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就職氷河期の実態とは? 「見捨てられた世代」の誤解を解く一冊

大賀康史(フライヤーCEO)

2026年02月05日 公開

就職氷河期の実態とは? 「見捨てられた世代」の誤解を解く一冊

ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。

こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。

今回、紹介するのは『「就職氷河期世代論」のウソ』(海老原 嗣生著、扶桑社)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。

 

氷河期世代論とは何か

「就職氷河期世代論」のウソ

就職氷河期世代と語られる人たち。バブルが崩壊した後の1993年ごろから2004年に卒業した世代ということになります。その時期の就職活動は厳しく、直前のバブル期と比べると採用市場の冷え込みが相当なものだったと言われています。

私は大学院を2003年に修了していますので、まさに就職氷河期世代です。理工学を専攻したため周りの研究仲間はメーカーに就職していく中で、自分はコンサルティングファームを志望して就職活動をしていました。今、コンサルティングファームは人気がありすぎるくらい人気ですが、当時は知名度を上げていたとはいえまだ少数派でした。

戦略ファームと呼ばれるブティック型の会社では、当時採用人数が3人前後のことが多く、応募人数に対して天文学的とも言える倍率だったことが思い出されます。数年経ってからはその枠が倍増したと聞いたので、やはり氷河期の影響はあったのだろうと思います。

ただ、不況で氷河期だったこともあって、私は会社を信頼するのではなく自分の力を頼りに生きられるようになりたいと考え、いつでも転職して飛び出してやるぞ、という気持ちで初めの会社に入社しました。同世代では同じように考えている人が比較的多いような感覚があります。その感覚を持ったことが良かったのか悪かったのか長い間わかっていませんでした。その謎を解き明かしたい気持ちで本書を読み始めました。

 

氷河期の実態

本の中で紹介されているデータを参照すると、2000年と2003年では卒業時点での無職・フリーターの人数が多く、およそ14万人ほどでした。バブル期が2万人台、2018年で4万人台であることと比較すれば、確かに大きい数字です。そして改めて、私が卒業した年は氷河期のピークだったことを認識しました。どうせだったらピークであってほしいと思っていたので、すっきりした感覚があります。

また別のデータとして新卒で大手企業に入社した大卒人数を見ると、やはり就職氷河期では3万人から5万人程度下がっているので、人気の高い大手企業の競争率が高まり、厳しい就職活動をした求職者が多かったのではないかとも推察されます。

加えて、氷河期世代の大卒の多くは35歳までに不安定雇用を脱しているデータも紹介されています。14万人強の無業・非正規の人のうち、35歳までに10万人以上が安定就業をしたことがわかります。

突っ込んでデータを見ていくと、氷河期非正規問題を突き詰めると、性差と学歴差の問題に行きつくといいます。つまり、非正規のままとなった人は、女性であるか非大卒である割合が高い、ということになるのです。

 

氷河期に関わる誤解の増幅装置

日本人の多くがステレオタイプな日本型終身雇用のイメージが色濃く残っているためか、「就職のチャンスは新卒だけ」「あとは終身雇用」と無条件に考えてしまっていることも誤解だと著者はいいます。

卒業後3年以内の離職率は、近年急激に上がったと思っている人が多そうですが、実際は大卒でバブル期からほぼ一貫して30%前後、高卒で40%前後となっています。つまり終身雇用というものはバブルのころからおよそ存在していなかったのかもしれません。なにせ就職した後に30%の人は3年以内に辞め続けていたのです。

また卒業後10年以内に無業・フリーターから正社員になれた人数は、氷河期を通じてほぼ一貫して上がり続け、1年当たり7万人程度に至っています。つまり、日本社会では、大学卒業時点で無業・フリーターであっても、その後に正社員になれるチャンスは十分ある、と言えるのです。

 

5つの社会変化を見落とすな

バブル崩壊後に社会に起きた変化をまとめると、下記の5つになると言われています。以下の5項目は本書からの引用です。

① 中・高卒者の就業機会(製造・建設・農業)が縮小
② 短大卒就職の崩壊(一般職求人の激減)
③ 2000年~2020年にかけて起きた、年功昇給カーブの調整
④ 大学定員数の急増
⑤ 女性の進学率上昇と社会進出

特に④と⑤は氷河期世代の大卒男性を中心に損をしたと感じさせる要因になっているようです。今までは大学を卒業したら楽に大手企業に就職が決まっていたはずなのに、自分たちが決まりにくかったのは氷河期のせいだ、というように。なお、氷河期を通じて女性の年収は上がっていることにも着目しておくと良いでしょう。この変化はいまだ十分ではありませんが、多くの女性にとって望ましい方向性での変化と言えそうです。

 

本当に効く雇用対策

政府は氷河期世代対策として、多額の予算をとり支援メニューを提供してきました。ただ著者によると、そもそも氷河期世代対策では粒度が粗すぎるのと、的も外してしまっていることが多いそうです。

今は「静かな退職」社会になっているといいます。日本では長く正社員をすることは、課長→部長→社長と出世をしていくコースを選んでいることを前提としているようでもあります。正社員は階段を上ることが前提で、それが嫌なら非正規しかない、とでも言っているようです。ただ、階段を上らずそのままストップモーションで生きられる選択ができる仕組みを求める人が増え、それこそが静かな退職というわけです。

また、政府ではPCスキルを中心としたリスキリング支援が行われていますが、再就職に必要なのはそれ以上に各業界特有のスキルや知識だとも言われています。例えばフランスやドイツではホワイトカラーの職務教育として、シラバスの半分以上を企業に丸投げし現場で実習させるというアプローチをとっているようです。

企業としては費用がかからず働いてもらいながら、採用選考の一環としても位置付けられ、面接一本で採用を決めるよりも採用精度が高まるというメリットがあるのです。このような民間の力を活かした就職支援をしていくことも求められていくでしょう。

 

マスコミと政府の意向の悪魔合体に対峙せよ

マスコミの視点では「就職氷河期問題」はその世代の人の注目を集めるとともに、そうでない世代の人にも優越感を持たせる点で扱いやすいテーマと言えるでしょう。それとともに政府としても、困窮者向けの対策をしているアピールがしやすく、政策への反対意見も公には出されにくいという特性があるようです。このようなマスコミと政府の意向の悪魔合体の結果として、就職氷河期問題が長く残っているのです。

ただ私が思うのは、就職氷河期世代やZ世代や日本人のような大きな主語で何かを語ると、必ず間違いが混入するということです。外部環境は共通でも、全体の環境の影響よりも個人差の方が大きく、ことを過度に単純化しないほうが良いだろうとも思います

本書の議論も踏まえて、少なくとも私は就職氷河期世代だったという観念からは解放されたように感じます。さらにはそのような時代背景だったからより苦労された人もいることもあるでしょうし、より良い生き方ができた人もいるでしょう。世代論から適切な距離を取った方が前向きに生きられそうでもあります。氷河期世代の人もそうでない人も、このトピックを片付けたいと思う人にお薦めしたい一冊です。

 

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