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「一意専心」を貫き成功する企業21

加賀谷貢樹(ジャーナリスト)

2011年02月21日 公開 2022年12月22日 更新

加賀谷貢樹

"新興IT企業の「人づくり」

 新興国の台頭を背景に、企業活動のグローバル化が急速に進む日本。熾烈な競争に勝ち抜く「強み」の再構築が求められているいま、「日本流」がもつ価値について、あらためて考えてみることに意義があるのではないか。

 たとえば若いIT企業にも、成長の背景に「日本流」の経営思想が活きていると思われる例がある。その一つが、家庭用ゲームソフトや携帯電話向けアプリケーションなどの動作検証を行ない、不具合を発見する「デバッグ」を手がけるデジタルハーツ(東京都新宿区)だ。

 同社は、開発者が予期しない動作や、ユーザー目線からみて「不快」と感じられる不具合などをチェックする独自の「ユーザーデバッグ」の手法を確立。2003年10月の会社設立から4年3カ月後の2008年2月に、東証マザーズへの株式上場を果たした。

 同社の宮澤栄一社長は、かつて「フリーターに怠け者はいない。活躍の場が与えられていないだけだ」(2008年3月7日付『週刊ダイヤモンド』)と明言し、フリーターを社員に大量採用。彼らを「社会に貢献する技術者」へと育て上げてきた。

 このように「人づくり」を大切にしてきたからこそ、今日の同社の発展があるといっても過言ではない。厳しい経営環境のもと、日本企業の人材育成にかける余力が徐々に失われているなかで、「企業は人なり」という言葉の重みについて、あらためて考えさせられる。

 また、ネット求人専業首位のエン・ジャパン(東京都新宿区)は、企業理念の「人間成長」を、商標登録するほど大切にしているという。

 同社のミッションは「『人』、そして『企業』の縁を考える」こと。普通なら「企業と働く人とのマッチング」とでもいうところを、「縁」と記しているあたり、非常に日本的だ。

 事業指針の筆頭に「社会正義性と独自性」を置いているのも示唆深い。事業の拡大や収益だけを考えれば「転職大歓迎」が企業の本音。だが、そうした風潮に異を唱え、「転職は慎重に」のスローガンを掲げ続けている同社のこだわりに、共感を覚えるのである。

 翻って昨年、携帯電話のネットゲームサイトで高額の使用料を請求されたケースが頻発し、問題となった。コマーシャル等で「無料」を謳っていても、ゲーム内で使用するアイテム(道具)が有料のため、ゲームを行なっているあいだに利用料がかさむのだ。

 ある意味、利潤を最大化するためにはそれが正解なのだろうが、ゲームの仕組みを、誤解が起きないようにもっとわかりやすく周知すべきではなかったか。さらにいえば、義を先にして利を後にする者は栄える、という「先義後利」が日本流の商売道徳であったはずだ。

 一方、世界のトップレベルにある日本の環境技術は、高度経済成長期に深刻化した環境問題を、日本が自力で克服してきた経験の賜物であり、日本が高い国際競争力を誇る貴重な資産だ。

 1869(明治2)年に創業し、鉱山事業を営んできた現・DOWAホールディングス(東京都千代田区)は、従来の精錬事業に加えて、廃棄物処理や土壌浄化、金属リサイクルなどの環境事業で注目されている。

 同社の技術のルーツは、主に日本海側に鉱床が分布する「黒鉱」の処理技術にある。黒鉱には、金銀をはじめとする多くの有用金属が含まれているが、処理が難しく有効利用がなかなか進まなかった。そのなかで、同社は地道な研究開発を重ね、黒鉱に含まれる多様な金属を回収する技術を蓄積してきた。

 こうした取り組みの結果、同社は貴金属やレアメタルなどの回収で先行し、日本の「お家芸」であるリサイクル技術を支える主要なプレーヤーの一社として評価されるに至ったのだ。

 もう一つ、慶應義塾大学のプロジェクト発のベンチャー企業であるエリーパワー(東京都品川区)は、次世代自動車の本命と目される電気自動車の普及をにらみ、大型リチウムイオン電池の研究開発・製造を手がける。

 同社の吉田博一社長は、アフリカを中心とした地域に太陽光発電とリチウムイオン電池を普及させて「蓄電・蓄エネ」を進め、化石燃料の消費低減と発展途上国の人びとの生活水準の向上、加えて世界的な人口増加の抑制に貢献する、という構想も抱いている。

「貴重な地球上の資源を有効活用するため、大型のリチウムイオン電池を大量普及させることにより、地球環境問題の改善に努めます」(同社HP)という資源小国の日本から生まれた独自の貢献思想が、新たなグローバルスタンダードを築くことが期待されている。

 

アニメ・グルメを世界に売る

 ところで「アニメ」や「マンガ」が世界語になるなど、日本発の文化が世界に受け入れられるなかで、業績を伸ばしている企業も多い。

 たとえば創通(東京都中央区)は、『機動戦士ガンダム』など、数多くのアニメーション作品の企画・制作や版権管理で知られる。

 昨年末に中国・成都市の遊園地「国色天郷楽園」に『ガンダム』を模倣したと思われる巨大な立像が現われ、後日、撤去されたことは記憶に新しい。これも逆説的にみれば、日本発のアニメコンテンツがいかに世界で愛されているかの例証ともとれる。

 だが、油断は禁物だ。中国では、シーヤンヤン(喜羊羊)と呼ばれる羊たちとホイタイラン(灰太狼)という名の狼がドタバタ劇を繰り広げる国産アニメ『喜羊羊与灰太狼』(英題『Pleasant Goat and Big Big Wolf』)が大人気である。すでに同キャラクターを使用したグッズ販売や、アミューズメント施設も出来ている。

 話がそれたが、回転寿司を筆頭に、日本発の「B級グルメ」は世界の味になった感さえある。熊本ラーメンの源流の一つである『味千ラーメン』チェーンを展開する重光産業(熊本市)は、中国、アメリカ、カナダなどの海外11カ国で520店以上のラーメン店を出店。上海万博で人気を博したたこ焼き屋『たこ家道頓堀くくる』を運営する白ハト食品工業(大阪府守口市)も、昨年12月に上海市に中国第1号店をオープンした。

 また、日本独自のライフスタイルである総合結婚式サービスも海外進出を始めており、ワタベウェディング(京都市下京区)は香港、台湾、上海にサービス拠点をオープンしている。

 さらに、日本の伝統工芸や地場産業が海外進出を試みるケースも増えている。たとえば南部鉄器のトップメーカーである岩鋳(岩手県盛岡市)は、1960年代から鉄瓶や急須を海外に輸出。ヨーロッパでは一時期「IWACHU」が南部鉄器の代名詞になっていたこともあるという。

 ニューヨーク近代美術館(MoMA)のカフェも、同社の急須を採用している。同社を含む南部鉄器メーカー数社が、フィンランドの「クリーンデザイン」とコラボレーションを行ない、海外販路の強化を進めている。

 日本の風土で育ってきた生活文化のなかに、世界で売れるヒット商品の芽が見つかるかもしれない。

 日本のモノづくりの強みは、技術・品質をひたすら磨き、ユーザー志向を貫くなかで培われてきた。さらに、そこに革新性を加えて、事実上の「世界標準」を創り上げた日本企業が数多くある。

 たとえばコマツ(東京都港区)は、建機にGPSと通信機を装着し、現場の建機の位置や稼働状況などを、離れた場所から管理できる車両管理システムを開発。もともとは盗難防止のためだったが、これが事実上の世界標準に。GPSを利用して、メンテナンス時期が近づいた建機を追跡し、現地の営業所に交換部品を用意しておく、などの対応も行なわれている。

 こうした大企業がある一方で、規模は小さくても「世界一」の中小・中堅企業も少なくない。山形県米沢市に本社を置くハイメカのタンタルコンデンサ製造装置は、世界のスタンダードマシンとして広く普及している。

 タンタルコンデンサは、携帯電話やノートPC、デジタルカメラ、iPod等のモバイル機器のほか、ICタグなどの業務用デバイスの小型高性能化を支えるキーパーツ。世界で年間約300億個生産されるタンタルコンデンサの約75%が、同社の装置を使ってつくられているという。

 一品一品、顧客先のニーズにカスタマイズされた製品を、同社の社員たちは「自分の機械」と呼び、あたかも自分の子供を育てるように手間暇をかけて組み上げていく。2007年に同社を訪れた際、亀森俊博社長は、「お客さまが私たちの先生であり、私たちはお客さまから育てられているのです」と話していた。

 ところが、技術や品質を磨いて競争力を高めてきた日本のモノづくりにも、死角がある。技術的に優れ、高品質な日本製品も、高価な「日本仕様」では価格面で海外製品になかなか勝てなくなってきた。そのため最近では、世界市場をにらみ、製品仕様のダウングレードを検討するケースが増えている。現地ユーザーのニーズを吸い上げた製品開発も不可欠。加えて大きな課題が、モノづくり企業の経営体質強化である。

 昨年4月、自動車ボディ製造用の大型金型を手がける世界最大手のオギハラ(群馬県太田市)の館林工場が、中国の自動車メーカー・比亜迪汽車(BYDオート)に買収された。同社は、金融機関からの追加融資が受けられず、資金繰りに行き詰まり、一昨年、タイ資本の企業になっていた。経営状態の悪化ゆえ、世界有数の技術をもつ日本企業が、いとも簡単に海外企業の買収に遭ってしまうことは問題である。

 

成長の原動力は「真心」

 最後に、日本流の「真心」を貫き、成長を遂げている中小企業の例を挙げておきたい。

 パン・アキモト(栃木県那須塩原市)は、もとは小さな「街のパン屋」。1995年の阪神淡路大震災の際、震災現場に2,000個のパンを届けた同社に、「カンパンのように保存性があり、しかも、焼きたてのようにふっくら・しっとりしたパンをつくってほしい」という被災者からの手紙が届いた。それを受けて同社は一念発起し、『パンの缶詰』の開発に成功。

 いまや同製品は、年間約200万個を生産するヒット商品。自治体向けの防災備蓄用途のほか、アウトドア、土産・ギフト用途も伸びている。『パンの缶詰』は09年3月に打ち上げられたスペースシャトル・ディスカバリー号にも積載され、話題となった。

 同社では目下、3年間の賞味期限のうち2年が経過した『パンの缶詰』を下取りし、海外の飢餓地域に義捐物資として贈る「救缶鳥プロジェクト」を推進中。さらに日本、アメリカ、中国、台湾の4カ国で特許も取得し、05年には海外進出も視野に入れて沖縄工場を操業。同社はいま、アメリカ、香港、台湾を当面の対象に置き、海外市場への本格展開を進めている。

 もう一つ、1966年に箔押メーカーとして創業したツキオカ(岐阜県各務原市)という企業がある。

 箔押とは、もともとは金箔や銀箔を紙や布などの表面に、文字や文様の形に貼り付ける技法をいった。現在は、アルミを蒸着させたフィルムを、商品パッケージに圧着させる手法が主流。同社は、チョコレートや化粧品、タバコ、レトルト食品などのパッケージを飾るロゴや文様の箔押を手がける。

「つねに新しい夢をICHIBANにする」がツキオカのモットー。2009年に同社を訪れた際、本社の玄関ドアに「Is it new?」(それは新しいのか)というスローガンが貼られていた。

 1994年には、同社伝統の箔押技術を活かし、各種のデザインを施した「食用純金箔」を世界で初めて製品化。また2002年には、自社で独自開発した「水溶性可食フィルム」(舌の上に載せると、口のなかで素早く溶けるフィルム)を製造開始。その後「可食フィルム」を医薬品分野に応用し、薬物や薬効成分を含有し、口腔内で数秒で溶ける「フィルム製剤」の開発に成功。

「薬はおろか、水さえ飲み込むことが難しい嚥下困難者が、世界に数多くいます。加えて、高齢者や子供たちも水なしで服用でき、気道をふさぐ心配のないフィルム製剤は、今後一気に市場が広がる可能性があります」と同社取締役開発部長・西村美佐夫氏はいう。

 同社は、2007年に医薬品製造業の認可を取得したあと、新しい薬形として国内で初めてフィルム製剤を厚生労働省に申請。昨年10月に承認を受け、その翌月に国内大手製薬メーカーから製品が市販されたばかりである。

 同社の次の事業の柱として成長が期待されているフィルム製剤関連部署では、従業員たちが毎日の朝礼で、「ツキオカは世界唯一のフィルム製剤技術を通じて6億の人々の病を癒します」と唱和し、仕事に取りかかる。

 一意専心、浮利を追わず、人々のために……。メディアでは日本経済の不振ばかりが強調されるが、こうした「日本流」を貫く志高き企業が、「次のサクセスストーリー」の実現に向けて、日々邁進していることを忘れてはならない。

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