現代社会において、インターネットやSNSは私たちの生活に深く浸透しています。そこから溢れるように流れ込んでくる「他人の言葉」は、私たちの思考や行動にまで大きな影響を与えているのです。こうした情報洪水の時代の中で、他人の声に惑わされることなく、自分の人生を歩むためにはどうすれば良いのでしょうか?書籍『16歳からのリーダーシップ』より解説します。
※本稿は、一條和生,細田高広著『16歳からのリーダーシップ』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。
自分の声だけが聴こえない
1日にどれほどの情報を浴びているか、皆さんは考えたことはありますか? いつもの朝を思い返してください。起きてまずスマホを開く。天気予報、いくつものSNS、情報サイトに目を通す。そして出発の準備をしながら、場合によってはテレビをつける。
学校や職場に向かう途中ではいくつもの屋外広告の前を通り、バスや電車などの公共交通機関に乗れば音楽や映像をストリーミング再生する。ひょっとしたら本書を移動中に読んでいる方もいるかもしれません。朝の時間帯だけでも何種類ものメディアが登場します。私たちは日々、数えきれないほど膨大な情報に触れていることが分かります。
現代人が1日に受け取る情報は平安時代の一生分であり、江戸時代の1年分に匹敵すると指摘する人もいます。科学的な根拠は見当たりませんが、こうした説が広まっているのは、多くの人が情報に呑み込まれている、という感覚に共感するからではないでしょうか。
スマホをOFFにする時間をつくろう
現代の情報洪水の時代をつくりあげたのは、間違いなくインターネットです。かつてはテレビ局や新聞社、出版社などのメディアだけが情報発信の担い手でしたが、今では誰もが簡単に言葉も画像も映像も発信できるようになりました。これは表現の自由を推し進めるという点では、素晴らしいことです。しかし一方、私たちはあまりにもたくさんの「他人の言葉」にさらされることになりました。
何を信じるべきなのか、反対に何を疑うべきなのか。何をするのが正解なのか、間違いなのか。何を着るのがかわいいのか、かっこいいのか。どのレストランでどのメニューを頼むのが良いのか。どこで何をして、どんな写真を撮ると自慢できるのか。社会経済の大きなテーマから、日常の小さな意思決定まで「他人の言葉」を頼りに行動してはいないでしょうか?
これはよく考えるとこわいことです。皆さんはスマホを操って、世界中の情報を自由に取り入れていると信じているかもしれません。けれど客観的には、スマホというコントローラーに皆さんが操られているようにも見えるのです。
リーダーシップはまず、自分を自分で導くことから始まります。他人のおすすめに従うだけでなく、自分の人生を自分で考えて組み立てましょう。そのためには他の誰でもなく、自分の声をきちんと聴く時間が必要です。1日5分でも10分でも構いません。スマホをOFFする時間をつくってみましょう。
ほとんどの人が自分を知る必要を知らない
世界中でユニクロやGUを展開するファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長、柳井正さんと2023年のワールドベースボールクラシック(WBC)で日本代表の野球チーム、通称「侍ジャパン」を世界一に導いた栗山英樹さんの対談では、何より「自分を知る」ことの大切さが語られています。
世界一になるためにはどうすればいいか? という問いに対し、柳井さんは「生き方の問題だと思うので、こういうふうに生きるという生き方で覚悟して、それをやっていこうっていう、本気でそれをやろうという気持ちが必要だ」と語ります。世界一は本気で掴みたいと思わなければ不可能だというわけです。
それを受けて栗山さんも同調し「まず自分が本当に心の底からこうなりたいと思った瞬間に、何かやることも見えてきますし、こういう順番でやろうと出てきますよね」と応答します。そこから柳井さんは「ほとんどの人が自分を知る必要を知らない」とし「自分は何者でどこに行くのか。で、自分ってのはどういう人間でどういうとこが長所でどういうとこが短所で」ということを理解するべきだと主張しているのです。
この会話の流れは実に重要です。世界で勝つことを考えたら、世界のライバルを研究し、何をするべきかを見つけるところから始めたくなるものです。けれど実際に世界のトップで争う二人のリーダーは、世界や世間や他者を研究する前に「まず自分を知るのが大事」という点で合意しているのです。







