ、不安と上手につきあいながら、不安レベルを下げる工夫を続けてみてください。より穏やかな毎日を送れるようになるでしょう。

 

著者紹介

下園壮太(しもぞの・そうた)

心理カウンセラー

NPO法人メンタルレスキュー協会理事長。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊初の心理幹部として、自衛隊員のメンタルヘルス教育やリーダーシップ育成、カウンセリングを手がける。退官後は、講演や研修を通してカウンセリング技術の普及に努める。『不安がりやさんの頭のいいゆるみ方』(さくら舎)など著書多数。

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