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「もっと自分に自信を持って」 無自覚のうちに相手に合わせてしまう人の特徴

若山和樹(臨床心理士・公認心理師)

2025年08月21日 公開

「もっと自分に自信を持って」 無自覚のうちに相手に合わせてしまう人の特徴

「自他境界」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 

自他境界とは、自分と他者の範囲を分ける境界線のことで、健全な人間関係を築くために重要な概念です。「いつもまわりの人に振り回される」「断るのが苦手で仕事を抱えてしまう」といった悩みも、自他境界の観点から説明することができます。

本記事ではそんな悩みを抱えやすい「迎合タイプ」の境界線の特徴について、公認心理師・臨床心理士の若山和樹氏が解説します。

※本稿は『振り回されるのはやめるって決めた 「わたし」を生きるための自他境界 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。

 

自他境界と4つのタイプ

自他境界とは、「こころと身体の領域における、ここまでが自分の範囲で、そこから先が自分でないもの(他者)の範囲であることを示す境界線」を意味する言葉です。

自他境界がきちんと機能していると、私たちは人とのつながりのなかで「個人の幸福」と「健全な人間関係」を同時にかなえられます。反対に、私たちが対人関係で何か苦しかったり、困ったりしたとき、そのほとんどで自分と他者の間の境界線に何らかの問題が生じていると考えることができます。

問題のある境界線は、大きく4つのタイプ(迎合タイプ、回避タイプ、支配タイプ、無反応タイプ)に分類できます。

本記事では、「いつもまわりの人に振り回される」「断るのが苦手で仕事を抱えてしまう」といった悩みを抱えやすい、迎合タイプの特徴について見ていきましょう。

 

「いや」と言えない迎合タイプの境界線:美奈子さんの例

会社員の美奈子さんは、生活のさまざまな場面で過度に相手に合わせてしまい、断ることや自分の意見を伝えることが苦手で悩んでいます。

【友人関係】
友人関係は基本的に良好で、休日や仕事終わりによく遊びに行くのですが、次のようなことが起きてしまいます。

・忙しくても、友人から誘われると予定を入れてしまい、十分に休息する時間がとれない
・興味のない場でも楽しそうに振る舞えるが、結局参加したことを後悔する
・押しの強い性格の友人から、旅行の計画などを押し付けられるが、何も言えず、宿やレンタカーの手配などを毎回引き受けてしまう
・自分のやりたいことや行きたいところを提案するのが苦手で、事前に友人が希望しそうなものを調べ、それを自分で思いついたかのように提案する
・会話が途切れると、相手が自分といても楽しくないのではと不安になる

【職場・仕事関係】
職場では真面目で責任感の強い性格で、周囲から頼りにされることも多いのですが、その一方で次のようなことに悩んでいます。

・上司や同僚から仕事を頼まれると、忙しくても断れずに引き受けてしまう
・仕事の依頼を断ることもあるが、相手を失望させてしまったのではないかと不安になる
・会議やミーティングで自分の意見を求められると、なんと答えればいいかわからない

【恋愛関係】
恋愛はあまりうまくいかず、いつも次のようなことを繰り返してしまいます。

・自己中心的な相手とばかり交際してしまい、毎回振り回される
・嫌われたくないと思うがあまり、不満に思うことがあっても口にできない

【家族関係】
家族仲は基本的に良好ですが、それでも次のようなことが起こります。

・親の期待に応えられているか、不安になる
・親の好みや意見とは違うことを考えると、後ろめたい気持ちになる

こうした悩みを相談したこともあるのですが、そのたびに「いやならいやと言っていいんだよ」「もっと自分に自信を持って」とアドバイスされます。そこでがんばって今度こそは断ろうと思うのですが、なかなかうまくいきません。そして断れない自分が悪いのだと、結局は自分を責めてしまうのです。

 

迎合タイプの境界線の特徴

美奈子さんの境界線のタイプは、「迎合」と呼ばれます。
迎合タイプの人の境界線はあいまいなため、自分の考えや意志など、境界線の内側のものが他人のものと混ざり合ってしまうのです。

そうなると、相手が考えや意志などを押し付けてきたときに「いや」「だめ」と言うことができません。その結果、本来は自分のために使わなくてはいけない力を、相手のために使うことになってしまうのです。

迎合タイプの境界線の持ち主に起きやすい問題としては、次のようなものがあります。

・頼まれたことを断るのが難しく、ついなんでも引き受けてしまう
・他人のために自分の時間やエネルギーを費やし、自分を犠牲にしてしまう
・自分の考えよりも他人の意見を優先し、あっさり意見を変えてしまう
・不公平な状況や待遇を受け入れてしまい、抗議しない
・他人の期待に応えようとしすぎて、自分を追い込んでしまう

これらは、他者からの境界線の侵害に対して「いや」と言えないことが原因で起こる問題です。もちろん、大切な人が困っているときに、すべて「いや」「だめ」と断るのがよいわけではありません。

しかし、迎合タイプの人たちは、自分がほしいもの(ニーズ)を優先しなくてはいけないときでも、それを後回しにして相手のほしいものを優先してしまいます。

また、自分のために力を使うことが苦手で、相手のために力を使うことが得意です。もちろんそれ自体は悪いことではないのですが、問題は、自分を後回しにしすぎてしまうことなのです。

迎合タイプの人は、ほとんど無自覚のうちに相手に合わせてしまいます。気づかないうちに自分の気持ちや意思は後回しになり、本心では抵抗があることでも、その場では「わかった」「大丈夫」と答えてしまうのです。しばらく時間が経って、ようやく本当は断りたかったと気づいたときには、訂正するのがとても難しく感じられ、結局は我慢したり、自分でなんとかしようとするしかなくなってしまうのです。

無自覚のうちに相手に合わせてしまうため、パワハラやモラハラといった危険な関係に陥りやすく、気づいたときにはすでに手遅れとなることもめずらしくありません。人間関係は表面的には良好に見えても、実のところ本人は本心を話せないために孤独を感じていたり、あるいは罪悪感や恨みを抱えたりすることもあります。

自分に自信がないため、妥協するのが苦手で、ついついやりすぎて疲れ果ててしまう傾向もよく見られます。

また、意見の対立や葛藤を避けることで、問題解決力や交渉力、あるいはうまくいかないときに他者に協力や助けを求めるスキルが不足してしまうこともあります。

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