(写真提供:立命館大学)
志願者数を伸ばし続け、国家公務員総合職試験や公認会計士試験における合格者数でも高い実績を持つ「立命館大学」。その実力について、立命館大学客員教授の西山昭彦氏による書籍『立命館がすごい』より解説する。
※本稿は、西山昭彦著『立命館がすごい』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。
経営リソース分析
経営学の応用として、以下の6つの経営リソース、つまりヒト、モノ、カネ、時間、技術、情報について、大学生活に置き換えて考えてみた。これらが充足されているかどうかを5段階で評価した。
①友人:出身は近畿圏外出身者が39.2%、その他が6.9%、計46.1%(在籍者ベース)。留学生数は全国3位で、多様な構成が維持されている。授業外のサークル活動、課外活動などが活発で、友人との交流は盛んである。
評価=5
②大学施設:衣笠、BKCの立地場所はバスの始発駅で、衣笠には多数の路線がある。教育・研究設備は非常に整っている。地域との関係は密接で、下宿などの廉価な住環境は歴史的に充足されている。
評価=4
③コスト:授業料は他大学並みで、生活費は、大阪、京都は高いかもしれないが、収入面でアルバイトの機会は豊富にある。
評価=4
④時間の過ごし方:人によって違うが、通学時間は下宿が多い分、平均では短い。図書館、コモンズ(多目的スペース)、ジムなど学内で過ごす場は十分確保されている。
評価=5
⑤授業を通じての学び、スキルの向上:学生ファーストで教育熱心な教職員が多く、学びの質は高い。授業外のセミナー等も豊富で、学びの場は十分に提供されている。
評価=5
⑥情報:京都で得られる観光・文化情報は日本一ともいえる。東京に比べて政府、企業のリアルタイムの情報に接する機会は少ない。
評価=4
以上の評価では、立地について各1点のマイナスとしたが、これは学生時代に喧噪を離れて勉学や部活に打ち込む貴重な機会と捉えれば、プラスでもある。アメリカのキャンパスではよくあるケースである。
とはいえ、それをマイナスとしても、その他の点はいずれも満点となり、経営リソースから見た大学の評価としては最上位に位置づけられる。
余談だが、私立大学の校舎はきれいで、国立大学との対比は明らかだ。一橋大学に赴任した当初、会議で「私立に比べて、トイレが汚い。学生の満足度も低いのでは」という意見を言ったが、ある女性の教員に「国立のトイレとはこういうもの。うちはまだきれいなほう」と反論された。国立大学は、施設を作るときの予算に比べてメンテナンスの費用が少ない結果と思われる。
学生ファースト指針の徹底
今やどの大学も、学生ファーストを掲げていると思う。問題は、その実現度だ。いかにそれが計画や行動で貫かれ、学生の認識でも評価されているかどうかだ。立命館では、まず第一の政策として「学生、生徒、児童の成長が第一」が働く者の行動の基準とされている。
多様な学生を広く世界中から集めることは大学の多面的な発展の要件だが、既述のとおり立命館は約半分が近畿圏外の出身で、他地域の出身者比率は大規模大学では全国断トツ1位と言われる。留学生も全国3位で、3000人いる(ダイバーシティの確保)。これにより、学生同士の交流と切磋琢磨の幅が広がるメリットがある。
学生ファーストを体現する一つの組織体として、全学協議会の伝統がある。大学を構成するすべての構成員による自治という「全構成員自治」の考え方に基づき、大学を構成する学生、大学院生、教職員および大学側が、教育・研究、学生生活の諸条件の改革・改善に主体的に関わる仕組みを持っている。他の大学では一般には聞かない、特徴のある学生参画の運営制度だ。
就職活動支援にも学生ファーストの思想が徹底されており、特に未内定者へのサポート体制の充実はよく指摘される。それが就職決定率96.5%(2023年度)という結果に結び付いている。
最後に、学生は、立命館での生活をどう総括しているのだろうか。満足度が低い結果であれば、大学の姿勢や制度も意義が低下する。立命館では、学生に対して卒業時に総括的なアンケート調査を行っており、その結果から、学生生活への満足度を見る(2023年3月調査)。
①立命館の教育全体への満足度は、「とても満足」31.8%、「ある程度満足」48.3%の合計が約8割。「どちらかというと満足」を加えると96.5%が満足しており、大学教育全体は学生に評価されている。学生ファーストの観点からは最も大事な指標で、この高い結果は立命館の方針が実現している証拠になる。
②大学での正課(授業)で学んだことが将来の仕事に役立つかどうかも聞いている。正課(授業)で学んだことが将来の仕事に役立つと思うかは、「とても満足」26.5%、「ある程度満足」42.9%の合計が約7割。「どちらかというと満足」を加えると、89.8%が役立つと考えている。仕事の観点からの授業への評価も高い結果である。
③正課外(授業外)で学んだことが将来の仕事に役立つと思うかは、「とても満足」32.8%と「ある程度満足」40.2%の合計が73%。「どちらかというと満足」を加えると、92.5%が役立つと考えている。立命館では授業、授業外両者が相まって学生の成長を促進し、将来への準備がなされており、授業外が授業よりも若干高い結果になっている。
学生は授業以外の時間のほうが長く、教員が授業で接触できる時間は限られている。学生自らが参加する課外活動や交友の重要性が浮かんでくる。逆にそれらに参加しないと、参加した学生に比べて滅失利益が生じる。
近年どの学生でも、一部の学生はキャンパスで一人で過ごす傾向がある。授業が終わるとすぐ帰宅する学生がおり、仲間と一緒に過ごす「居場所づくり」や企画が時代的に重みを増している。
大学として、授業は当たり前だが、それ以外の参加のオプションを多様にするため、交友を活発化するコモンズなどの活用、そこでの発表などのイベント、ハードとソフト両面の整備が望まれる。また立地にもよるが、周辺のアルバイト雇用機会の確保も実社会での経験という点で、成長の重要な要素である。
外部交流
元大学幹部の方が、「立命館が伸びる要因は他とつながり、連携して新たなものを生み出すところ」と言う。
「産学官連携、国際交流、父母・校友とのつながり、さらには大学と事業会社との連携など、大学の自前主義的なところを超えて、外の力をうまく巻き込んできた。そこに職員が果たした役割が大きい。その意味でも多くの職員が外に出て、いろいろな空気を吸って、学内に持ち込んでくれることを強く願います」。
組織とは人が作ったもので、人工的なものだ。常に市場とは差が生まれる。だから、組織が市場ニーズに合うように人工的なものと市場とのギャップを埋める努力が常に必要である。それには元幹部の方の指摘のとおり、組織外との接触を増やして市場の息吹を内部に還流するのが有効だ。
立命館は外部との交流に人一倍、力を入れている。多方面で行われているが、一例を挙げれば、中央官庁への出向がある。内閣府、文部科学省、経済産業省などへ精鋭職員が出向し、中央官庁で揉まれ、視野を広げ仕事術を身につける。
東京での出向者の会が毎月のように開かれ、相互の連携、切磋琢磨をしている。実は私も参加しているが、いつも皆さんのキラキラした目が印象的だ。毎日新しい刺激を受けているのがわかる。そして2年後、大学に戻り、獲得したものをフィードバックする。その循環が回っている。