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夫婦の問題を二人だけで抱えない 三宅香帆さんが考える「共同体の役割」

三宅香帆(文芸評論家)

2026年08月26日 公開

夫婦の問題を二人だけで抱えない 三宅香帆さんが考える「共同体の役割」

仕事と家庭の両立が求められる一方、夫婦が向き合い、言葉を交わす時間は失われていく――。

文芸評論家・三宅香帆さんの『「夫婦」不在社会』は、小説や漫画、ドラマ、映画などに描かれた家族の姿をたどりながら、現代の夫婦やパートナーシップを考える一冊です。

本書が関係を維持するための糸口の一つとして示すのが、夫婦を二人だけの閉じた関係にせず、「第三者を介入させる」という考えです。インタビュー後編では、三宅さん自身が夫婦生活で意識していることや、悩みを言葉にするうえで感じる男女差、これからの共同体のあり方について聞きました。

 

夫婦の間で「正解」を決めすぎない

「夫婦」不在社会

――仕事と家庭を両立するうえで、三宅さんが意識していることや、実践していることがあれば教えてください。

【三宅】なかなか「これがコツです」と言えるようなものはないんですよね。むしろ、「これがコツだ」と思い込みすぎないことが大切なのかなと思っています。お互いの仕事の状況や考え方も、そのときどきで変わっていくので、あまり答えを決めすぎないほうがいいのではないでしょうか。

――細かなルールを決めるのではなく、状況に応じて調整しているということですね。

【三宅】家事もルールを決めた方がうまくいく家庭と、決めない方がうまくいく家庭、どちらもありますよね。世間がこれが正解だと言うのは違うのかな、と感じます。

――三宅さんはとても多忙だと思います。仕事と私生活を切り分け、自分の時間や夫婦で過ごす時間を確保するために、意識していることはありますか。

【三宅】ときには諦めたり、割り切ったりするのも大事だと思っています。すべてをきちんとやろうとすると、いくら時間があっても足りませんから。締め切りのある仕事がまったく進んでいなくても、ごはんを食べに行くこともあります...(笑)。

 

自分の内面を言葉にするハードル

三宅香帆さん

――『「夫婦」不在社会』では、夫婦を二人だけの閉じた関係にせず、外部の人の視点や言葉が入り得る状態をつくるという意味で、「第三者を介入させる」ことが提案されています。本書の冒頭で引用されていた『後ハッピーマニア』でいえば、主人公の親友であるフクちゃんが、その第三者にあたるのかなと思いました。

三宅さんにも、フクちゃんのような存在はいらっしゃるのでしょうか。

【三宅】友達をフクちゃんと呼んでいいのか、というところはありますが(笑)、友達の存在は大切だと思っています。ただ、朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』で描かれているように、友人関係のあり方には、男女で違いがあるのかもしれないとも感じています。

――男性は、友人に悩みを打ち明けにくいという話も聞きますね。

【三宅】女性同士のほうが、お互いの悩みを聞き合いやすいのかもしれません。この本についてインタビューを受けるたびに、そう考えるようになりました。悩みを語るハードルのジェンダー差があるのでは、という指摘はいろんな方からいただきますね。

――男性が悩みを言葉にしづらい背景には、何があるのでしょうか。

【三宅】私自身は専門家ではありませんし、十分に理解できているわけでもないので、はっきりしたことは言えません。ただ、以前、編集者さんと話したのは、女性には中学生ぐらいの頃から、なぜかやたらと手紙を書いたり、部活の場で行われる"謎の話し合い"で思いを吐露し合ったりする文化がある一方で、男性にはそうした文化があまりないのではないか、ということでした。

実際のところは分かりませんが、悩みを言葉にして他者に伝える経験には、十数年分の蓄積の差があるのかもしれない、という話をしました。

――女子が手紙を回したり、交換日記をするのは、あるあるですよね。

【三宅】私は交換日記を5冊ぐらいやっていましたよ。連載か、というぐらい(笑)。

ただ、男性も仕事の愚痴はよく話しますよね。上司への愚痴をみんなで言い合うのは、よく見かける光景です。仕事のような公的な話はできても、私的な話はしづらいのかもしれません。

――プライベートな部分を見せること自体に、抵抗があるのかもしれませんね。

【三宅】あくまで自分の経験に引きつけて考えると、男性のほうが、感情を言語化することへのハードルが高い場合もあるのかなと思います。

以前、言語化をテーマにしたワークショップを開いた際、日記や感想を書くことについて、男性の参加者から「自分と向き合っているようで、しんどい」と言われたことがありました。人間関係の問題だけではなく、自分の内面を言葉にすること自体に、ハードルを感じる人も多いのかもしれません。

 

新しい形の共同体はつくれるか

――男性の友人関係という観点では、定年後に会社という居場所を失い、家庭以外のつながりがなくなって困る男性がいる、という話もあります。これは、特定の世代に固有の問題なのでしょうか。

【三宅】『イン・ザ・メガチャーチ』を読んでいても、友人の数や関係の築き方には、若い世代でも男女差があるのだと感じます。むしろ上の世代のほうが、社内のサークル活動などを通じて、単なる同僚にとどまらない、友人に近い関係を半ば強制的につくりやすかったかもしれません。

――アメリカでも、個人化が進んだ反動として、共同体回帰が進んでいます。私自身も、年齢を重ねるにつれて、共同体の重要性を感じるようになりました。

【三宅】私も、共同体を見直すこと自体は重要だと思います。ただ、かつての形にそのまま戻るのはどうなのだろう、という思いもあります。昔と同じ形ではない共同体を、どうすればつくれるのか。

日本には、新しい形の共同体を実現しやすい面もあるのではないかと思っています。たとえば、推し活を通じたコミュニティも、うまくつくることができれば、従来の共同体が持っていた悪い部分に巻き込まれずに、人とつながる場になり得るのではないでしょうか。

――こうした共同体のあり方は、最近の物語ではどのように描かれているのでしょうか。

【三宅】最近の物語では、職場でよい人間関係を見つける話が流行っていますよね。瀬尾まいこさんの『夜明けのすべて』では、転職した先で出会った同僚との関係がユートピアっぽい。アニメ『前橋ウィッチーズ』にも、近いものを感じます。

そう考えると、「会社や職場が、安心して人とつながれるユートピアになってほしい」という願望が、最近の物語には強く表れているように思います。

三宅香帆さん

――最後に、夫婦関係に悩んでいる人へ薦めたい小説や漫画があれば教えてください。

【三宅】本の中でも言及した山本文緒さんの『なぎさ』は、すごくいい小説なので、ぜひ読んでみてほしいなと思います。それから、村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』は、歴史の話だと言われがちで、もちろん歴史の話でもあるんですけど、個人的には夫婦の話として読んだほうが面白いと思っています。最初の牛肉とピーマンの炒め物のシーンに注目してみてください(笑)。

 

プロフィール

三宅香帆(みやけ・かほ)

文芸評論家

1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了(専門は萬葉集)。著書に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書、新書大賞2025大賞)、『「好き」を言語化する技術』(ディスカヴァー携書)、『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』(新潮新書)、『考察する若者たち』(PHP新書)など。

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