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“長時間座ったまま”はうつ病リスクも? 脳を活性化させる「立つだけの運動習慣」

西多昌規(精神科医)

2023年01月11日 公開

“長時間座ったまま”はうつ病リスクも? 脳を活性化させる「立つだけの運動習慣」

人が嫌な記憶ばかりを覚えている原因は、脳の仕組みにあります。脳について理解すれば、嫌な経験の処理方法が見えてきます。「引きずらない方法」を、精神科医の西多昌規さんが紹介します。

※本稿は、西多昌規著『引きずらない人の習慣』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集したものです。

 

人が「イヤなことだけをよく覚えている」わけ

人間は、良かったことやうまくいったことはすぐに忘れてしまいますが、つらいことや恐怖に満ちた経験は、なかなか忘れないようにつくられています。これは、「大脳辺縁系」という、人間の脳にある動物的なもののなせるわざです。

人間の脳は、ざっくり分けると「大脳皮質」と「大脳辺縁系」に二分されます。大脳皮質とは、わかりやすく言えば脳の表面のしわしわの部分で、思考や判断、倫理的な問題など、人間ならではの高次なはたらきをつかさどります。

大脳皮質の奥のほうには、大脳辺縁系と呼ばれる部分があります。大脳辺縁系には、記憶の貯蔵庫と言われる海馬や、感情の発信源である扁桃体などが含まれます。大脳辺縁系は、いわば動物的・本能的なはたらきに関わっています。

「イヤなことだけをよく覚えている」わけは、この大脳辺縁系に秘密があります。

大脳辺縁系の一部である扁桃体を手術で取り去ったサルは、コブラやライオンなど自分より強い敵にも、平気で近づいてしまいます。恐怖や不安を感じて、ちゃんと覚えておくことは、生物の生き残りのためにも絶対に必要なことなのです。

わたしたち人間も、もしも恐ろしい修羅場や不愉快な経験を、すべて忘れてしまうことができればラクかもしれません。ところが、それでは同じ危険な状況を迎えたときにも、サルがライオンに近づいてしまうように、危険であるとわからずに対処に失敗してしまうかもしれないのです。

 

大脳皮質を鍛えていくのが、人間らしい解決方法

動物の生存競争では、99回成功しても、1回の失敗が命取りです。敵に対する恐怖を、先祖代々受け継いでいかなければ、絶滅してしまいます。人間も動物の一種である以上、そのようなDNAを受け継いでいるわけです。

「どうして自分はイヤなことをくよくよ引きずるんだろう」「良い方向に考えるようにしているんだけどなぁ」と悩んでいる人には朗報です。人間の脳は、もともとそのようにできているわけですから。イヤなことを忘れないのは、人間が生きていくうえで不可欠なのです。

人間が動物と異なるのは、「大脳皮質」が発達していることです。大脳皮質は、大脳辺縁系とまったく無縁なわけではなく、神経細胞の枝を通して緊密に結びついています。

動物は、イヤなことが脳にあらかじめインプットされています。ライオンにおいそれと近づいていくシマウマがいないようにです。

ところが、人間にはシマウマのような生存の危機はありません。安定が確保されているため、不必要に過去のことを振り返る「余裕」があるのも、「引きずる」理由の1つでしょう。生きるうえでの必要な機能が、人間の社会環境では、逆に生きづらさの原因になってしまったのです。

「引きずらない」あるいは「引きずりにくく」なるには、この大脳皮質を鍛えていくのが、人間らしい解決方法です。

この方法には、食事や運動、睡眠などの生活習慣の見直し、コミュニケーションや考え方のトレーニング、おしゃべりや相談相手を見つけるなど、幅広く多くの内容が含まれます。

「イヤなことがなかなか忘れられない」のは、人間に本来備わっている自然なことです。それを受け入れて、イヤな経験の処理方法、すなわち「引きずらない方法」を考えていきましょう。

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