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社会

温暖化で増える洪水、日本に必要な対策とは? 東大教授が「まず自助を」と語る理由

瀧口友里奈(経済キャスター)

2026年01月20日 公開

温暖化で増える洪水、日本に必要な対策とは? 東大教授が「まず自助を」と語る理由

近年、地球温暖化の影響とみられる豪雨災害が日本各地で相次いでいる。災害級の大雨により、都市部でも河川の増水や氾濫による洪水被害が現実のものとなっているのだ。こうした気候変動時代の洪水リスクに、私たちはどのように向き合うべきなのか。本稿では、経済キャスターの瀧口友里奈氏の書籍『東大教授の超未来予測』より解説する。

※本稿は、瀧口友里奈著『東大教授の超未来予測』(日経BP)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

【本稿に登場する東大教授たち】

●五十嵐圭日子(いがらし・きよひこ)

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授。
[研究分野]バイオマス生物工学、木質科学

●小熊久美子(おぐま・くみこ)

東京大学大学院工学系研究科 教授。
[研究分野]環境工学、水処理学、水供給システム

●江崎浩(えさき・ひろし)

東京大学大学院情報理工学系研究科 教授。
[研究分野]情報通信工学

●加藤真平(かとう・しんぺい)

東京大学大学院工学系研究科特任准教授/ティアフォー代表取締役CEO。
[研究分野]ソフトウエア、情報ネットワーク、計算機システム

 

日本では考えられない意外な組み合わせの二毛作

【瀧口】「温暖化で増える洪水。日本に必要な対策とは」というテーマを小熊先生からいただきました。

【小熊】温暖化や気候変動で洪水が増えているのは、皆さんも体感的にお分かりだと思います。しかも、これからますます深刻になると言われています。日本で洪水が起きると、残念ながら被害を生じるばかりでメリットは何1つないように見えます。それは都市に集積的に住みすぎているからではないか、というのが1つの考えです。

私はメコン川の下流域を実際に船で下ったことがあります。「あれだけ大きな国際河川になると」というただし書きつきですが、メコン川の下流では毎年洪水が起きるのが当たり前で、それを前提にみんなが暮らしています。

季節性のある洪水で、かつとても穏やかに水位が上がってくるので、うまく共存できているということですね。日本の急峻な地形で起きる洪水とは本質的に違うことを理解した上で、とはいえ、洪水と共存共栄する彼らの暮らし方は私には衝撃的でした。洪水を前提にした現地の農業では、乾期にはお米をつくり、雨期に水位が上がって洪水になったらそこでエビを養殖する、みたいなことをしています。

【瀧口】お米とエビの「二毛作(※1)」なんですか。

【小熊】そうなんです。日本ではちょっと考えられない作物の組み合わせですが。

【加藤】それはすごいですね。洪水が起きないと、エビはとれないということですね。

【小熊】そういうことです。場合によっては、「エビの売価のほうが高くて、洪水が起きて良かったね」ということもある。水が引いたらエビを収穫してエビの排せつ物で畑が少しリッチになっている。そこで野菜をつくって水が増えてきたら、また田んぼにする。そういう感じで運用していて「適応とはこういうことなんだ」と思いました。

日本は洪水がそんなに穏やかにゆっくりと進んでくれないので、そもそも同じことはできないのですが。日本のような地形と気候で、洪水が起きる前提で都市をつくる場合、リスクの高い地域1カ所に集約的に住まないことが1つの解だと思います。その前提でまちづくりを考えていくことがこれから必要になってくると思います。

【瀧口】まさに自然との共生ですね。

【小熊】本当に共生ですね。日本はとにかく急激に洪水が起きすぎて何も良いことがないまま被害だけが出ています。一方で、メコン川は勾配がすごく緩やかで、何百キロと流れてくるので、1日、2日、1週間でだんだん水位が上がってくるんです。

 

(※1)二毛作:同じ場所で異なる作物をつくる農業のやり方。

 

まずは、自分の身は自分で守る

【江崎】僕は楽観主義者で、ポジティブに考えるんですが、洪水があるということは、たぶん自分でその対策をするようになるはずです。日本は昔、高床式だったらしいんですが、あれは誰が止めたんですかね。「洪水は起こらないから、いらないですよ」と誰かが宣伝したはずなんです。

災害対策は実はセキュリティですよね。セキュリティで常に言われるのが「自助、共助、公助(※2)の順番でやりなさい」。これを間違えると、とんでもないことになるんです。公助で守ってくれることを前提にしてしまうと、絶対に自分で守らないので、一気にやられてしまう。

「ファイアウオール(防御壁)(※3)で守られているから何もしなくていい」と言われていた企業がいっぱいありました。それで何もしなかったから、大きな被害に遭っていますよね。東京大学がすぐにオンライン講義ができたのはどうしてかというと、みんな適当にネットワークにつないでいたんです。だから自分たちでセキュリティ対策を全部やっていたんです。

【五十嵐】自助だったわけですね(笑)。

【江崎】自助の後に、コミュニティとしてどう進めますかという共助があって、最後に公助が来ます。公助の人たちはよくこれを間違えて、自助の人たちを弱らせるために最初に公助を使ってしまうんですよね。「これをやっているから大丈夫だよ」と。会社で「ファイアウオールで守っているから何もしなくていいですよ」と、みんな教えられましたよね。

だからコロナが来てテレワークになったときにサイバー攻撃でめちゃくちゃにやられてしまったんです。

【五十嵐】たとえば雪がすごく積もる豪雪地帯の家は、そもそも入り口が2階にあります。今のお話を聞いていて、あれって「自助」だなと思うんですよ。雪が降ることを前提にして屋根の角度も入り口も全部考えているじゃないですか。

ということは今、洪水で被害を食らっているところは基本的に「洪水なんて起こるはずがない」とみんな思っていた。まさにファイアウオールで守られていたと思っていたところが、もう守られなくなっている状態です。気候変動は間違いなく想定されていなかったんだと思うんです。

そうだとすると、これからの家は起こり得る災害を想定しておかなくてはいけない。そこのタイミングかもしれないですよね。私たちがどんなにバイオエコノミーや脱炭素に取り組んでも2050年ぐらいまでは今のペースで気温上昇が続くだろうと言われます。

それまでの間、時間稼ぎができるのは重要ですが少なくとも対応もしなければいけないですよね。洪水に関しては床の高さを上げるとか何かをしなければいけない。

【加藤】当事者の方々はどういう対策をとられているんですか。

【小熊】それぞれにたとえば「ハザードマップ(※4)を見て確認しましょう」という話とか、マンションは機械室を地下につくらないという動きはあります。あとは公助の話になりますが、都市化すればするほどコンクリート化されて雨が浸透しなくなるため、「透水性コンクリート(※5)」なるもので道路の一部を変えて、できるだけ雨水を地下に浸透させて、「内水氾濫(※6)」という都市の中で起こる洪水を少しでも防ごうという動きはあります。地下に巨大な「雨水貯留槽」をつくる事例もあります。

ただ、それで気候変動の劇的な変化に追いついていけるかというと、なかなか難しいですね。

【加藤】実際に被害を経験した地域と、経験はしてないけれど被害が起こり得る条件にある地域で行われているんですか。

【小熊】どちらかというと後者のような気がします。あまり被害は起きていないけれど気にされている自治体、そして実態として、比較的財政状況が豊かな自治体かもしれないです。そういう意味では、本当に必要だけど財政が逼迫している地方の自治体で透水性舗装にお金がつくのかというと、残念ながらちょっと難しいかもしれません。

【加藤】実際に被災した経験があると、そういう対策ができていそうですが、それは難しいんですか?

【小熊】本当に被害があったところには極力住まないように住む場所を変えていく方向に振れているんじゃないですかね。

【江崎】あるいは、お金を使ってインフラをつくる。東京で洪水が起きていないのは地下にものすごい排水管を計画的につくっているからです。

【加藤】僕は都市工学が専門ではないのですが東京は比較的、災害が起きにくいのは?

【小熊】そのためにものすごい投資がされています。

【加藤】なるほど、そうなんですね。

【瀧口】当たり前のように享受している安全性は実は計画的な対応の賜物だということなんですね。

 

(※2)自助、共助、公助:災害の備えるための考え方。一人一人が取り組むのが「自助」、地域や身近にいる人同士が一緒に取り組むのが「共助」、国や地方公共団体などが取り組むのが「公助」である。

(※3)ファイアウオール:サイバー攻撃や不正アクセスによるデータの改ざん、情報漏洩を防ぐためのセキュリティ機能。

(※4)ハザードマップ:自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図。

(※5)透水性コンクリート:ポーラス(多孔質)構造で、雨水を地中に浸透させるコンクリート。

(※6)内水氾濫:集中豪雨などで下水道などの排水能力を超えて、雨水が行き場を失い、浸水する現象。

 

プロフィール

瀧口友里奈(たきぐち・ゆりな)

経済キャスター/ビジネスジャーナリスト「アカデミアクロス」プロデューサー

現在、経済番組のキャスター、「サタデーLIVE ニュースジグザグ」(日本テレビ系列)全国生放送のコメンテーターのほか、東京大学工学部アドバイザリーボードメンバー、SBI 新生銀行社外取締役などを務める。東京大学大学院修了。東京大学在学中にセント・フォースに所属して以来10 年以上にわたり、経済分野、特にイノベーション、スタートアップ、テクノロジー領域で経営者やトップランナーを取材。"情報の力で社会のイノベーションを加速する"ことを目指し、株式会社グローブエイトを設立。アカデミアYouTube メディア「アカデミアクロス」を立ち上げ〈映像×出版×イベント〉を通してアカデミアと社会をつなげている。日米欧・三極委員会日本代表。世界経済フォーラム ヤング・グローバル・リーダーズ(YGL)日本代表に、アナウンサー・キャスターとして史上初めて選出される。

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