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有休は“全部消化”が当たり前 日本とドイツでここまで違う休み方

サンドラ・ヘフェリン(エッセイスト)

2025年12月15日 公開

有休は“全部消化”が当たり前 日本とドイツでここまで違う休み方

病気になると、有休から病欠の日を引かれる。有休を取ろうとすると、上司や同僚から咎められる。日本では、たびたび問題となることもありますが、「休むことが人生で大事」という考えが根付くドイツでは、こうした問題が「存在しない」と、日独ハーフで長年日本に住むサンドラ・ヘフェリンさんはいいます。

2023年にGDPで日本を追い抜きながら、今も昔も「休むことが大好き」だというドイツ人。ドイツ・ミュンヘン在住で税理士事務所を経営する40代女性、ノラさんのリアルな声を交えながら、ドイツ人の休むことに対する価値観を紹介します。

※本稿は、サンドラ・ヘフェリン著『ドイツ人の戦略的休み方』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

病気を“自己責任”とは考えない

「日本で病欠が有休から引かれる習慣があること」について、ノラさんは次のように考えます。「病気になるというのはnicht selbstverschuldet(自業自得ではない)のよね。つまり自分が悪いわけではない。運もあるし、天災のようなもの。そんな中で、有休から病欠の日を引くというのは腑に落ちないわ」。

最近は、昔ほどは聞かれなくなりましたが、日本には「体調管理も仕事のうち」という考えがあり、この考え方がわりと幅を利かせていたように思います。私自身は「体調管理も仕事のうち」という考えに、実は賛同していますが、これはあくまでも自分自身で言い聞かせるものだと思っています。

しかし、上司がこのようなことを言うこと、つまり会社のモットーとして「体調管理も仕事のうち」と社員にことあるごとに言うのは、ブラックな環境だと私は思います。睡眠不足は避けるべきですし、もちろん運動はしたほうがいいでしょう。ストレスを溜めないことで「病気になること」をある程度防げるかもしれません。

そうはいっても、これはあくまでも目安で、「じゅうぶんな睡眠を取り、運動をしていれば絶対に病気にならない。風邪も引かない」ということではないわけです。何が原因で風邪を引いたり、病気になったりするのかは偶然も関係していますし、そもそも人によって体質も異なります。このように、病気は、日本では「自己責任」だと見られている風潮がまだまだ残っているように思います。

 

“有休取得で意地悪をする上司や同僚”はいない

ドイツ人のみなさんの話を聞いていて思うこと。それは「ドイツ人の間では有休関連の意地悪な話が登場しないこと」です。残念ながら日本の職場では「職場の人間関係のトラブル」というと、ちょくちょく「有休」についての問題が登場します。「休暇を取るのを咎められた」という「有休を取る側」の悩みもそうですし、「こんなに忙しいのに新人が有休を取っていた」という先輩や上司の立場からの愚痴も聞かれます。

一方、ドイツではこれらすべてが「なし」です。「存在しない」のです。理由は複雑なようで簡単です。全員が有休を全部消化するのが当たり前だからです。そして、誰もが「長期で休む」という共通認識があるからです。

日本の状況も、「有休を取るのはポジティブなこと」を目指せばだいぶ変わるのではないでしょうか。部署で有休が取りやすい雰囲気になるように自分が貢献すること。上司や同期、後輩が有休を取ることに「疑問」を持つのはやめ、「有休を取ることは当たり前だ」という雰囲気を自分たちで作り出す。そんなところから始めてみるのはいかがでしょうか。

 

趣味と仕事のバランスの良さが“幸せ”を生み出す

ノラさんが週末に仕事をすることは、昔も今もないのだとか。「仕事の前日にどんなことをしたときに、一番集中できるのか」を尋ねたところ、「やっぱり日曜日にリラックスをすると、次の日の月曜日は仕事がはかどるし、集中できる。またバレエのレッスンのあった翌日も頭が冴えるので、バレエも確実に仕事の集中度に貢献しているわね」とのことでした。

そんなノラさんに「幸せを感じるのはどんなときか」と聞いてみました。「人生全体で言うと、夫がいて子供2人がいる今が一番幸せ。その瞬間、その瞬間で言うと、仕事の大きな案件や大変な案件が終わったあと、趣味に熱中できるときが本当に幸せ。そして私の場合、今も幸せを噛みしめているのは、会社員時代のようなヘンテコな上司がいないことよ。これは本当に幸せ。」

「あのころは仕事の残業で19時のバレエに間に合わないこともあったし、間に合っても、レッスン中に上司から電話が来たりね。そういうことからすべて解放されて、自分のやり方で仕事ができて、誰にも邪魔されることなくバレエができるのが幸せ」とのことでした。

聞いていて、ノラさんは「仕事」と「趣味」のバランスがとてもいいと感じました。運動をして、趣味を楽しんで、仕事をして、子育てもして、夫婦の時間も確保して......と、充実した生活を送るノラさんに、悩みというものは特にないそうです。

プロフィール

サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)

エッセイスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住28年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)、『ドイツの女性はヒールを履かない』(自由国民社)、『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)など。
【X】https://x.com/SandraHaefelin

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