作家のハル・エルロッドの人生には、二度の大きな“どん底”があった。
一度目は、飲酒運転の車との衝突事故。昏睡状態から目覚め、「二度と歩けないかもしれない」と宣告された。
二度目は、2008年のリーマンショック。順調だったビジネスは一夜で崩れ、買ったばかりの家のローンも払えなくなった。愛や支えはなく、孤独の中で自殺を考える日々が続いた。
それでも彼は立ち上がり、その経験を「モーニングメソッド」として体系化した。
本稿では、彼が"どん底"をどう乗り越えたのか、その瞬間を紹介する。
※本記事は、ハル・エルロッド 著、鹿田昌美 訳『[新版]人生を変えるモーニングメソッド』(大和書房)の一部を再編集したものです
人生を変えたランニング
ある朝、すべてが変わった。
それまでの数週間と同じように鬱々とした気分で目を覚ました僕は、いつもと違う行動に出た。友人のアドバイスを受けて、頭をすっきりさせるために走りに出かけたのだ。
僕は走るのが苦手だ。
とくに目的もなく、「ただ走るためだけに走る」なんて、大嫌いなことの代表格だった。
しかし、人生の行き詰まりの辛さから長年の友人であるジョン・バーグホフに電話すると、彼は第一声で「毎日運動しているか?」と尋ねてきたのだ。
戸惑いを感じながら、僕はこう答えた。
「運動とお金がないことに、何の関係があるんだ?」
「大いに関係があるよ」
ジョンは、ストレスを感じたり悩んだりしたときは、ランニングに行くと思考がクリアになり、気持ちが高揚し、解決策を思いつきやすくなると言った。
僕はジョンに「走るのは嫌いなんだ。他にできることはない?」と言った。
するとジョンが、ためらうことなく言い返した。
「どっちのほうが嫌いなんだ? 走るのと、現状の人生と」
痛い。わかったよ。失うものは何もない。走ろうと決めた。
翌朝、ナイキのエアジョーダンのバスケットシューズ(これしか持っていない)のひもを締めて、ポジティブな言葉を聴くためのiPod を手に、間もなく銀行に差し押さえられるであろう我が家を後にした。まさか初めてのランニング中に、人生の方向性をがらりと変える名言を聞くことになるとは思いもしなかった。
ジム・ローンのオーディオブックに耳を傾けていると、前に聞いたときにはピンとこなかった言葉にハッとさせられた。あなたにも経験がないだろうか。何度聞いても消化できなかった言葉が、ある日突然腑に落ちる瞬間。
心のスイッチが正しく入っていなければ、理解できない教えというのが存在する。そして、その朝の僕は、心のスイッチが正しく入っていた(つまり絶望していた)ので、すとんと理解できたのだ。
あなたの成功のレベルが人間としての成長のレベルを超えることはめったにない。なぜなら成功は、あなたの人間としてのレベルが引き寄せるものだからだ。
ジムのこの言葉を聞いたとき、僕はランニングの足を止めた。
巻き戻して、もう一度再生した。
「あなたの成功のレベルが人間としての成長のレベルを超えることはめったにない。なぜなら成功は、あなたの人間としてのレベルが引き寄せるものだからだ」
現実が大波のように押し寄せてきて、今の自分が、自分が望むレベルの成功を引き寄せ、手に入れ、維持するだけの人間に成長できていないことに気づいた。
10点満点のスケールで、10点の成功を望んでいるのに、人間としてのレベルはせいぜい2点―調子がいい日でもせいぜい3点か4点だ。
突然の気づきだった。
僕の問題やうつの原因は、事業の失敗と、十分なお金がないことなど、外部にあるように見えたが、解決策は内部にあったのだ。
10点満点の人生を送りたければ、まずは自分がその人生を創り出せる10点満点の人間になる必要がある。
これがほとんどの人々が抱える「ギャップ」なのだと、僕は気がついた。
誰でも、健康、幸福、人間関係、メンタル、経済的安定など、人生のあらゆる分野で10点満点の成功を望むはずだ。それ未満で妥協したい人はいない。なのに、その人生を創造するのにふさわしい人間を目指して継続的に努力をしている人は、かなりの少数派だ。
そして当時の僕にも、そんな習慣がなかった。
僕に必要だったのは、自分が望む人生を送るに値する人間になるために、毎日、自分を成長させることに時間を割くことだったのだ。
僕は急いで家に走って帰った。
人生を変える準備はできていた。
新しいことを始めるのに最適な時間は?
自分を磨く努力を優先することが、ほとんどの問題の解決策であることは理解できた。
とてもシンプルなことだ。
そうわかったものの、僕は誰もが直面する壁に突き当たった―時間を確保することだ。
日々を乗り切るだけですでに忙しくてぎゅうぎゅうだったので、「余分な」時間を見つけるのは、人生に不要なストレスを加えることになるように思えた。
ベストセラー作家のマシュー・ケリーは、著書『The Rhythm of Life』(未邦訳)にこう書いている。
誰でも幸せになりたい。どうすれば幸せになれるかを知っている。
なのに実行に移さない。
どうして?
理由はシンプルだ。
忙しすぎるからだ。
忙しすぎて、何ができない?
忙しすぎて、幸せになる努力ができないのだ。
スケジュール帳を片手にソファに座って、時間を探した。日々、人間として成長するための時間を。次の選択肢が頭に浮かんだ。
夜はどうだろう?
最初に思ったのは、夜なら時間を捻出できそうだということ。仕事が終わった後か、もっと遅い時間、婚約者が眠った後はどうだろう。しかし、平日に彼女と一緒に過ごせる時間は夜しかないし、長時間仕事をした後は心身ともに疲れていて、ひたすらリラックスしたい気分になる。頭がぼんやりしていては、成長のために最適な状態とはいえない。夜は難しいだろう。
午後ならできそうか?
日中に予定を入れてもいいかもしれない。終わりのないToDoリストの真ん中あたりに、少し時間を差し込めないか? しかし、具体的に考えると現実的ではなかった。やっぱり午後も無理だ。
じゃあ朝はどうか―。
いや、無理だ。僕は「朝型人間」ではない。朝起きるのがイヤでイヤで、早起きなんて、ランニングと同じぐらい大嫌いなのだ。
でも、考えれば考えるほど、「朝がふさわしい理由」が見えてきた。毎日、自分を成長させるための儀式で1日をスタートすれば、1日の終わりまでずっと良い精神状態でいられるだろう。
目覚めてから1時間の行動が怠慢で無計画なら、終日だらだらと集中力に欠けた過ごし方をしてしまいがちだ。しかし、最初の1時間を最大限に活用しようと力を注いだ日は、勢いが最後まで持続するものだ。
また、朝に自己研鑽に時間を使うと決めれば逃げられない。
後回しにすればするほど「疲れた」「時間がない」など、言い訳ができるが、朝の、他の計画や仕事に邪魔されないうちにやってしまえるなら、毎日続けられるのではないか。
朝が明らかに最良の選択肢だ。
でも、毎日必要にかられて6時にベッドから出るだけでも辛い僕が、自主的にさらに1時間早く起きるなんて考えられない......スケジュール帳を閉じて忘れようと思ったときに、僕のメンターであるケビン・ブレイシーの言葉を思い出した。
人生を変えたいなら、まずはいつもと違うことを実行しなさい。
わかっている。ケビンが正しいことはわかっていた。
僕は「朝型人間」ではないという、長年の思い込みを克服することに決め、翌日のスケジュール欄に「朝5時起床」と書き込んだ。
![[新版]人生を変えるモーニングメソッド 自由に機嫌よく生きている人が、毎朝していること。](/userfiles/images/book2/9784479798286.jpg)






