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“地方の小さな会社”がEC業界の頂点に 女性社長が語る急成長の3つの柱

下村祐貴子(ケラッタ株式会社代表取締役社長兼CEO)

2025年11月17日 公開

“地方の小さな会社”がEC業界の頂点に 女性社長が語る急成長の3つの柱

長野県塩尻市に本社を置く「ケラッタ株式会社」。

2016年創業、従業員約40名。地方発の小さな企業ながら、2022年に下村祐貴子氏が代表取締役に就任した後、主力のECモールにおいて売上を前年比2倍に伸ばし、D2Cベビーブランドの国内トップクラスへと成長。2025年には国内3大ECモールの年間アワードを3冠達成した初のベビーブランドとなった。

その背景には、ファブレス経営、ECビジネスの強化、顧客の声を起点とした製品開発がある。本稿では下村氏本人の言葉を通じて、地方発企業がリーディングカンパニーへと成長するための戦略とマインドをひも解く。

 

社長就任後2年で売上を倍に伸ばした背景と3つの柱

私が代表に就任した2022年当初、ケラッタは体制や仕組みに課題が多くありました。まず事業では、売上や利益をリアルタイムで確認できる管理ダッシュボードの作成、社内のコミュニケーションを円滑にし属人化させないためのツールを導入。サプライチェーン出身の経験を活かし、物流体制の強化や在庫・配送の見直しにも取り組みました。

組織に関しては、人事労務の基盤を整え公平性を担保。こうした基盤の整備の積み重ねが大きな成長に挑戦する土台になり、2023年からは以下の3つに集中して事業を運営しています。

1つ目の柱はファブレス経営で「オリジナル製品の開発」に集中すること。

現在、ケラッタ製品の95%以上がオリジナル製品です。これは、自社工場を持たずに各分野に強みを持つ工場と提携するスタイルで企画や開発に専念できる環境を整えることで実現しています。縫製に強い工場、金型に強い工場など、その都度最適なパートナーを探し続け、現在は中国や韓国を中心に40社以上の工場と協業。共同で特許を申請するほどの信頼関係を築けたケースもあります。

その過程で、中国語や韓国語に対応できる社員を積極的に採用し、現地と直接交渉できる体制を確立。現地で全数検品も実施できるようにもなり、高品質とスピードを両立できるようになりました。

2つ目はお客様の声を毎日のECビジネスに組み込むこと。

ケラッタでは毎朝「見回り会議」を行い、全社員でレビューやECページをチェックし、その気づきをすぐに日々の改善や新製品の企画につなげています。新製品企画では独自の『企画レビューシート』を使い、未解決の課題や差別化のポイントを徹底的に分析。ママパパの"いま"のリアルな課題を解決できるかどうかを軸にしています。

「ここが不便」「もっとこうなったら助かる」──そうした日常の声に、次のヒット製品を生み出す種があるからです。こうした取り組みの積み重ねがAmazon、楽天、Yahoo!ショッピングの3大ECモールで年間アワードを受賞する実績につながりました。

3つ目は地方ならではの発想をもとに「圧倒的楽」を追求すること。

ケラッタでは長野ならではの雪国文化をヒントにした製品が多くあります。例えば、幼児が座れる台座付きの抱っこ補助アイテム「ダイヤルヒップシート」は、スノーボードシューズに使われるダイヤルフィット機能を応用し、装着の手間と腰への負担を軽減しました。この製品は2024年度グッドデザイン賞も受賞。他にもスキーウェアの二重裾構造を取り入れた子供用レインウェアなど、地域の暮らしの知恵を差別化につなげています。

 

3つの顔を持つ私自身が大切にしているマインド

経営者であると同時に二児の母である私は、仕事と育児の両立に悩むことが数え切れないほどありました。乳幼児期に子どもが肺炎で入退院を繰り返したときには、「あと2日で熱が下がらなければ仕事をやめよう」と考えたこともあります。社長就任前後に長野と東京の二拠点生活を始めた頃には、子どもと離れる時間が増え、不安にさせてしまったり、母親として十分でないのではと自分を責めた時期もありました。

それでも諦めなかったのは、子育てに悩むママパパに良い製品を届けたい、仲間と会社を成長させたいという思いがあったからです。友人や先生、ヘルパーさんなど周りの助けを借りながら乗り越えていった結果、今では子どもが私を「母」としてだけでなく「働く一個の人間」として見てくれる瞬間が増えました。

この経験は会社の文化づくりにも反映されています。ケラッタでは「FamilyDay」を開催し、社員とその家族が交流できる場を設けています。社員同士の絆や家族の理解が、挑戦を後押しする基盤になっていると感じています。

また、私はプライベートで筋トレに打ち込み、大会にも挑戦しています。地道な積み重ねが形になる筋トレは、EC経営に通じる部分があります。現在は週3〜4回のトレーニングを続け、息子たちとも一緒にジムに通う時間を楽しんでいます。

 

挑戦を恐れず、可能性にキャップをかぶせない

経営者として、母として、そして競技者として。3つの顔を持つ私が大切にしているのは「挑戦を恐れず、自分の可能性にキャップをかぶせないこと」です。年齢や立場に縛られて可能性を制限するのはもったいない。支えてくれる人や環境への感謝を忘れず、「自分たちだからこそできること」を考え続ける。その積み重ねが、次の挑戦を切り開いてくれると信じています。

ケラッタの歩みや私のマインドが、同じように挑戦を続ける方々にとって少しでも学びや勇気になれば嬉しく思います。

著者紹介

下村祐貴子(しもむら・ゆきこ)

ケラッタ株式会社代表取締役社長兼CEO

1980年兵庫県生まれ。2002年に神戸大学発達科学部を卒業後、P&Gに入社。生産統括部門でキャリアをスタートし、2005年に広報部門へ異動。P&G時代には、伸ばした髪でウィッグを作り、がん患者に提供する「キレイの力」プロジェクトをリードし、2008年にCEOアワードを受賞。2010年よりシンガポール本社にてPRマネージャーとしてアジア地域の広報および「SK-Ⅱ」グローバル広報戦略を統括し、4ブランドで市場シェアNo.1を達成。2016年に帰国後、Facebook Japan(現Meta)の広報統括執行役員として、ブランドのコミュニケーション戦略を推進。
20年にわたるキャリアを経て、2022年に共創型M&Aにより経営統合されたベビー&マタニティブランド「ケラッタ株式会社」の代表取締役社長 兼 CEOに就任。着任初期の3カ月間は自ら「平社員」として修業期間を設け、統合による組織不安の解消や社員との密なコミュニケーションに集中。その後の改革により、就任後2年間で売上は2倍に成長。

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