20歳のときに「フィンランドに住みたい」と心を奪われ、その思いを胸に30代で移住をかなえたchikaさん。現地の寿司店で働き始めるも店の倒産を経験し、その後は個人事業主として独立。
人気コミックエッセイシリーズ最新作『北欧こじらせ日記 決意の3年目編』では、さらに大学進学という新たな挑戦の日々が描かれています。
思いがけない出来事に直面しながらも、前を向き続けるその姿勢はどこから生まれるのでしょうか。フィンランドでの暮らしのなかで育まれた、chikaさんの"心の保ち方"について聞きました。
フィンランドで気づいた「自分の性格のクセ」

『北欧こじらせ日記 決意の3年目編』より
――chikaさんのマンガは、ご自身の心の動きが丁寧に描かれている印象です。
フィンランドで生活することで、これまで気づかなかったご自身の性格や思考のクセが浮き彫りになった瞬間はありましたか?
【chika】移住して感じたのは、職場でも生活でも「しんどい時に誰かが察して助けてくれる」ではなく、「必要なら自分から助けを求める」ことが前提になっていることです。
制度や支援先はあるけれど、それらは自分から声を上げないと始まらない。声を上げたらみんなが助けてくれるのですが、どうしても最初は自分の癖として「一人で頑張らなきゃ」と思いすぎるところがあったので、「声に出して助けを求める」ことは訓練が必要な部分だと感じました。
――心がしんどいとき、回復するためのルーティンや頼りにしているものはありますか?
【chika】日記を書くことが、ずっと大きな支えです。小学生の頃から毎日日記を書いていて、モヤモヤしたことも嬉しいことも全部書きます。
ストレスが溜まったときには、今感じていることを言語化しながら「なんでかな?」を掘っていき、最後は「どうしたらいいかな?」まで書き切るようにしています。自分にとって日記は日課で、同時にセラピーのようなものです。
それから、家でも職場でもない「サードプレイス」を持つことも大切にしています。フィンランドでは、職場と家の間にある静かなビールバーに寄って気持ちをクールダウンしたり、休日にはお気に入りの小さな島で水面を眺めたり、コーヒーを読んだりして過ごしています。
――フィンランドでの人間関係は、日本と比べてどのような違いを感じますか?
【chika】人との距離感が、踏み込みすぎない形で保たれていると感じます。
自分のペースを尊重してくれるけれど、必要以上に干渉しない。「尊重と無関心の間」という表現が近いです。
例えば、一緒に旅をしていても別行動が自然に成立することがあります。
友達とサンタクロース村へ行ったとき、相手が「自分は疲れてるから車で寝てるね。チカは楽しんでおいで」と言ったことがあり、最初は驚きました。
けれど「一緒に来たから一緒に楽しまなきゃ」という罪悪感がなく、それぞれが自分らしくあることが許されている。そんな距離感を心地よく感じました。
移住、大学入学、ぬいぐるみ作り...挑戦し続けるためのコツ

『北欧こじらせ日記 決意の3年目編』より
――フィンランド移住そのものが大きな挑戦だったと思いますが、さらに現地の大学に通ったり、ぬいぐるみを制作して販売したりと、chikaさんは絶えず色んなことに取り組んでいる印象です。
無理なく挑戦を続けるための心構えはありますか?
【chika】大きく二つあります。
一つ目は、期日を決めることです。移住前に「とりあえず3年」と決めたのもそうですし、ずっと続くと思うと単調に感じたり息苦しくなることでも、期限を区切ると「いつか終わるから大切にしよう」と思えるようになります。
二つ目は、挑戦は「100%準備はできない」と思うようにすることです。これは寿司学校時代、いつまでもスキルに自信が持てず海外への挑戦を先伸ばす私に、先生が伝えてくれた言葉です。
完璧になってからではなく、「できない前提」で挑戦して、その都度学んでいく。そう捉えることで一歩を出しやすくしています。
――いざ挑戦しようと思っても一歩踏み出せない場合、どんなことに意識を向けたら良いと思いますか?
【chika】「いつかやります」ではなく、小さなことでも「今やっています」に変えることが一つのコツだと思います。
私自身、会社員を続けながら週末に寿司学校に通ったり、まずは独学でぬいぐるみを作り始めたり、いきなり環境を全部変えずに、できる範囲で挑戦を積み重ねてきました。
安全と挑戦を両立させながら「まずやってみる」の心持ちで踏み出す選択肢も良いと思います。
また、不安や焦りがあるときは、原因をじっくり考えて先回りして潰すようにしています。漠然と抱え続けるよりも、ネガティブに感じる要素を書き出して、それに対して対策を立てる。できるところまで準備したら、あとは「これ以上はできない」と思える地点で腹をくくる。
自分は夢見がちなところがある一方で、リアリストな面もあるので、そこでバランスを取っています。準備の限界はありますが、できる対策を積み重ねることで「大丈夫だよ」と自分を安心させられるようにしています。
フィンランドの「幸せの講義」から受け取った二つの視点

『北欧こじらせ日記 決意の3年目編』より
――マンガに描かれた「幸せの講義」を受けたお話が印象的でした。その講義を経て、糧になっていることはありますか?
【chika】この講義は、私自身「人の役に立ちたい」「新しいことに挑戦したい」という気持ちが先に立つ一方で、気づかないうちに限界を超えてしまうことがあり、仕事だけではなく人間関係や生活も含めて、長く自分らしく続けていくには何が必要なんだろう、と悩んでいた時期に受けました。
その中で先生が、「嫌なことや負荷がかかること、落ち込むことを全部避けることが幸せなのではなく、そういうことも含めて経験していくことに人生の意味がある」と話してくださったのが、特に心に残っています。
しんどさを感じる自分を否定しなくていいんだと安心できましたし、自分が大事にしたいと思ってきた方向性は間違っていなかったのかもしれない、と感じられたのが嬉しかったです。
もう一つ大きかったのは、「人とつながることと同じくらい、自分とつながっていることが大事」という言葉です。
誰かのために頑張ることでも、頑張りすぎると続かなくなってしまう。だからこそ、できる範囲を明確にして、必要なことにはNOと言いながら、自分の意思で選び直していくことが大切だと教えていただきました。
授業後の個別の質問でも、「小さなギビングを、できる範囲で長く続けるほうが、お互いにとっていい」というお話をしてくださって、それが当時の私には具体的な道筋になりました。

『北欧こじらせ日記 決意の3年目編』より








