「私がお母さんをなんとしても幸せにしなくちゃいけない」──。
漫画『虐幸のくるちゃん』(木陰ひな田/講談社)の主人公・くるみは、お母さんのことが誰よりも大好き。しかしその一方で、母親の機嫌をうかがいながら、空気を読み続け、常に緊張感の中で日々を過ごしています。
なぜくるみは、自分自身の苦しさに気づけないのでしょうか。今回は作者・木陰ひな田さんに、くるみというキャラクターに込めた思いや、母親を求め続けるくるみの心理について伺いました。
なぜくるみは母親を求め続ける?

──この作品は、お母さんを完全な悪として描いていないのと同時に、くるちゃん自身も自分のことを被害者だとは思っていませんよね。
むしろお母さんへの執着にも似た愛情が描かれていると思うのですが、この「くるちゃん」というキャラクターはどのように組み立てていったのでしょうか。
【木陰】そうですね。くるみの視点で考えると、殴られたり蹴られたりしているわけでもないし、衣食住もちゃんと与えられているので、自分では虐待的な扱いに気づきにくい環境ではあると思うんです。だから、「本人が気づいていない」というところは軸にして描かないといけないなと思っていました。
あと、子どもって本能的に、お母さんに見捨てられたくないという気持ちが備わっている気がしていて。見捨てられたら生きていけないという、サバイバル的な部分もあると思うので、大人として自立するまでは、どうしても親にすがらなきゃいけない部分があるのかなと思っています。
特に中学生くらいだと、それが極端に出るのかなと思ったので、中学生時代はひたすら「お母さん教」に入信しているくらいの感覚で描いていました。「お母さんが言うことは全部正しい」と思っていないとやっていけないし、もし気づいてしまったら、子どもってどうしようもなくなってしまうと思うので。そのくらい洗脳状態に近いほうがリアルなのかなと。
くるみ自身も、お母さんのことを嫌いなわけではないので、「こっちを向いてほしい」「好かれたい」「喜ばせたい」という純粋な気持ちもあるのかなと思っています。
弟や父親はなぜあのように描かれたのか

──ところで、くるちゃんには弟がいますが、弟はくるちゃんと違い、お母さんの機嫌を取ろうとしていません。このあたりはどのような意図で描かれたのでしょうか。
【木陰】弟は弟で、お母さんの機嫌を取ろうとしているお姉ちゃんをずっと見てきた上で、さらにお母さんから比較される存在なんですよね。
だから、ちょっと諦めに近いというか、自分に対しても親に対しても、少し距離を置いている子なのかなと思っています。その分、変に冷静なところがあるキャラクターとして描いています。
母親のためにいい子でいようとする姉を、少し冷静に見ている立場ではあるんですけど、弟は弟で寂しさもあると思うんです。比較されて、「お姉ちゃんみたいにはなれない」「できない自分」というところで、自分に対する諦めみたいなものを抱えているイメージですね。
だから、現実逃避するような感じで、食卓でもYouTubeを見たりゲームをしたりしている子として描いていました。
──お父さんが家庭の中で空気になりがちな感じもリアルだと思います。このお父さんは、あまり子どもたちに関心がないんでしょうか。
【木陰】お父さんはどちらかというと「仕事の人」で。どうしても私の親世代がモデルになっているので、その時代の価値観も入っているとは思います。お父さんは「働いてお金を稼ぐのが自分の役目」という感覚が強いので、子どもにはあまり干渉しないイメージです。
関心が全くないわけではないんですけど、優先順位としては下がってしまっているというか、「自分の担当じゃない」くらいの感覚なのかなと思っています。
きっとお父さんの両親や祖父母もそういう感じだったので、そういう大人の姿を見て育つと、それが普通だと思うんじゃないかなと考えていましたね。
「幸せにしてほしいなんて言っていない」に込めた真意

──くるちゃんは、自分の幸せを犠牲にしながら、お母さんの幸せだけを大切にしてきたように思えます。だからこそ、お母さんがくるちゃんに「くるちゃんに一度も『幸せにしてほしい』なんて言ってない」と伝えるシーンが大変印象的でした。このシーンには、どのような思いを込められたのでしょうか。
【木陰】 一番大切にしたかったのは、「くるみがかわいそう」ということではなくて、お母さんが今までくるみに放ってきた言葉や行動は、全部無意識だったというところなんです。
そこが一番残酷というか、どっちも悪くないし、責めようがない。そういうもどかしさを描きたかったんです。このやるせなさみたいなものを、読んだ人にも味わってもらえたらいいなと思っていました。
──悪意があったわけじゃないから、どうしようもないということでしょうか。
【木陰】そうですね。私も親と話していて、「昔こう言ってたじゃん」と言うと、「え? そんなこと言ったっけ?」って返ってくることが結構あるんです。
──あるあるですね!
【木陰】あるあるです!言った側と言われた側では、その言葉の重みが全然違うんだなというのはすごく感じていたので、そこを表現できたらいいなと思っていました。









