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社会

闇バイトになぜこんなに人が集まるのか? 心理学的に解明する「ネット人格」の正体

内藤誼人(心理学者)

2025年07月25日 公開

闇バイトになぜこんなに人が集まるのか? 心理学的に解明する「ネット人格」の正体

「誰でも短時間で稼げる」「即日高収入」など、なぜ誰もが怪しいと思う募集に引っかかってしまうのか?心理学者の内藤誼人さんは、理性的な人でも、インターネットをしているときには、別の人格になってしまうことが少なくなく、ネットの匿名性が人を大胆にさせ、こうした犯罪に巻き込まれるという。

※本稿は、内藤誼人『防犯心理学 心理学を使って最新犯罪を見極める!』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。

 

ネットで匿流(とくりゅう)に取り込まれないために注意するべきこと

最近できた言葉に、「匿流」というものがあります。
「匿名・流動型犯罪グループ」を略したもので、2023年7月に、警察庁がSNSを通じて募集する闇バイトなどで離合集散をくり返す集団と定義した組織犯罪の類型を指します。

匿流は高額報酬をエサにして人を集め、集めた人たちに特殊詐欺や強盗といった犯罪をさせたり、犯罪で得た金の受け渡しをさせたりします。そして、利用価値がなくなると容赦なく切り捨てます。

「できるだけ楽をしてお金を稼ぎたいなあ」と考えている人は、闇バイトなどの特殊詐欺に取り込まれてしまうリスクが高くなりますので注意してください。

普段は理性的な人でも、インターネットをしているときには、別の人格になってしまうことは少なくありません。いわゆる「ネット人格」です。

「段ボールを運ぶだけで5万円!」
「だれでも簡単に稼ぐことのできる高額バイト!」

このような募集の文章を見たとき、たいていの人は、「なんだか怪しい」と感じるのではないかと思うのですが、インターネットをしているときには、そういう理性的な判断ができなくなることがあります。

アメリカのウェスト・バージニア大学のキャサリン・クラーク=ゴードンは、インターネットをしているときには、人は大胆になりやすくなる現象を「オンライン脱抑制効果」と呼んでいます。脱抑制とは、理性によるセルフ・コントロールが効かなくなってしまっている状態のことを意味します。

インターネットをしているとき、私たちはセルフ・コントロールが効かなくなり、他の人を侮辱したり、罵倒したりしてしまうということもあるのですが、それは理性の働きが抑制されてしまっているからです。

こういう状態のときには、闇バイトの募集にもホイホイと飛びついてしまうかもしれません。インターネットをしているときには、絶えず「私の理性は弱くなっているかもしれないぞ」と自分を戒めるくらいの心構えをしていないと、いろいろな詐欺に引っかかりやすくなりますので注意してください。

 

匿流による空き巣、住居侵入、強盗に遭う確率をさげる

防犯対策に、やりすぎはありません。

ひとつだけ防犯対策をして安心するのではなく、念には念を入れて、ふたつでも、3つでも、複数の防犯対策を組み合わせてください。匿流による空き巣や強盗犯といったSNSやインターネットを駆使した犯罪グループでも、犯行前にターゲットにしている家を下見します。

そのときに、家に複数の防犯対策がしてあるとわかれば、犯行は困難と考えて諦めるはずです。そうすれば、犯罪に巻き込まれるリスクを大幅に減らすことができます。

アメリカにあるオハイオ州立大学のポール・ベルエアーは、複数の防犯対策をすればするほど、住居に侵入される被害を予防できることを明らかにしています。

ツーロック(2つの施錠)、警報装置をつける、番犬を飼う、近隣の監視サークルに参加してみる、などたくさんの防犯対策をとっている人ほど、住居侵入などの犯罪被害に遭わずにすんでいたのです。

防犯対策は、ひとつで安心してはいけません。
「私はしっかり戸締まりしているんだから大丈夫」と考えるのは危険です。玄関の鍵をかけるという習慣があっても、それだけで満足してはいけないのです。

アメリカのケンタッキー州にあるルイビル大学のリチャード・テュークスベリーも同じ結果を得ています。1513名の大学生に聞いたところ、複数の防犯対策をルーティンにしている人ほど、各種被害に遭いにくかったのです。

「念のため、カメラつきのインターホンを設置するか」
「庭先に、音が出る砂利を敷いてみるか」
「センサーつきのライトをいくつか設置してみるか」
「同じ自治会の人に声をかけて、みんなで見守り隊を作ってみようか」

臆病だと思われるかもしれませんが、自分の身を守るための防犯対策は、それこそなんでもやったほうがいいでしょう。そのほうが身の安全をしっかりと守ることができます。

自然災害についても同じことが言えます。大地震、大津波、大雨による土砂崩れなどに対する対策をしっかりしている人のほうが、かりに災害に巻き込まれてもパニックに陥らずにすみます。

なお、防犯対策についても、災害対策についても、自分で勝手にやるよりも、警察や政府が広報しているものを参考にするとよいでしょう。自分では気づかなかった情報なども知ることができますし、「なるほど、こういう対策もあるのだな」と準備の参考になることが少なくないからです。

著者紹介

内藤誼人(ないとう・よしひと)

心理学者/立正大学客員教授

慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。[有]アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ。その軽妙な心理分析には定評がある。『人は「暗示」で9割動く!』(だいわ文庫)など、心理に関する著書多数。

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