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「太ると疲れやすくなる」肥満を解消するために、必要な運動時間は?

加藤浩晃(デジタルハリウッド大学大学院特任教授)

2025年08月13日 公開

「太ると疲れやすくなる」肥満を解消するために、必要な運動時間は?

疲れにくい体づくりを目指す上で、肥満の解消は避けて通れない課題です。本稿では、基礎代謝を向上させ、体重を落とすために必要な運動のポイントを書籍『休養ベスト100』よりご紹介します。

※本稿は、加藤浩晃著『休養ベスト100 科学的根拠に基づく戦略的に休むスキル』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

代謝を上げる

太ると疲れやすくなる、と感じる人は多いですよね。余計な脂肪が重りとなるわけですから、当然といえば当然です。疲れやすくなると仕事のパフォーマンスにも影響してくるので、「ダイエットしなければ」と思う人もいるでしょう。

ダイエットの基本的な考え方は、食事で体に取り入れる摂取カロリーを、消費カロリーよりも減らすことです。しかし、食事さえ減らせば体重を減らせるかというと、そうではありません。

極端に食事を減らすと、「飢餓状態に陥った」と脳が判断して、体が省エネモードになってしまい、その結果むしろやせにくくなり、疲れやすい体になりかねません。

 

●ダイエットには消費カロリーを増やすことが不可欠

省エネモードというのは、飢餓状態を生き抜くために太古の人類が身に付けた能力です。食べ物が安定的に確保できなかった時代、摂取カロリーが低い時期が続くと、生存のためにエネルギー消費を極力抑えるようになるのです。

その名残りが飽食の時代を生きる現代人にもあるため、「食事だけを減らしてもやせにくい」ことになり、ダイエットの妨げになっているわけです。

また、省エネモードになると、体は筋肉を分解してエネルギー源にします。筋肉量が落ちると病気やけがをしやすくなるうえに、生命維持に必要なエネルギーである基礎代謝量も減るため、さらにやせにくい体になってしまいます。

基礎代謝は安静時の消費エネルギーに相当するもので、1日の総エネルギー消費量のうち6割を占めるともいわれています。肥満を解消して疲れにくい体をつくるには、体を動かして省エネモードを脱し、基礎代謝を上げることが大切なのです。

 

運動の消費カロリーを表す「メッツ」

では、どれぐらい運動すればいいのでしょうか。そのカギを握るのが、身体活動の強度を表す「メッツ」という単位です。安静時のエネルギー消費を1メッツとして、それぞれの身体活動がその何倍のエネルギー消費にあたるのかを数字で示します。

メッツは大まかに次のように考えるといいでしょう。

・家事(料理や洗濯)、家の中の移動 2メッツ
・ウォーキング 3~4メッツ
・速足のウォーキング 4~5メッツ
・ジョギング 6~7メッツ
・登山・階段上り 6~7メッツ
・水泳 6~8メッツ

メッツが大きいほどエネルギーの消費量は大きくなります。

しかし、そうした身体活動は長時間続けることはできません。一方、メッツの小さい身体活動は、エネルギー消費量が少ないものの、長時間続けることが可能です。

そこで、メッツと継続時間をかけることで、活動量である「メッツ・時」を算出します。例えば、水泳はウォーキングの2倍のメッツですから、1時間のウォーキングと30分間の水泳はほぼ同じ3~4メッツ・時のエネルギーを消費することが分かります。

厚生労働省によると、健康のためには3メッツ以上の身体活動を週に合計で23メッツ・時行うことが目安になるそうです。

例えば、ゆっくり1時間ウォーキングするのを週に6回行い、水泳1時間を週に1回行えば、合計で24メッツ・時となり、目安を超えます。

代謝を活性化するには、同じ強度の運動を続けるのではなく、多様な強度の運動をすることをおすすめします。高強度運動と低・中強度運動をバランスよく組み合わせることで基礎代謝の向上になると同時に、気分転換もできて長く続けることができるのです。

 

食後に運動して血糖値を下げる

健康診断や人間ドックで、「血糖値が高いですね。いずれ糖尿病予備軍になりますよ」と指摘された経験はないでしょうか。そんなふうに言われても、「どうせいつものこと」と何もしない人もいますが、血糖値が高い状態を放置すると、太りやすく、かつ疲れやすくなります。それだけでなく、深刻な病気のリスクにもつながります。

厚生労働省の調査によれば、現在、日本全国で糖尿病患者は約1000万人、糖尿病予備軍も約1000万人にのぼると推計されています。糖尿病は日本の国民病といってよいでしょう。

 

●食事をしてから1時間以内に運動を開始

食事によって血糖値が高くなると、本来ならインスリンというホルモンが分泌されて血糖値が調整されます。しかし、なんらかの理由でインスリンの分泌が低下したり、うまく働かなかったりすることで、血糖値が高い状態のまま推移してしまうことがあります。

血糖値が高いと指摘されたら、食事に注意しようと思うのが一般的でしょう。一方で、食事以外には体を動かすことも効果的です。運動をするとエネルギー源となるブドウ糖が筋肉で大量に消費されるため、血糖値が下がるのです。

血糖値のピークは食後1時間ほどなので、食事をしてから1時間以内に運動を開始すれば、食後の血糖値の上昇を抑えられます。理想は、1日3回毎食後に運動することです。

運動の種類は、ウォーキングやサイクリングのような有酸素運動がおすすめ。時間が長ければそれだけ多くの糖を消費できます。運動不足の人は、まずは食後に20分ほどウォーキングをするとよいでしょう。

運動をすることによって、食事によって上がった血糖値を下げることができるので、いわば運動によってインスリンの働きを補助することになります。さらに、そうした運動を継続して行うことで、インスリンの効きがよくなる体質へと変わっていくことも期待できます。

ウォーキングと合わせて筋トレを行うのも効果的です。筋トレで筋肉量が増えれば、それだけ筋肉の中で糖を消費する量が増えていきます。大きい筋肉が集まっている下半身をスクワットなどで鍛えるのがより効果的でしょう。

 

【加藤浩晃(かとう・ひろあき)】
デジタルハリウッド大学大学院特任教授。東京科学大学医学部臨床教授。アイリス株式会社共同創業者・取締役副社長CSO。
2007年、浜松医科大学卒業。眼科専門医として1500件以上の手術を執刀し、白内障手術器具や眼科遠隔医療サービスを開発。2016年、厚生労働省医政局研究開発振興課に勤務。2017年、AI医療機器開発企業であるアイリス株式会社を共同創業し、取締役副社長兼CSO(最高戦略責任者)に就任。2021年、一橋ビジネススクールにてMBA取得。医療現場、医療制度、ビジネスという3つの領域を経験し、横断的に理解することで医療領域全般の新規事業開発支援を行う。大企業やベンチャーの顧問・アドバイザー・取締役も務める。著書に『医療4.0』『医療4.0実践編』(いずれも日経BP)、編著に『医療×起業』『デジタルヘルストレンド』(いずれもメディカ出版)など多数。

 

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