週休2日、祝日や年末年始など、定められた休日はある。しかし「休んでも休んだ気がしない」という人は多い。それはなぜか。ここに日本人特有の心理がからんでいるという。睡眠医学やメンタルヘルスを専門とする精神科医が、多くの日本人が見落としがちな「満足感や幸福感を高める休み方」を解説する。
※本稿は、西多昌規著『休む技術2』(大和書房)より一部抜粋・編集したものです。
決められた休みが多い日本
「自己効力感」という概念があります。セルフ・エフィカシー(self-efficacy)とも呼ばれ、学習やキャリアだけでなく、健康や医療においても重視されているものです。スタンフォード大学の心理学教授を長く務め、アメリカ心理学会会長も歴任した、A・バンデューラ博士によってこの概念は提唱されました。
自己効力感とは、わかりやすく言えば「オレはやれる」「わたしならできる」と思うことです。「やればできるだろう」という感覚をもてるときには、人は積極的に行動しますが、「どうせうまくいかないだろう」「失敗するだろう」と思うと、行動は萎縮しがちでモチベーションも下がるものです。
わたしたちが前向きに働くためには、自分の行動に意味があったことを喜び、働いたことがよい結果につながったと感じられる「自己効力感」が大切ですが、実は、仕事だけでなく、「休み」のためにも大切な概念です。
かつては休日の少なかった日本も、現在では祝日が年間16日も設定され、世界平均の10日前後に比較して多い国になりました。土日祝日や年末年始、ゴールデンウィークなど、決まった休みがあるのは、ないよりはありがたいことです。しかし見方を変えれば、日本はお上が決めた「官製」「一斉」休日が多すぎるのです。
年末年始、ゴールデンウィークは、最近は分散傾向とはいえ、それでも一斉に人が出かけるので、大変な混雑になります。レジャーに出かけるにも、その期間だけは費用が格段に高くなります。ハッピーマンデーで月曜日に祝日が集中していますが、月曜日に重要な仕事のある人にとっては、かえって迷惑な制度でしょう。
公的に決まった休みよりも、空いている平日に休みたい、イベントや行事のときに休みたい、子どもの病気など、家族に何かあったときにフレキシブルに休みたいなど、休みのニーズも個別化されてきています。これからは、「自分の裁量で休める」ことが重要視されていくことになると思います。
「取らされる休み」は自己効力感を損なう
「有給休暇が取りやすくなったから、もう解決されているんじゃないか」とおっしゃる人もいるかもしれません。たしかに、2019年より労働基準法が一部改正され、最低年5日は使用者が時期を決めて、有休を取ることが義務付けられました。
しかし、みなさん、有休を自分の好きな時期に充分に取ってエンジョイしたという記憶はあるでしょうか?有給休暇の取得率は、2021年の厚生労働省の調査でも58.3%にすぎず、また取得率の高い業種と低い業種では約40%もの差があります。
最近では、有休を消化していないと労働基準監督署から目をつけられるので、無理やり取らせる会社もあるようです。ありがたいようですが、メンタル面を考えると、他人の指示で休むのは、あまりよくないことなのです。「自己効力感」を損なってしまうからです。
休みを「与えられる」のではなく、積極的に「取る」
休みに関しても、国や会社に決めてもらうのではなく、「自分で決めて、選ぶ」ことが、自己効力感を高めます。デンマークの予防・健康研究センターの研究グループは、7931人の休みの日の過ごし方と自己効力感など心理特徴との関連を調査しました。自己効力感の低い人は、休みの余暇時間に座っている時間が長くなる傾向があったそうです。
この北欧の研究では、内向性などの心理特徴が自己効力感の低さと関連するとしていますが、日本では「自由に有休を使えない」「休むと他人に迷惑がかかる」など、日本人特有の心理がからんでくるのではないかと推察されます。
結論として、土日や祝日、ゴールデンウィークや年末年始はもちろんゆっくり休むとして、それ以外でもぜひ自分の裁量で決めるオフを設けましょう。
他人に決められた休みでは、人生の満足感、幸福感はどうしても低くなってしまうのです。
具体的には、長期休みの予定は半年〜1年前に立ててしまう、あるいは仕事の予定が決まる前に、有休の日を設定してしまう、などが効果的です。
すぐにはうまくいかないかもしれません。しかし、時代は変わってきています。休みを受動的に「与えられる」のではなく、ぜひ自分から積極的に「取る」ようにしてください。また管理職の人は、休みを柔軟に与えられるような仕事の割り振りなどの管理を、これからはより強く念頭に置く必要があるでしょう。





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