「お祝い金があるからお得」で「掛け捨ては損」 保険の選び方、それで大丈夫?
2025年10月28日 公開
保険には、満期になるとお金が戻ってくるタイプのものがあります。ほとんどお金が返ってこない「掛け捨て」と比べると、「お得」なように感じますが、はたして本当にそうなのでしょうか? 保険業界のウラ側を知り尽くした著者が解説します。
※本稿は、植村信保著『保険ビジネス 契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。
返戻金とはなにか
保険は契約者の意思でいつでもやめる(解約する)ことができます。解約とは、保険契約を解消することです。解約してしまうとその後の保障はなくなりますし、原則として元に戻すことはできないので、慎重に判断しましょう。
解約すると、解約返戻金(へんれいきん)を受け取れる場合と、受け取れない場合があります。被保険者がシニア層でなければ、契約期間が10年程度の定期保険の場合、解約返戻金はほぼありません。10年程度であれば死亡リスクがあまり変化しないので、保険会社は保険金の支払いに備えてお金を貯めておく必要がないからです。
これに対し、終身保険や養老保険、個人年金保険のように、契約期間が長く、必ず何らかの保険金を受け取れる保険では、長く続けるほど、解約時にまとまった解約返戻金が支払われる場合が多いと言えます。
なぜなら、こうした保険では保険会社は必ず保険金を支払うことになるので、将来の支払いに備えてお金を貯めておく必要があります。解約が生じるとこのお金が不要になるので、解約返戻金が生じるというわけです。
「お祝い金」の原資は支払った保険料
このお金は、当然ながら保険会社のポケットマネーから捻出するのではなく、集めた保険料が原資となっています。つまり、解約返戻金は皆さんが支払った保険料の一部を、保険会社が将来の支払いに備え、貯めておいたお金です。「解約したらお金が返ってきてラッキー」「解約してもお金が返ってこない。大損した」なんてことはありません。
通常の定期保険のように解約返戻金がほとんどなく、満期になっても保険金を受け取ることがない保険のことを、俗に「掛け捨て」タイプの保険と呼ぶことがあります。何年も保険料を支払ってきたのに、契約期間中に事故がなければ1円も受け取れず、解約してもほぼお金が返ってこない保険です。
しかし、満期保険金がある保険は、その分だけ保険料が高くなっています。そうしないと保険会社が満期保険金を支払えないからです。前述のとおり、解約返戻金の正体も皆さんが支払った保険料ですから、「掛け捨て」タイプの保険が損ということはありません。
それでも「満期になるとお祝い金がもらえる保険」など、「掛け捨て」ではない保険には根強い人気があるようです。
そこで、次の2つの保険を比べてみましょう。定期保険に加入するとして、皆さんはどちらを選ぶでしょうか。
〈定期保険〉
・保険金額:1000万円
・保険期間:10年
・毎月の保険料:1000円 ※30歳で加入
〈死亡しなかった場合に「お祝い金」がもらえる定期保険〉
・保険金額:1000万円
・保険期間:10年
・お祝い金:60万円
・毎月の保険料:6000円 ※30歳で加入
いずれも、死亡したら保険金1000万円を受け取ることができる、10年満期の定期保険です。毎月支払う保険料は、「お祝い金」をもらえる定期保険のほうが、もらえない定期保険よりも5000円高くなっています。
差額の5000円を10年分(120回)集めると、ちょうど60万円になりますね。つまり「お祝い金」とは、加入者が毎月支払う保険料の一部を保険会社が貯めておいたものだとわかります。
「お祝い金」と貯蓄、どちらが得か
2つの保険の違いは「お祝い金」の有無だけなので、どちらを選んでもかまわない、あるいは、「お祝い金をもらえる保険」には強制的に貯蓄する効果があり、その分だけ優れているのでしょうか。そうではありません。今回のケースでは、「お祝い金をもらえる保険」のほうが不利である決定的な理由が2つあります。
1つは利息です。自分で毎月5000円を10年間積み立てれば、10年後には60万円に加え、わずかであっても利息が付きます。ところが、この「お祝い金をもらえる保険」では、そうは書いてありませんが、利息がまったく付きません。
もう1つは死亡時の「お祝い金」の取り扱いです。「お祝い金をもらえる保険」では、死亡しなかった場合にお祝い金がもらえるのであって、死亡した場合に受け取る保険金は1000万円です。「お祝い金」のために支払った保険料は返ってきません。
実際の「お祝い金をもらえる保険」はこれほどシンプルではなく、検討が難しくなっています。それでも、お祝い金の原資が自分の支払った保険料だとわかれば、お金が返ってくる保険に安易に飛びついたりしないでしょう。







