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ドラッカーが説く「使命感」とは何か

2013年01月15日 公開

上田惇生 (ドラッカー翻訳家、ものつくり大学名誉教授)

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年1・2月号Vol.9[特集]使命感に生きる より》

めまぐるしく変転する世界。ともすれば私たちは、何をよりどころとして行動してよいのか分からなくなりがちだ。そうした混迷の中で、たしかな社会の潮流をとらえ、“マネジメント”を通じて個人にも組織にも明日を生きるヒントを与えてくれるのがピーター・F・ドラッカーだ。ドラッカーの訳者として、日本での分身ともいわれる上田惇生氏に、ドラッカーが説く使命感のあり方を語っていただいた。

聞き手:渡邊祐介(本誌編集長) /写真:永井浩

ピーターF.ドラッカー(Peter F. Drusker)
1909年11月19日~2005年11月11日
政治、行政、経済、経営、歴史、哲学、文学、美術、教育、自己実現など、カバーする領域は多方面にわたり、現代社会を読み解く最高の哲人とされる。東西冷戦の終結や知識社会の到来をいち早く知らせるとともに、「分権化」「自己目標管理」「民営化」「ベンチマーキング」「コア・コンピタンス」など、マネジメントの主な概念と手法を生み、発展させた。その膨大な著作群は、「ドラッカー山脈」と呼ばれる。
 

使命感の存在意義

──ドラッカーは人の行動を後押ししてくれる、といつも先生はおっしゃっていますね。

 そう。財とサービスの提供を通じて国や社会をよくすること、そのために組織や会社をよくすること、そのために個人が力を発揮して生きていくこと、この3つのレベルの話は、不思議なことにドラッカーの考え方では同じ組み立てです。

 だから個人、組織、社会全体、いずれも行動の主体になりうる。特に東日本大震災で大きな痛手を受けた今の日本の場合、社会全体が主体となって行動できるかどうかが問われているのではないでしょうか。

──まったくです。

 社会全体で悲しみを乗り越えて、さまざまなものを創造する努力をして、震災前の日本よりもいい国になれば世界のモデルになります。

 ドラッカーは、行動には3つの要素が整っていなければならないと言いました。

 まず、今どういう状況にあるのかを知らなければなりません。状況に合わない行動をしたって、実りは豊かにならない。

 次に大切な要素は、使命感を持っていること。一人ひとりの血のかよった感覚として、使命感を持てばワクワクする仕事ができます。

 そして最後はみずからの強みを知ること。1つは実績から分かる強み。もう1つはフィードバックされる情報から分かる強みです。「わが社の強みは何か?」、あるいは「おれのいいところは何だろう」と、他人から聞いて強みを知ればたいへん有効です。

──もし使命感というものがなければどうなるのでしょうか。

「あの会社にして、こんなことが」というケースがありますが、使命感が欠落していたということでしょう。

 ドラッカーの言葉の中に、「共通する使命感のもとに成果をあげる。そのための道具がマネジメントだ」という言葉があります。状況を的確に把握し、自分の強みを知っていながら使命感がなかったらどうなるか。むしろとんでもないことになるでしょう。
 

 状況把握の大切さ

 ──状況把握に対する、ドラッカーの基本の考え方とは何でしょうか。

 世界観でしょう。世界は複雑で大きく変化してやまない、そして、元には戻らない。すべてのものはどんどん陳腐化していく、それが現実です。 

 その複雑に絡まった世界を因果関係と定量化によってきれいにさばけると言ったのが、デカルトです。彼からモダン(近代合理主義)のパラダイムというのが始まりました。

 しかし、20世紀になったら、早くもそうとはいえないことが分かってきた。バタフライエフェクト(「アマゾンでの蝶の羽ばたきがシカゴで雨を降らせる可能性は否定できない」に由来する)ですよ。何が何へ影響をもたらすか分からない、あらゆるものがあらゆるものに関係している。それがポストモダンのパラダイムです。

 すべてのことが論理的に解明できると考えていたら、状況把握は間違ってしまう。だから、世界観はもう今となってはポストモダンの世界観でなければならないんです。

──正しいと思いますが、異論を唱える人もいそうですね。

 いますよ。しかもモダンなパラダイムで理解することにこだわる人はエビデンス(証拠至上)主義にいきやすい。ごく最近、「科学的にエビデンスのないものは、どのように興味を引く重要なものであろうと、私にとっては存在しないのと同じである」ということを堂々と論文に書いている経営学者がいるのを知って驚きました。こうした姿勢は大きな間違いに通じる。

 実際に、そういう信念に基づいて行動し、間違いを犯した例ってありますよ。先日、テレビ番組の「NHKアーカイブス」で紹介されていましたが、熊本の旧チッソ水俣工場長だったその人物は、ネコが狂ったように踊る現象と自社の工場排水とを結びつけるエビデンスはないとして放置したわけです。それで水俣病患者がどんどん増えてしまった。

 その人は、あとで自分はとんでもない過ちを犯したということで、自分の墓には戒名はいらないと、戒名なしのお墓を建てさせた。一つの例ですが、モダンのパラダイムに固執することは結局害をなすということになります。

──現実に対して柔軟でなければなりませんね。

 だからドラッカーは、「原因は何十年かのちに学者が明らかにするだろうが、行動する経営者としては待っていられないだろう。使えるもの、分かったことはどんどん使いなさい」と言う。

 それがドラッカーの考え方であり、正統な保守主義の考え方なんです。〝理論は現実に従う〟わけです。

 ☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の一部分を抜粋したものです。

 

上田惇生(うえだ・あつお)
ドラッカー翻訳家、ものつくり大学名誉教授
1938年生まれ。1964年慶應義塾大学経済学部卒業。経団連に入り、会長秘書、国際経済部次長、広報部長等を務める。その後、ものつくり大学教授を経て現職。立命館大学客員教授を兼ねる。P.F.ドラッカーの主要著作のすべてを翻訳。ドラッカー自身から最も親しい友人、日本での分身とされてきた。『プロフェッショナルの条件』ほかを編集。著書に『ドラッカー入門』『ドラッカー 時代を超える言葉』『P. F. ドラッカー完全ブックガイド』『決断の条件―マネジメント力を鍛える実践ケース50 』などがある。ドラッカー学会代表(2005〜2011)、同学術顧問(2012〜)。



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