学級閉鎖も続出...秋なのにインフル流行の原因はインバウンド? 医師が「もう冬の病気ではない」と指摘する理由
例年よりも早いインフルエンザの流行が各地で報告され、すでに学級閉鎖も発生しています。特に今年は残暑が長引く中での流行拡大となり、多くの保護者や教育現場が困惑しています。しかし、この異例の流行には地球規模での感染パターンの変化や、インバウンド観光客の増加といった複合的な要因が関わっているのです。本記事では、くぼたクリニック松戸五香 院長・窪田徹矢先生に、早期流行の背景から家庭でできる対策まで詳しく伺いました。(文・吉澤恵理)
コロナ禍で免疫持たない子ども増加、複合要因で早期流行
――今年はすでに流行が広がっており、学級閉鎖も起きています。なぜこのような状況になっているのでしょうか。
確かに今年は例年より早い時期から流行が見られています。その背景にはいくつかの要因があります。まず、海外ですでにインフルエンザが流行しており、国際的な人の往来を通じて日本に持ち込まれた可能性があります。
加えて、コロナ禍でのマスクや手洗いなどの感染対策が緩んだことで、ここ数年インフルエンザにかからず免疫を持たない子どもたちが増えていることも大きいですね。免疫がない集団にウイルスが入ると、一気に広がりやすくなります。
さらに、今年は残暑が長引き、屋内で冷房を使用する時間が増えました。冷房による乾燥はウイルスが生き残りやすく、のどや鼻の粘膜も乾燥して感染しやすい状態をつくります。こうした気候要因も流行拡大を後押ししたと考えられます。
これらの条件が重なった結果、学級閉鎖が出るほど早期に流行が拡大しているのだと見ています。
世界規模で常に流行、インバウンド増加で持ち込みリスク
――インバウンドが、インフルエンザ流行に影響していると言うことですか。
はい、十分に考えられます。いま世界では地域によって流行時期が大きく異なります。日本や欧米など温帯地域は冬にピークを迎えますが、南半球のオーストラリアやニュージーランドでは5~9月が流行期です。さらに、タイやフィリピンといった熱帯地域では年間を通じて流行が続き、雨季や乾季の切り替わりでピークを迎えることもあります。
つまり、世界規模で見るとインフルエンザは常にどこかで流行しているのです。そして国際的な人の移動が活発化すれば、海外で流行しているインフルエンザが日本に持ち込まれるリスクは必然的に高まります。
私たちは「冬になれば流行する」と構えていればよい時代ではなくなっています。インバウンドが増えた現在、流行は季節を待たずにやってくる可能性があります。そのことを強く意識し、ワクチンや感染対策を早めに準備することが重要です。
空港検疫で月25例検出、実際はさらに多い可能性
――実際に海外渡航者にインフルエンザの感染者が確認されているのでしょうか。
はい。空港検疫では毎月のようにインフルエンザ感染者が確認されています。例えば今年の7月には、A型インフルエンザH1pdm09が14例、H3が8例、さらにB型が3例、合計25例が検出されています。5月・6月にも10例前後が見つかっており、これは海外で流行している株が日本に持ち込まれている証拠です。
ただし、検疫時に無症状の人や、解熱鎮痛剤を服用して一時的に熱が下がっている人もいます。そのため、実際には確認されている数よりも多くの感染者が入国している可能性があると考えられます。
20人の感染者から指数関数的に拡大するリスク
――20人の感染者から、感染が拡大していくこともあるんでしょうか?
もちろんあります。インフルエンザは1人が平均して1~2人に感染させるとされる基本再生産数(R₀)を持っています。仮に20人の感染者が同時に存在した場合、それぞれが2人にうつせば次の世代で40人、その次は80人と、短期間で指数関数的に増えていきます。
特に学校や職場、イベント会場のように人が密集して過ごす環境では、一人の感染者から一度に多人数に広がるスーパースプレッダーのような現象も起こり得ます。20人規模の感染者集団が動けば、その地域全体で爆発的に流行するリスクがあるのです。
ですから、早期に感染者を見つけて休ませること、周囲の人がマスク・手洗い・換気を徹底することが、感染拡大を抑えるカギになります。
日本は薬物治療積極的、各国で異なる治療方針
――各国での治療や認識に違いはありますか?
日本ではタミフルやリレンザなど抗インフルエンザ薬を発症早期から積極的に使い、重症化予防を重視します。これは世界的に見ても珍しい特徴です。一方、欧米では「風邪の延長」「自然に治る病気」という認識が強く、薬は重症化リスクのある人に限って使用するのが一般的です。
オーストラリアやニュージーランドはワクチン接種率が高く、予防重視の姿勢が目立ちます。アジア各国では医療アクセスの差から、薬に頼らず自然経過で回復を待つケースも少なくありません。
国ごとの医療制度や文化の違いにより、インフルエンザへの向き合い方も変わります。グローバルに流行が巡回する時代においては、各国の特徴を学びながら、日本に合った最適な戦略をとることが求められます。
家庭でできる感染対策と早期受診の重要性
――最後に読者へのメッセージをお願いします。
インフルエンザは冬だけの病気ではなく、世界中で常に循環している感染症です。検疫で完全に防ぐことはできません。だからこそ、私たち一人ひとりができる予防策――ワクチン接種、手洗い、マスク、換気など――を日常的に実践することが、流行を抑える最大の鍵になります。
特に家庭では、帰宅後すぐの手洗い・うがいを習慣にすること、部屋の湿度を50〜60%に保つこと、十分な睡眠とバランスのとれた食事で体調を整えることが大切です。家族に発熱や咳などの症状が出た場合は、早めに医療機関を受診し、無理に登校・出勤させないことが感染拡大防止につながります。






