1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 矢部太郎さんが、競争で勝てずとも満たされている理由「人と違うことをやれば...」

生き方

矢部太郎さんが、競争で勝てずとも満たされている理由「人と違うことをやれば...」

矢部太郎(芸人・漫画家)

2025年06月30日 公開 2025年07月09日 更新

矢部太郎さんが、競争で勝てずとも満たされている理由「人と違うことをやれば...」

芸人で漫画家の矢部太郎さんには、笑顔で過ごすために大切にしている時間があります。新刊『ご自愛さん』では、「こんなふうに考えると、自分を大切にすることにつながるかもしれません」と、気持ちがラクになるような考え方や言葉を漫画でご紹介しています。そんな矢部さんが、誰かと競うことは苦手でも幸せを感じ続けられている理由とは?(写真:大靍 円)

※本稿は、月刊『PHP』2023年1月号より内容を抜粋・編集したものです

 

新しい環境が苦手

仕事でもプライベートでも、新しい環境や場所が苦手で、いつも緊張してモジモジしてしまいます。

仕事で初共演の方がいると「テレビではいい人に見えるけど、嫌な人だったらどうしよう」などと妄想がふくらんでしまう。プライベートでも、先輩や友達に食事や遊びに誘われると、いつも直前になって憂鬱になるんです。

楽しみにしていたのに、なぜか面倒に感じてしまう。

でも、「はじめまして」とあいさつすると、どなたもすてきな方だし、先輩や友達と遊ぶと、やっぱり楽しい。実際に行動すると、不安や面倒な気持ちは、どこかに消えてしまいます。

 

結果よりも過程が楽しい

矢部太郎

こんな性格なんとかならないかな、と悩むこともあるのですが、ずっと変わらないんです。

僕の父は絵本作家で、僕の成長記録を「たろうノート」という絵日記として残してくれています。それを読むと、「保育園のクラス替えがあって大泣きした」とか「発表会が嫌で泣いていたのに、舞台に上がるとノリノリで踊りはじめた」なんてことが描いてあるんです。今も昔も変わっていなくて......(笑)。

好きなことや得意なことも、小さなころから変わっていません。お絵描きをしたり、工作をしたりするなど、黙々と細かい作業をするのが好きでした。

大人になってもそれは同じで、たとえば、休みの日に癒されるのは、料理で使う食材の下ごしらえをしている時間です。料理そのものよりも、もやしのひげ根を一本ずつとったり、鶏肉の余分な脂や筋をとりのぞいたりする作業が楽しいんです。処理のしがいがあるようなお肉に出合うと「やった!」とうれしくなります。

こんな話をすると、「何が楽しいの?」と思われそうですが、僕にとっては時間を忘れるほど没頭できて「これが本職だったらいいのに」と思うくらい楽しいことなんです(笑)。

漫画を描くことも、黙々と作業できるので大好きです。描いているだけで本当に楽しい。

効率を考えると、アシスタントさんを雇って、背景などを代わりに描いてもらう方法もあるのかもしれませんが、漫画を描くこと自体が楽しいので、人にわたしたくない(笑)。

読者の方に喜んでいただけたり、出した本が増刷になったりすると、もちろんうれしいのですが、それはあくまで予期せぬボーナスのようなもの。自分が楽しいと思えることが、描き続ける一番のモチベーションになっています。

完成した作品よりも描いている時間のほうが大切というか、結果より過程が楽しいと思えることは、もしかすると僕の強みなのかもしれません。

 

不得意なことは無理してやらない

こんなふうに、僕の根本は昔からずっと変わっていません。今後も、劇的に変わることはないんじゃないかなと思っています。

もちろん、努力や歳を重ねることで変わる部分もあるとは思いますが、基本的に、できないことはできないし、しんどいことはしんどいまま。同じように、好きなことも変わらず楽しいままな気がします。

小さいころから僕は体が弱くて、体力も運動神経もなかったので、何かで競争しても一位にはなれませんでした。昔から「自分が勝てることは多くない」という自覚があったんです。

芸人になってからも同じような状況で、もし芸人の能力を評価するシステムがあったとしたら、ほとんどの項目で僕は最弱クラスだと思います。

気象予報士の資格をとったのも、漫画を描いているのも、人と違うことをやれば競争しなくていいという気持ちがあるからです。

だからこそ、自分が好きなことや得意なことを大切にしてきたし、何をしているときが自分にとって心地いいのかを普段から意識してきました。

できるかぎり自分が幸せを感じる時間を増やしていきたいし、そういう時間があれば、たとえ落ちこむことがあっても、また笑える自分をとりもどせるような気がします。

それに、自分のことを知っていると、苦手なことを避けられて、不必要に落ちこまなくてすみます。

僕は競争や瞬発力を求められるのが苦手で、お笑いのコンテストや大喜利のお仕事の話がくると、やんわり断ります(笑)。自分に合わない、しんどいことを無理してやっても続かないと感じていて......。

「これができない、あれもできない」とは思わなくて、「これができれば充分だ」と満足してしまう。幸せのハードルが低いんでしょうね。「芸人なのに、そんな消極的でいいのか」とよく言われますが......。

そういえば、つい最近また一つ、自分にとって幸せな時間を見つけました。家の庭の穴掘りです。庭のある古い平屋に引っ越したのですが、庭で穴を掘っているだけで楽しくて。これまでの家はベランダだったので、土を自由に掘れてうれしいんです。

そのうちお花でも植えようかな、と思っているのですが、今は穴を掘るだけで満足なので、まだそこまで到達していません。

近所の方からは「変な人が引っ越してきたな」と思われているかもしれませんが(笑)、今日も黙々と庭を掘ろうと思います。

著者紹介

矢部太郎(やべ・たろう)

芸人・漫画家

1977年、東京都生まれ。1997年、お笑いコンビ「カラテカ」を結成。芸人としてだけでなく、俳優としても活躍する。はじめて描いたマンガ『大家さんと僕』(新潮社)で、第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。シリーズ累計135万部の大ヒットとなった。そのほかの著書に『ぼくのお父さん』『プレゼントでできている』(以上、新潮社)、『楽屋のトナくん』(講談社)、『マンガ ぼけ日和』(原案 長谷川嘉哉、かんき出版)、『矢部太郎の光る君絵』(東京ニュース通信社)などがある。

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×