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芸人・村上純(しずる)×学者・牧田幸裕=超実用的!「思いが伝わる」技術

牧田幸裕(信州大学大学院准教授),村上純(お笑いコンビ「しずる」)

2013年05月28日 公開 2022年12月21日 更新

伝達力を鍛える――お笑い芸人の視点

 ◆自分で自分に記号をつける

 皆さんは、僕の直属の先輩にあたる木村祐一さん、ピースの又吉直樹さんがテレビなどで喋っているところを見るときに、どう受けていますか? 木村さんが「ありえへんー」と独特な着眼点で、ある物事にツツコミをいれたり、文吉さんが、ボソボソと世界観溢れるフレーズを吐き出したりするのを見て引っかかるものはないと思います。

 それは皆さんの中に、すでにお2人を見るときの目が備わっているからと予想ができます。木村さんであれば、普通の人なら気に留めないだろうなというポイントにこだわる人。又吾さんならば、何を考えているかわからない不気味な存在。

 皆さんの周りにも、このように記号をつけられる人間がいるかと思います。とにかく明るいムードメーカーのような人、恋愛のことばかり話している人、グルメな人……と、このように何を話すか予見できる人というのは何かを伝えるうえで前知識を持ってもらえているので、自分のフィールドで話したときにその対象となる人の心にすっと言葉を伝えることができるのです。

 仮にそれを「安心感」と呼ぶとすると、逆に何の情報もない人間には「不信感」があるということになります。不信感を抱く相手の声になんてなかなか耳を傾けたくないですよね。となると、駆け出しのころの僕ら「しずる」は人となりどころか、名前すら売れてないのですから、お客さんからしてみれば、ただの不信感の塊ですよね。

 その2人が前説でちっちゃな声で立ち話をしていたら、笑ってもらう以前に聞いてすらもらえないことなんて目に見えていますし、わかりづらい暗いコントなどした日にはお客さんはもちろん笑わず、むしろ「嫌悪感」すら抱くことは明白です。皆さんも初対面の人にろくに自己紹介もされず、その人の話したい話を延々喋り続けられたら嫌気がさしますよね。もはや、そんな人間は伝達力ゼロ人間と言えるでしょう。

 では、伝達カゼロだった僕が、その後いかにしてお客さんに言葉を伝えようとしているかを紹介させてください。

 まず、以前まではだらだら話していた前説ですが、とにかく大きな声で話すようになりました。簡単なことですが、これはとても大事なことでした。これをすることによってお客さんに「ああ、この子達は若手で一生懸命やっているんだな」という印象を抱かせることができます。ここで大事なのは、その“印象”でお客さんの中に僕らを見る“目線”を作ることができたことです

 そして、僕らは続けます。「僕たちのこと知ってるよ! っていう方は手を挙げてください!」、もちろん誰の手も挙がらない。「あー、勢いよく手が挙がりましたね! みなさん、そんな元気あったんですね!」。ここで初めて、さっきまで何の情報も持ち合わせていなかった若手芸人の一言で、お客さんが笑ってくれるのです。そして、ここでもまたお客さんに、傍らを見る目線をつけることに成功しているわけです。

 ここでついた目線は「お前らなんて知るわけもないのに、大きな声で『知ってますか?』なんてよくそんな愚問を投げかけられたな。それで案の定、恥かいてるよ、ホントおバカな若手芸人」というものです。

 これができてようやく、お客さんとコミュニケーションをとれるわけです。名前も知らない芸人なのですから、名前を名乗っただけでは自己紹介とは言えません。そんなものは小学生でもできます。重要なのは、改めて自分たちは“若手”であって“バカにしていい芸人”なんだということを、お客さんに提示して認識してもらうことです。この手順があって初めてお客さんは話を聞いてくれるのです。

◆「落差」を作り注目させる

 人に何か伝えようとするときに、ピントを合わせなくてはいけないと先にも述べたように、やはり見る側に耳を傾けてほしい部分には「ここ」とポイントを提示することが伝達するうえで、いかに肝要かを読者には再度理解していただきたい。そのために、私が重要視していることは「落差」である。この「落差」は伝達において大きな効果を生む。簡易的に言うと、ギャップというものだが、世に言う“ツンデレ”がそのいい例である。

 「いつもは冷たい男友達が今日は優しい。何だろう、ドキドキする」

 一つの優しさが平坦な場面では、ただの優しさという評価にしか繋がらない。しかし、それに対して右の例のように、マイナスな環境下に突然現れる希少な優しさとなった場合、一つの優しさだけで絶大なる効果を生み出すことができる。以上のことから、一つのプレゼンにおいて「落差」を作ることがいかに伝える力を増幅させるかが、よくわかったかと思う。
  

 と、伝えたいことをこれまで僕が取っていた文体をガラリと変えて書いてみました。短い時間とはいえ、上からものを申してしまい、本当に心の底からお詫び申し上げさせてください。皆様の気分を害し、本当に、本当に失礼いたしました。どうか、ご容赦くださいませ。今後はこのような真似はないように致します。しかしながら、本当に謝っても謝り切れないといいますか……
  

 これはこれで、謝りすぎです。

 ここでなぜ僕がこのようなことをしたかといいますと、皆さんに実際に「落差」を体験してもらいたかったからです。1万字以上“ですます口調”で進めてきた僕の文体が突然、牧田さんのような喋り口になったとしたら、当たり前のようにそこには違和感が生まれます

 そうなれば、改めて読者の方々が「何だ村上、急に上からな感じで来やがって。何やらおかしいな?」と文字に眼を凝らせてくれるのでは、と思いました。それによって、皆さんの心を揺るがしたかどうかは別として、僕の作った「落差」によって皆さんに注目される文章になったのではないかと思います。

 イメージとしては“蝶のように舞い、蜂のように刺す”といったところでしょうか。“ツンデレ”の逆の“デレツン”です。コミュニケーションにおいて、このように「落差」を作ることは相手がイヤでも反応を示してしまう1つの武器とも言えます。沢山の人がいるのでどの武器が相手に伝わりやすいかわかりませんが、「落差」によって人が反応してくれるということがわかっているのであれば、できるだけの「落差」を武器として備えることは大事なことだと僕は思います。

 そのうえで、文体の変化に対して必要以上に謝罪の文を長々と続けていたことを振り返えると、あれはあれで、ある意味小さな「落差」を使った遊びとなっています。上から言っていたモノから、とてつもなく下から行くスタンスという、とても単純な「落差」です。

 そこで、上から目線の文章に対して終わる気配のないお詫びの文に「もういいよ、それは謝りすぎだろ!」と読者の方がもし思ってくれていたら万々歳です。それは紙面を介しての“僕”と“読者の方”の紛れもない会話ですから。僕のツッコんでほしいという意が完全に伝わった、立派なコミュニケーションだと僕は誇りを持って言えます

 この本『30秒で「思いが伝わる」技術』に関してもそうです。中には、お笑い芸人が「ビジネス書? コミュニケーション論?」と面白半分で手に取ってくれる方もいらっしゃると思います。それを裏返して考えてみると、“芸人が書くビジネス書”という「落差」によって、これを読んでくれるそういった方々に、僕の声が少なくとも届いているのです。「普段、ビジネス書なんて手は出さないけど芸人が書いているなら軽い気持ちで読めそうだし読んでみるか」的な読者の方も、やはりビジネス書からの芸人という「落差」をきっかけに購入してくれたわけです。この一連の流れはある意味一つの会話なのだと僕は思います。

 僕は学者としてではなくお笑い芸人として書いているわけですから、この本ではいかにお笑いの世界で実感したものを書けるかがポイントです。できるだけお笑いを通じたもので皆さんに言葉を伝えるか、それこそが牧田さんの書くゴリゴリの文章からの「落差」となります。

 

村上 純

(むらかみ・じゅん)

芸人(お笑いコンビ「しずる」)

株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。1981年、東京生まれ。成蹊大学法学部卒業後、NSC(吉本総合芸能学院)東京校に9期生として入学。2003年に池田一真とお笑いコンビ「しずる」を結成。主にコントを行い、「爆笑レッドカーペット」(フジテレビ系)などでの「青春コント」で人気を博し、「THE THREE THEATER」「爆笑レッドシアター」(フジテレビ系)、「不可思議探偵団」(日本テレビ系)、「おはスタ645」(テレビ東京系)など多数のテレビ番組に出演。コント日本一を決める大会「キングオブコント」では2009年3位、2010年6位、2012年4位の好成績を収めている。現在もルミネtheよしもと(新宿)を中心に劇場出演やテレビ・ラジオ等のメディア出演を続けながら、2011年には木村祐一監督の映画「ワラライフ!!」で主演を務めるなど活動の幅を広げている。
著書に『しずかにながるる』(ワニブックス)、『村上純フォトブック What a Wonderful Life!!』(講談社)などがある。


<書籍紹介>

お笑い芸人×経営学者=超実用的!
30秒で「思いが伝わる」技術

牧田幸裕/村上純 著
本体価格 1,400円

芸人は「論理=左脳」を鍛えているから、突拍子もないことを言えて、笑いをとれるのだ! 准教授とお笑い芸人が教える最強の対話術。

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