30代、40代で“効率よく結果を出す”ための仕事術
2014年09月26日 公開 2022年12月07日 更新
仮説を立てる
◆早く結論にたどり着くためには
こうして、最終目標がはっきりと決まったら、次に必要なのは仮説を立てることです。
仮説とは何かと言えば、『大辞泉』(小学館)で調べると、「ある現象を合理的に説明するため、仮に立てる説。実験・観察などによる検証を通じて、事実と合致すれば定説となる」と書いてあります。
この場合に当てはめて言うと、企画書の骨格となるストーリーをつくることです。自分のもっている知識に多少の調査を加えて、一気につくってしまうのです。
例えば、さっきのビール会社の営業戦略だとこうなります。
「当社は、現役世代向けのビール市場では健闘している。当社のブランドは、プレミアム・ブランドとしての地位を確立しているからだろう。しかし、年金生活者層が好む発泡酒ではシェアを落としている。最近の市場規模は、ビール市場が縮小してきているのに対し、発泡酒市場は堅調であるから、そこでのシェアを上げることが、当社にとって喫緊の課題である。
当社はコンビニエンスストアでは健闘しているが、ケース売りが多いスーパーでのシェァの低下には大きいものがある。当社は認知度を高めようと思い、これまで広告戦略に依存してきたが、この層のブランド選択の第一要素は、価格にあるようである。したがって、来期は、ビールには今期同様広告を大量投入するが、発砲酒では広告を控え、そのぶん値引きを徹底させていこう。
また、発泡酒については、需要期の夏までに、コストを抑えた新ブランドを投入し、シェアの巻き返しを図ろう」
このように考えてみます。この程度でよいのです。あまり細かい仮説は必要になりません。間違っていてもよいのです。
仮説を立てることが早く結論にたどり着く方法となるのは、それをつくるとこれから調べなければならないことが明確に見えてくるからです。
今の例で言えば、ビール、発泡酒の年代別シェア、販売網別シェア、65歳未満と65歳以上の世帯のビールと発泡酒の購入量、当社と競合会社の小売価格の比較、宣伝広告の投入量です。これらの数字が分かれば、仮説が正しいか、間違っているかを証明することができます。自分の仕事の範囲を限定できるのです。
もちろん、当初立てた仮説とは違う結果が出てくることもあります。その場合には、仮説を修正し、新たに必要な情報、データを見つけるのです。
例えば、前述のビール会社の営業戦略の例で、発泡酒のスーパーでの売り上げを調べている過程で、2カ月に1度、売り上げが倍増する週があることが分かりました。調べてみると、それは2カ月に1度年金が支払われる週です。さらに、調べていくと、競合会社は、このときに販促キャンペーンを全国展開していることが分かりました。
こうした情報を得たら、発泡酒の営業戦略として、年金の支払われる週に、新しい販促キャンペーンを追加するというアイデアが浮かんできます。
◆「一気に仮説を組み立てる」のを習慣化する
私がこれまでに出した本でも、仮説づくりの重要性と効用を強調してきましたが、どうも読者の皆さんは、これを実践してくれないようです。その理由は、「なんか見落としているようで、気持ち悪い」というものではないでしょうか。
その気持ちはよく分かります。仮説は、すべてを調べ終わらないうちに、「だいたいこういうことだろう」と想定するアイデアのようなものですから、しっかりとしたデータに裏づけられているものではなく、それで気持ちが悪いのでしょうね。
つまり、仮説づくりに踏み込めない理由は、主観的なものです。しかし、これができないと、すべてを調べ終わるまで何も出てきません。すべてを調べるなどということは、そう簡単にはできませんから、結局何もできあがりません。
かくして、あなたは結果の出ない人になります。上司からは、「あいつは仕事ができないな」と思われるのです。
こんなことにならないように、あなたも考え方を変えるべきです。
学校のお勉強的に1つひとつデータを積み上げていって、結論に到達しようという考え方から、一気に緒論を考えてみて、それを検証していく過程で、間違いを発見したら、結論を修正していこうというように……。
とにかく、何か仕事が与えられたら、仮説から考える。これを習慣にすべきです。
その問題について、まったく予備知識がなかったら、まず詳しい人を探して、話を聞いてみます。全体像の話をしてもらった後に、自分が与えられた問題についての意見を聞いてみましょう。きっと、「それは○○という結論になるはずだ」と言ってくれます。そこまで答えてくれないなら、答えてくれるまで食い下がりましょう。
◆類似の例も参考にする
そこまで話が聞けたら、必要最小限の調査をします。インターネットで、政府の統計を見たり、新聞雑誌記事を見たりします。そして、自分の頭で考えるのです。必要最小限の情報で、これまでに集めたデータをもとに仮説を考えます。
仮説ができないときは、これまで自分が経験してきた類似の例を参考にします。類似の例を記憶のなかから引っ張り出し、それを今の問題に当てはめて考えていくのです。
この類似例の利用のしかたも、仮説づくりのコツの1つです。
シニア層に発泡酒を売るための販売戦略を考えるときに、シニア層へのマーケティングで成功している他の食品メーカーの戦略を参考にしてみます。食品というカテゴリーでいい例が見つからないときは、カテゴリーの枠を取り外して、シニア層をターゲットにした衣料品メーカーや電機メーカーの販売戦略を参考としてもよいのです。
こうした一見関係のないと思われる他社の成功事例をヒントにして、自社の販売戦略を考えてみるのです。
もし、他の食品メーカーで、スーパーとタイアップして、年金支給日から1週間、購入者宅への無料での配送サービスを展開しているところが見つかったら、自社でも同じことが導入できないか考えてみます。衣料品メーカーが、新聞の折り込みチラシで、年金支給日の1週間前から、割引券を配布していれば、そちらも参考にしてみます。
こうして、他社の事例を参考にしながら、頭を柔軟にして考えていけば、仮説は何とかできあがります。
☆本記事は、2013年2月にご紹介したものの再録です。
植田 統
(うえだ・おさむ)
弁護士、国際経営コンサルタント、南青山M's法律会計事務所
1957(昭和32)年生まれ。1981年、東京大学法学部卒業。ダートマス大学経営大学院にてMBA取得。成蹊大学にて、法務博士取得。同年、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。1984年から2年間のアメリカ留学を経て、1988年、世界有数の経営コンサルティング会社であるブーズ・アレン・アンド・ハミルトンに入社。1994年には、再び日本の金融機関に戻り、野村證券投資信託委託(現・野村アセットマネジメント)で資産運用業に携わる。2003年からは、世界有数の情報メディア企業であるレクシスネクシス・ジャパンの支社長として自ら経営を経験。2007年より、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズで企業再生に取り組む。ライブドア、日本航空の再生案件を担当した。この経験を踏まえて、2012年7月より、弁護士、国際経営コンサルタントとして独立。企業に対して経営と法務を融合した、ストラテジー&リーガル・アドバイスを提供している。主な著書に『45歳からの会社人生に不安を感じたら読む本』『人生に悔いを残さない45歳からの仕事術』『企業再生 7つの鉄則』(以上、日本経済新聞出版社)『残業ゼロでも必ず結果を出す人のスピード仕事術』(ダイヤモンド社)などがある。