芸人・村上純(しずる)×学者・牧田幸裕=超実用的!「思いが伝わる」技術
2013年05月28日 公開 2022年12月21日 更新
《『30秒で「思いが伝わる」技術』より》
<写真:榊智朗>
伝達力を鍛える――経済学者の視点
◆「伝える」×「伝わる」×「動く」
結構大変な受験勉強を経て、僕は京都大学に入学した。苦労して入学した大学なので、「しっかり勉強を頑張って立派な人間になるぞ!」と、志高く大学に通い姶めたのだが、わずか5日間で、大学の講義にはほとんど出席しなくなった。
つまらなかったからだ。志高いパンパンに膨らんだ僕のモチベーションを、ヘニョヘニョにしぼませる、本当につまらない講義を教授たちがしていたからだ。
だから、僕は自分が大学で教鞭をとる立場になったときに、学生に自分が感じたような想いを絶対にさせないようにしようと考えた。
そこで、僕は経営学の研究もさることながら、教え方の研究にも力を注いできた。そして、グロービス、IBM、信州大学、青山学院大学などで教鞭をとってきた。「眼のつけどころ」だけではなく、「伝え方」にもこだわってきたからか、学生たちからは大変高い評価を受けてきた。
そして、実際に教鞭をとりながら分かったことがある。それは、「伝える」ことと「伝わる」ことは違う。「伝わる」ことと「動く」ことも違う、ということだ。
普段のコミュニケーションにおいて、僕たちは「伝えた」だけで、相手に「伝わった」気になっている。しかし、それは違う場合が多い。僕が勝手に「伝えた」と思い込んでいるだけで、実際にはコミュニケーションの相手に正確には伝わっていない場合も多い。
こんなケースを考えてみよう。
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村上さんとラーメン二郎を食べに行こうと思い、「明日9時に、二郎に行きませんか?」と連絡したところ、「いいですね! 行きましょう」と返事が来た。
僕は翌日朝9時に二郎三田本店の前で待っていたのだが、村上さんは一向に現れない。「何か急な仕事でも入ったのかな?」と気にせず、1人で二郎を食べ、僕は大学の講義に向かった。すると夜になり、村上さんから連絡が入った。
「牧田さん、吉本興業の仕事がさっき終わったんで、約束通り歌舞伎町店で待っているんですけど、今どちらですか?」
時計を見ると夜の9時10分だ。しかも、歌舞伎町店?
僕は二郎といえば、三田本店だと思っていたので「二郎に行きませんか?」としか言わなかった。また、村上さんとよく一緒に朝二郎をしていたので、9時だと言えば朝のことだと分かってくれるだろうと思っていた。
一方、その日は吉本興業東京本社(新宿)で仕事があると僕に話をしていた村上さんは、その話の流れなんだから新宿歌舞伎町店に食べに行くのだろうと受け止めた。そして、歌舞伎町店は昼からオープンするので、9時と言えば夜9時だと考えたわけだ。
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このように、自分で「伝えた」と思っても、相手に「伝わって」いないケースは、普段のコミュニケーションの中で散見される。だから、「伝達力」を鍛えるときには「伝える力」はもちろんのことながら「伝わる力」を、意識して鍛えなければならない。
また、仮に伝わったとしても、それで相手が動くと考えたら大間違いだ。頭の中で理解できても、それが心で納得でき、腹に落ち腑に落ちて初めて、人は行動に移る。この「伝わる」から「動く」のフェーズについては別稿にゆずる。
ここでは、まず「伝える力」から検討をしていく。
◆自分の頭の中で伝えたいことを「映画化」する
何を話そうか考えながら話していて、途中で何を話したいのかわからなくなり、グダグダなプレゼンになったことはないだろうか。
何かを相手に伝えようと思ったら、自分の中で伝えたいことのイメージが明らかになっていなければならない。伝えたいことのイメージが明らかになるとは、以下の2つの要件を満たしているということだ。
1.伝えたいことが、自分の脳みその中で映像化されている
2.伝えたいことの最初のシーンから、途中の変化、最後の盛りあがりまで、シナリオが見えている
ロシアの有名な演出家スタニスラフスキーは「話すことは、相手の心に絵を描くこと」だと指摘している。まさにそのとおりである。自分の伝えたいことが、相手の心に絵として映れば、伝えたいことは正しく伝わっているし、誤解されることもないだろう。
しかし、「相手の心に絵を描く」には、「自分の脳みその中に、伝えたいことが映像化されている」ことが前提となるはずだ。
伝えたいことがイマイチうまく伝えられない人、途中からグタグダになる人は、この「自分の脳みその中の映像化」がきちんとできていないことが多い。伝えたいことがはっきりと脳みその中で見えないので、説明ができないのだ。
僕は大学や大学院で講義をする際に、90分または180分という与えられた時間の中で、学生たちがどこで問題にぶつかり、どこで悩み、どう解決し、どう盛り上がるかが見えている。そして、ほとんど外れることがない。言い換えれば、仮に僕が映画監督だとして、映画館に来た観客が、どこで笑い、どこでハンカチを手にするのか、どこで喜んでくれるのか、観客の笑顔、泣き顔を含めて見えているということだ。
だから、僕は講義をしていて、想定外がほとんど発生しない。僕の講義はレクチャー形式ではなく、インタラクティブ方式だ。教壇の上に立って話をするだけではなく、僕はマイクを持ちながら大教室を縦横無尽に歩き回り、学生に質問しながら、その回答に即座にコメントしながら講義を進めていく。学生の回答によって話す内容が変わるので、講義の1秒後を予想することはできない。
しかし、僕は講義の10分後、90分後、180分後を予見できる。僕は自分の持ち時間で、学生に何を伝えるべきなのか、それがすべて見えているからだ。この講義で絶対に学生に理解させなければならないこと、そのために学生に与えなければならない驚き、感動などを、どのタイミングで伝えるのがベストなのかは、事前にシナリオが描かれている。
そして、学生がどのような回答を出してきても、僕は1つの質問に対して数十パターンのコメントを準備している。したがって、学生の回答がどうぶれるかは誤差の範囲内でしかなく、コメントに詰まることはほとんどない。仮に準備コメントがない回答でも問題ない。そのときは、「うーん、どうなんだろうね?」と一緒に考えればよい(笑)。
僕は自分の講義をデザインしている。だから、ぶれない。そして、延長講義をすることもない。たとえば、講義が始まってから15分後に最初の悩みを出して35分後に解決し、40分後にもっと大きな悩みが生じ、ドタバタ苦労して75分後にようやく解決し、10分でその解決方法を振り返り、最後5分はエンドロールが流れるようにするとデザインしているので、時間をオーバーする可能性は極限まで小さいからだ。
このように、何かを相手に伝えようと思ったら、自分の中で伝えたいことのイメージが明らかになっていなければならない。言い換えれば、自分の頭の中で伝えたいことを「映画化」できて、初めて伝えたいことを伝えられるのである。
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牧田幸裕
(まきた・ゆきひろ)
信州大学大学院 経済・社会政策科学研究科 准教授
1970年、京都市生まれ。京都大学経済学部卒業、京都大学大学院経済学研究科修了。ハーバード大学経営大学院エグゼクティブ・プログラム(GCPCL)修了。アクセンチュア戦略グループ、サイエント、ICGなど外資系企業のディレクター、ヴァイスプレジデントを歴任。2003年、日本IBM(旧IBMビジネスコンサルティングサービス)へ移籍。インダストリアル事業本部クライアント・パートナー。主にエレクトロニクス業界、消費財業界を担当。IBMでは4期連続最優秀インストラクター。2006年、信州大学大学院経済・社会政策科学研究科助教授。2007年より現職。2012年、青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 非常勤講師。
著書に『フレームワークを使いこなすための50間』『ラーメン二郎にまなぶ経営学』『ポーターの「競争の戦略」を使いこなすための23間』『得点力を鍛える』(以上、東洋経済新報社)、雑誌連載など多数。