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「ゆとり世代」の戦力化~どうする?管理職

柘植智幸(じんざい社代表取締役)

2013年05月08日 公開 2022年12月21日 更新

知られざる、20代の過酷な労働環境

 管理職のマネジメント能力を考えるとき、「成果主義」の存在も考慮する必要がある。いまは程度の違いはあっても、実に多くの企業が「成果主義」を導入し、管理職層は自分の仕事で精一杯の状況になっている。

 「日本経済新聞」が中間管理職層に行った意識調査によると、新入社員から「質問や指導を求められた際に対応する余裕があるかどうか」を尋ねたところ、『あまりない』『ほとんどない、またはまったくない』と回答した人が合計30%と、全体の3分の1を占めていた。背景には、「成果主義」の浸透により、精神的な余裕がなくなっていることがあるという。「多少はある」との回答は56%、「十分ある」と答えた人は14%に留まった(2007年3月11日「日本経済新聞」)。

 この報道にあるとおり、20代が入社して3年以内に多数が辞めていく現象の背景には、管理職層がオーバーワークで余力がないこともあると私は見ている。

 20代は「成果主義」の最も被害を受けている世代ともいえる。団塊の世代や高度成長世代、バブル世代までは入社しておそらく10年間ほどの期間が、一人前になる猶予期間として与えられていたのではないだろうか?

 これは企業規模や業界・業種、職種による違いはあるものの、概ね10年間ほどはある程度の失敗も許される文化があっただろう。

 だが、いまは違う。「成果主義」や競争原理の浸透により、20代は3年ほどで一人前になることを暗に求められる。さらには、この数年間で派遣社員や契約社員が一気に増えたことで、それまでのコピーを取ったりファックスを送ったりという新入社貝の定番の仕事がめっきり減ってきた。そうした雑用的な仕事は、派遣社員や契約社員に任されることが多い。

 正社員である新入社貝は、バブル世代より上の人たちが想像する以上に。厳しい状況で日々、働いているのである。私が管理職層と接していると、こういった認識すらもち合わせていない。これでは。部下である20代が辞めていくのは、やはり仕方がないと思えるのだ。2010年以降、「ゆとり教育世代」が大量に職場に入ってきている今、職場はいよいよ危機的状況に陥るのではないだろうか。

オールド世代による挑戦状が叩きつけられた!

 「ゆとり教育世代」の恐怖、それは端的にいえば。企業の論理が通用しないことに尽きる。この章の冒頭で述べたように入社式をドタキャンしたり、あっという間に辞めてしまったりとトラブルは後を絶たなくなる。

 管理職もいままでのマネジメントでは、相手にされない。「成果主義」や、正社員と派遣社員、契約社員との役割分担も一部では見直しを求められるだろう。

 すでに、これらの問題は多くの企業で現れてはいるが、経営に携わる者はほとんど意識していない。いや、問題視してはいるものの、具体的な処置をとっていないといったほうが正確だろう。それは、オールド世代がいつまでも幻想にしがみついているからなのではないか、と私は考えている。

 その幻想とは、「一生懸命がんばれば報われる」という類のものである。戦後長きにわたり、こうした言葉は社員のモチベーションを高めるために、大きな意味をもった。

 団塊の世代やそれ以上の世代、つまり、すでに定年を終えた人たちは奇跡の高度経済成長を経験している。懸命に働けば、東京23区で一軒家を建てるのはともかく、郊外にマンションを購入することはできたのではないか?

 地方都市でマイホームを購入するのは、いまほど困難ではないだろう。50歳前後の高度成長世代もそれなりに恩恵を被ったはずだ。

 社内には、定年まで雇用を保証する終身雇用制や、安定的な収入を確保できる年功賃金制が存在してきた。さらには、老後の生活を安定させるだけの退職金もあった。経営陣からすれば、これらは社員に向けてのいわば「約束手形」みたいなものだったのではないだろうか? だからこそ、多くの人は上司から少々、厳しいことをいわれても、いじめを受けても辞めることはなかったのだ。

 1990年代、企業がリストラを始めると、40代、50代の一部の管理職は会社の外にある外部組合に入ってでも、自らの雇用を守ろうとした。これもまた、「約束手形」を信じて働いてきたが、それが裏切られたことへの“報復”であったのではないか、と私は思う。

 ここで問いたい。いまの企業はこうした「約束手形」を20代や30代に出しているだろうか? 答えは、絶対にNOである。私はこの世代に知人が多い。何度か聞いてみたが、ひとりもいない。

 経営陣も団塊の世代も高度成長世代も、自分がつかんだ約束手形を肌身離さず握ったままで、若い人たちには「がんばれば報われる」と口にしているのだろう。これでは、ペテンのようなものではないか?

 そして、さほどマネジメントカもないのに、精神主義的に「働け、働け」と怒鳴る。そして辞めていけば、「いまの若い者は根性がない!」と叫ぶ。どれだけ叫んだところで、若い世代の心には響かないだろう。

 ここまで書くと、耳の痛い管理職層も少なくないのではないだろうか? せめて、そのくらいの感性はどうかもち合わせてほしい。そうでないと、人を動かすことはいつまでもできないだろう。一定の良識と感性をもち合わせている人ならば、2010年以降、「ゆとり教育世代」と接していくうちにきっと思うだろう。彼らは、日本の戦後社会のひずみを象徴している世代なのだ、と。

 このひずみとは、“搾取”を意味する。団塊の世代やそれ以上の世代などが中心となり、若い世代を見事に骨の髄までしゃぶり尽くす搾取構造なのだ。

 私は、入社してすぐ辞める人たちが増えている現象を「職場崩壊」と呼んでいる。この崩壊は、ある意味で当然なのだ。むしろ、健全な方向に流れていると私は思う。辞めることを奨励しようとは思わない。だが、世の中や勤務する企業の搾取の実態を知れば、退職するのはごく自然のことではないだろうか?

 

柘植智幸

(つげ・ともゆき)

〔株〕じんざい社 代表取締役

1977年、大阪生まれ。36歳の若手ながら年間200日以上、研修、セミナーをこなす実力派。就活の学生から新入社員・若手社員まで就業意識や生活環境に詳しく、2010年より社会人となったゆとり世代については早くから警鐘を鳴らしていた。ゆとり世代の違いを明らかにし、今までとは異なる育成法の必要性を説き、書籍やセミナー、講演などを通してマスコミからも注目される。


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