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疲労の蓄積が改善しない原因とは? 「無意識の緊張」がもたらす負の連鎖

中野崇(スポーツトレーナー)

2025年07月10日 公開

疲労の蓄積が改善しない原因とは? 「無意識の緊張」がもたらす負の連鎖

健康に気をつかっているのに、いつも疲れがとれない...多くの人が不調を感じると身体を鍛えなきゃと考える一方で、スポーツトレーナーの中野崇さんはそれは「思い込み」だと説明します。とくに40代からは力を抜くことが、身体を整える一番の方法になるといいます。

本稿では、中野さんの著書『40代からの脱力トレーニング』より、力みを生む原因、そして力みと心身の関係についてご紹介します。

※本稿は、中野崇著『40代からの脱力トレーニング』(大和書房)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

無意識の力みを生む「抗重力戦略」

本来はこのライン上に頭部・背骨、骨盤の各種重心が合致する状態が理想

基本的に、人間の身体は首、肩の上部、大胸筋、腰、前モモ、中殿筋(骨盤と股関節をつなぐお尻の筋肉)、外モモが緊張しやすい構造をしています。

とくに、デスクワークが多い方は首や肩の上部、腰が緊張を起こしやすいと思います。なぜ、これらの部位が緊張を起こしやすいのか、もう少し詳しく解説します。

私たちの身体には垂直方向、つまり頭から足へと縦方向に、常に重力という強い力がかかり続けています。頭の重さは成人で体重の約10%。それほど重いものを支えながら非常に不安定な二足支持で姿勢を保って移動するために、身体には緊張状態が求められているのです。

とりわけ、イスに座った状態では、股関節や足部などバランスを保持するのに協力してくれる部位が使えないため、骨盤と背骨だけで頭の重さを支える状態をつくらなければなりません(上図)。

頭の重心線が背骨の重心線(S字曲線の前後の振り幅の中央)を逸脱した瞬間、首や腰や肩の筋肉を使ってバランスを維持する必要が生じてしまいます。

これが力みの正体です。立位時の脚の緊張も含めて、肉体を緊張させることの根本は、重力に抗って姿勢を保持することにあります。

専門的には、これを「抗重力戦略」と言います。

私たちはそもそも力むほうが簡単なのです。二足歩行の獲得により、両手が自由になったことで知能 が発達し、高度な文明を築くことができたのは、歴史や生物の授業で学んだとおりです。

しかしそれと同時に、四足歩行のときには当然あった、バランスの安定を前提とした身体(とくに背骨)のしなやかな動きを手放すことになりました。

その結果、肩甲骨や背骨、股関節、そして足趾(足の指)、足裏の連動性が失われやすくなり、それを補うための身体の力みも生じやすくなったのです。

 

「無意識の緊張」が引き起こす「2つの弊害」

張力センサー感度低下と疲労の蓄積と力み・緊張発生の循環図

こうした「無意識の緊張」には、2つの弊害があります。

●「心身のセンサー」の感度が低下する

私たちの身体には、筋肉の伸び縮みや緊張状態、皮膚感覚、重心位置などといった、身体の状態を感覚として教えてくれるセンサーが備わっています。

筋肉内にある「張力センサー(筋紡錘)」、そして骨格に圧が加わったときにそれを検知する「圧センサー」で、これらを合わせて体性感覚と呼びます。

これらのセンサーが、重心が移動することによって身体に加わる感覚情報を検知し、小脳・大脳基底核が連携して「自分の状態」を割り出します。

たとえば、自分の腕や脚がどの方向に、どれぐらい伸ばされているのかは、目で直接見なくてもある程度わかるはずです。

日常の動きも含めて、私たちはこのセンサーからの信号を利用して動作を形づくっています(トップアスリートはこの精度が非常に高く、ほとんどの人がわからないぐらい小さな角度の違いを鋭敏に感じ取り、微調整できます)。

しかし、身体が緊張していたり、動くときに力みが生じやすい人は、これらのセンサーがうまく働きません。

重心位置の変化によって生じる筋の張力や骨にかかる圧の変化を検知する際に、力みから生じる張力情報が邪魔するからです。センサーの感度が低下すると、自分自身がどういう状態にあるかというフィードバックの精度が悪くなるので、おのずと身体の反応は鈍くなります。

さらに問題なのは、自分の状態が正確にわからなくなるので、姿勢が崩れていったり、肩コリや腰痛・膝痛などを誘発してしまうことです。

現代人の身体のトラブルの多くは、このようなセンサー感度の低下が背景にあり、疲労の蓄積や力み・緊張と影響しあうという循環関係にあります(上図)。

また、身体が緊張するということは、すなわち自律神経のうち交感神経が活発に働いている状態を意味します。

すぐに、副交感神経が優位な状態に切り替えられればいいのですが、現代社会ではどうしても交感神経が優位になりがちで、自律神経がどんどん疲弊していきます。

このような状態が続くと、疲労が蓄積し、身体を一定の状態に保つ機能であるホメオスタシスも低下して調子を崩すことになります。

●呼吸が浅くなり、さらに緊張する

ストレスにさらされている現代人は、さまざまな原因による緊張によって横隔膜や肋骨の動きが制限され、「呼吸が浅い状態」にあります。

浅い呼吸状態だと酸素を取り込む能力が低下して、疲労回復能力が落ちます。さらに、副呼吸筋といわれる肩や首の筋肉を使って呼吸しようとすることで、肩コリなどを引き起こします。

呼吸が浅い状態とは、簡単にいうと「気持ちよく深呼吸ができない状態」です。吐くときに吐ききれない感じや、吸うときに詰まる感じがあれば要注意です。

 

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