相手の期待に応えようとしたり、自分より他人を優先したりするのはすばらしいこと。でも、いきすぎると自分の本当の気持ちを見失ってしまうことに。「ゆるやかな境界線」を意識した関係づくりを心がけてみませんか?
※本稿は、『PHPスペシャル』2021年7月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「振り回される人」はコミュニケーションが相手本位になりすぎている
困っている人がいたら助けてあげたい、誰かのためになることをしたいという気持ちは誰しも持っているものです。
ゴリラ研究の第一人者で知られる京都大学の山極壽一先生によれば「霊長類の中で赤の他人に食べ物をあげる動物は人間だけ」だそうなのです。利他的な行動は人間の本質とも言えるものかもしれません。
しかし、利他的な行動が度を超えてしまうと身を滅ぼすことになります。誰かのためにがんばりすぎて疲弊し、「振り回されている」と感じている人は、次のような特徴があります。
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□他人が怒っていたり、困っていたりすることに、とても敏感
□困っている人のサポートが上手
□自分の都合は後回しにする
□とても我慢強く、自分の不平不満はあまり表立って表現しない
□コミュニケーションがうまくいかないと、自分の何が悪かったのかと心配になる
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まさに「ものすごくいい人」という感じですが、コミュニケーションが相手本位になりすぎて、気がつくと関係が不平等になっている、という結果を招くことも多いのです。こうした特徴を理解するために知っておいてほしいのが、「過剰適応」と「境界線」というワードです。
人の欲求に応えてばかりの「過剰適応」タイプ
まずは「過剰適応」について説明します。心理学の世界には、外的適応と内的適応という二つの「適応」が存在します。
外的適応とは、社会的な要求に応えて行動している状態のことです。いわゆる「職務をまっとうしている」状態で、自分の心理状態のことは問いません。
内的適応とは、自分の気持ちが満たされている状態です。自分自身が、いまの内的な心の状態に納得できている状態を指します。そして過剰適応とは、外的適応はできているけれど、内的適応はできていない状態のことです。
要は「他人の欲求」>「自分の欲求」という状態のことです。周りの環境に配慮して、他者と調和することを重視しすぎて、常に気を張っている状態なので、精神的にとても消耗しやすいのです。
そういう状態がずっと続くと、人は必ず心身の調子を崩すようにできています。砂漠にいて自分が脱水症寸前なのに、自分の飲み水を一切口にせずに他人にばかりあげているようなものだからです。
自分の喉の渇きを癒やすことを後回しにするので、次第に「自分の欲求」もわからなくなってしまいます。
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他人と自分の間に必要な「境界線」があいまいなタイプ