最近、編み物が流行している。男女問わずファンが多く、お笑い界でも、編み物が趣味の「任侠芸人」アイパー滝沢さんは、YouTubeやSNSで作品を発表するだけでなく、ワークショップや個展なども開催。編み物界の人気者で、ついに書籍も発売されたそう。コワモテな見た目とのギャップがすごすぎるアイパーさんはなぜ編み物の世界に...?お話を聞いてみた。
(取材/PHPオンライン編集部・聞き手:次重浩子、撮影:片平奈々子)
心が折れた実物大の車カバー

「編み針を握ってないほうの毛糸の持ち方が大事」と解説してくれるアイパー滝沢さん
――アイパー滝沢さんは「任侠編み物芸人」ということですが、そんなコワモテで、どうして編み物をやってみようと思われたんでしょうか。もともと手芸が好きだったんですか。
アイパー滝沢(以下アイパー):俺は任侠なんで。芸人になる前に刑務所入ってましてね。刑務作業で始めたのがきっかけですわ。看守に言われてやってみたら、いいじゃんこれ素敵じゃないの、って。
――...なるほど。そういう設定になってるんですね…。
アイパー:俺、獄中で生まれてるから!両親が獄中結婚して、獄中出産。獄中生まれの獄中育ちなの!
――そうですか...。では、何歳頃から編み物の刑務作業を始めたんですか。
アイパー:そういう細かいことは言わないのよ。
――わかりました...(笑)オフィシャルではそういう設定になっていると…。で、本当のところは、何年ぐらい前から編み物を始められたんでしょう?
アイパー:...12年ぐらい前ですね。芸人だから、プロフィール書くことあるじゃないですか。特技とか、趣味とか。でも俺何も書くことねえなって。じゃあ探そうって。で、せっかくやるなら、見た目と真逆のものやったらおもしろいと思ったんですよ。コワモテなのに、趣味は編み物かい!ってウケるかなって。
基本的には任侠キャラの奴が持ってたら面白そうなものを考えてて、最初に編んだのがチャカカバー。「ピストルにカバーつけてるんかい!」っていう。あとドスケースとか、手錠のミサンガとか、巾着にもなる目出し帽も編んだね。
――編み物って、地道な作業だし、けっこう時間かかるじゃないですか。飽きたり、いやになったりしないですか?
アイパー:それがならないのよ。すげえでかいもの作った時は心折れたこともあるけど。
――でかいってどのぐらい?
アイパー:セダンの車。クラウンサイズ。パトカー柄の車カバーを編もうと思ってね。カバーかけちゃえばパトカーに変身するから、どこに駐車しても駐禁の切符切られないっていう。
「POLICE」って編みこんだ両サイドのボディまではできたんだけど、俺ね、車持ってないんですよ。だから近くの駐車場に行って、バレねえようにサイズ測ってたんです。
編んでるうちにどんどんでっかくなっていって、車ってこんなにでっかかったっけな、ほんとにこの寸法で合ってんのかな、って心配になったり、また駐車場行ってこそこそ測らなきゃならねえのか、って憂鬱になったりしてるうちに心が折れました。
――そういうアイデアってどこから出てくるんですか。全長1メートルぐらいある「マグロケース」も作ってましたよね。
アイパー:ああ、釣ったマグロを入れるケースね。編んだね。あの頃は多分ケースにハマってたんだな。なんかいろいろ、カバーとかケースとかあったらいいなって思ってたんだ。きっと。
『仁義なき戦い』っていう任侠映画があるじゃない、昔からあの世界が好きでね。出演されていた松方弘樹さんは釣りをされるから、松方さんにプレゼントできたらいいな、って考えてマグロケースを編んだんだよ。もう亡くなられちゃったから、プレゼントできないけどな。
何も入れてはいけないドーナツ型ポシェット

アイパーさんの作品。左上:入れ歯、左下:天むす、中上:ドーナツ、中下:ハンバーガー、右上:猫のハナ、右中:チャカカバー、右下:ポップコーン
――このたび編み物の本『アイパー滝沢の ポゥシェット編み物道』を出版されましたが、出すまでに4年ぐらいかかっているそうですね。
アイパー:俺、初めて本出させてもらうんで、4年が長いかどうかもわからないんだけど、きっと長いんでしょうね。
今回、作るもののテーマをポシェットにしたんですけど、ここにたどり着くまでに編集さんといろいろ試行錯誤してたんですよ。セーターとか、ヘルメットカバーとか。で、「ポシェットで行きましょう」ってなった後も、編集の方から「ひと月に作品を〇個提出してください。そしたら年内に出版できます」みたいな計画を提示されたんですけど、俺作品を全然出せなくて。
なんでかな。なんか色々悩んじゃったんですよね。世の中にすでにあるようなものを出してもしょうがねえなって、誰も作ってないものを作ろうとして葛藤してたっていうか。
俺の性格上ついだらだらしちゃったっていうのもあるけど、最初、半信半疑だったんですよね。ほんとかな。ほんとに本出せんの?って。でも、撮影の時なんかも大勢の大人が携わってくれて、「うわ!ちゃんとしてるじゃん!」って、もっと初めから一生懸命やっとけばよかったかもって思います。
――どうですか、完成した本を見て。
アイパー:むちゃくちゃ嬉しいです。何よりもおふくろが喜んでくれたんですよ。それはちょっと嬉しかったっすね。
――この本に載っている33点のポシェットのデザインは全部アイパーさんが考えられたんですよね。お気に入りの作品はどれですか。
アイパー:もちろん全部自慢の作品です!その中でもハンバーガーいいなと思ってるんすよ。よくないですか、これ。
――すごくいいです。
アイパー:いいですよね!これね、レタスの部分を横に向けて編んだの。これが工夫した点。いいなと思った。
――横に?
アイパー:横に。大体上に編むじゃないですか。これをね、レタスの段は一回横に編んでるの。横というか、なんつったらいいんだろう。横にです。
――横に…。つまり、バンズにつなげてレタスを編んだら、そのレタスを横に倒して立体感を出したと。
アイパー:そうそう!そういうことですよ。
あと、このドーナツも気に入ってますよ。ドーナツのポシェットって世の中にありますけど、これみたいにちゃんと穴が開いてるやつってないんじゃないですか。ドーナツを忠実に再現したのがいいでしょ。
――たしかに。穴が開いてると何も入れられないですもんね。でも穴が開いてることに意義があると。もう何も入らなくてもいいと。
アイパー:もちろんです。むしろ入れてほしくないね。何も入れるな!
編み物は自由だ!

――最近編み物ブームって言われるじゃないですか。編み物の楽しさってなんですか。
アイパー:編んでる間は無になれるところですかね。編み物やるとすっきりするんですよ。1つのことに集中してるからかな。だから、別にうまくできなくてもいいと思う。俺だって同じ編み図の作品を編んでも同じものできないと思うし。ワークショップで教えてる時も、「アイパーさん、ここわかりません」って言われたら、「そこはなんとなくノリでいけばいいよ」って言っちゃうタイプなんで。
編み物はさ、自由なんだよ。この本には全部編み図入れてあるから作れるんだけど、実際に作ってみたら写真と違うのができちゃうかもしれないよね。でもさ、それでいいんだよ。編み物は編んでる過程も楽しんでほしいね。
――編み物初心者は何から始めたらいいでしょう?
アイパー:とりあえずかぎ針1本で作れる小物を作ってみたらいいんじゃないですか。コースターとかマフラーとか。不細工でもなんでもいいから、完成させて、できたっていう達成感が得られたら、また次もやろうかなってなるじゃないですか。
100円ショップでも毛糸や編み針が手に入りますからね。嫌になったらやめればいいだけなんで。気楽にやってみたらいいんですよ。俺のワークショップもよかったら来てください。
――ちなみにアイパーさんは誰かに編み物を習ったんですか?
アイパー:だから!俺は獄中生まれの獄中育ちだって言ったでしょ。教えてくれたのは看守ですよ。看守!
――そうでした...(笑)失礼致しました。








