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東京は「世界屈指の中華料理都市」? 中国でもマイナーな地方料理が揃う理由

中島恵(フリージャーナリスト)

2026年09月10日 公開

東京は「世界屈指の中華料理都市」? 中国でもマイナーな地方料理が揃う理由


四川省重慶が発祥といわれる酸菜魚。白身魚と漬物(酸菜)を唐辛子、花椒などで煮込んだ料理。酸味とコクのあるスープが特徴。

世界各地に中華料理店はありますが、その中でも東京は、中国各地の料理を味わえる店の豊富さとレベルの高さで際立っているといいます。定番の四川料理や広東料理だけでなく、中国でもマイナーな貴州料理を楽しめる店も。本稿では、ジャーナリスト・中島恵さんの著書『中国の回鍋肉にキャベツは使わない』をもとに、東京の中華料理店事情をご紹介します。

※本稿は中島恵著『中国の回鍋肉にキャベツは使わない』(ウェッジ)より一部を抜粋・再構成したものです。

 

「東京の中華料理のほうがレベルが高く、断然美味しい」

東京では今、日本人が想像する以上に中国各地の地方料理が食べられる環境が整っている。中国八大料理どころか、各省・自治区すべての料理が食べられるといっても差し支えない。

人口14億人の中国にいると食べる機会があまりないのに、中国の10分の1以下の人口の日本、とくに人口約1400万人の東京都で、中国のさまざまな地方料理を堪能できる。考えてみると、ものすごい時代になったものだ。

なぜそれが可能かというと、東京都には在日中国人が集住しているからだ。日本人の食べ物に対する探究心が強いことも関係していると思う。

法務省の統計によると、東京都には全在日中国人(約93万人、2025年末)の3分の1近くの約30万5000人が住んでいる。埼玉県、神奈川県、千葉県など関東近郊を合わせれば、関東近郊に全体の3分の2が住む。

ここで、中国のさまざまな地方からやってきた人々が「自分の出身地の料理が懐かしいから食べたい」「自分の省の料理店を開きたい」と考える。また、「これまで中国で食べたことがなかった〇〇省の料理を食べてみたい」という気持ちになる。「まだ行ったことがない省の出身の中国人から食事に誘われる」という機会もけっこうある。

あらゆる地方出身の中国人が多いため、東京という狭い土地の中で彼らの需要と供給がマッチしているのだ。

アメリカには日本の3倍以上の中国人が住んでいるが、アメリカ在住の中国人に聞けば、そこまでの需要と供給はないのではないかという。

アメリカの場合、主要都市の一つひとつが離れており、中国人は日本の東京近郊のように集住していない。また、アメリカ人の食べ物に対する関心度が日本ほど高くないという点も背景にあるかもしれないという。以前ニューヨークに住んでいた中国人は「東京の中華料理のほうがレベルが高く、断然美味しい」と話していた。

カナダのバンクーバーは以前「ホンクーバー」という別名で呼ばれるくらい香港人が多く、「本場と同じ広東料理が食べられる」と評判になったが、広東料理以外、中国各地の地方料理も食べられるというほどではないようだ。現地在住の中国人の歴史が浅く、出身地のバラエティがまだ日本ほど豊富ではないともいえるだろう。

 

中国でもマイナーな貴州料理

日本で台頭している中華として、思い浮かぶ料理はいくつかある。一つ目は貴州料理だ。

中国の内陸部、西南部に位置する貴州省は中国で比較的影が薄い存在。甘粛省、雲南省などと並んで「中国で最も貧しい省」と言われている。貴州省には「天に三日の晴天なし、地に三里の平地なし」という言い伝えがある。雨が多くて平地が少ない一方で、山地が多く、標高が高い地形だ。

その貴州省で全国的に知名度が高いものといえば、貴州茅台(マオタイ)酒やアジア最大の滝といわれる黄果樹瀑布、ミャオ族、プイ族など少数民族が多いことだろう。人口の4割が少数民族と言われ、私が省都の貴陽に行ったときには、町中で「頭だけ」あるいは「上半身だけ」民族の飾りをつけて歩いている人をかなり見かけた。地方に行けば、全身民族衣装に身を包んだ人もまだ多い。

そんな貴州省の料理は、中国でもめったに食べる機会はない。北京や上海の街を歩いていて、貴州料理店の看板はほとんど見かけない。ただ、近年ではショッピングセンターのレストランフロア(日本の百貨店のレストランフロアのような感じ)に貴州料理店が少しずつ入るようになった。

私も貴州省以外では北京のショッピングセンターで食べたことがあり、店員は少数民族の衣装を着ていた。話さなかったので、本当に少数民族の出身者なのかは不明だが、北京のような全国各地から人が集まっている大都会で少数民族を見かけることは少ないので、店に入っただけでちょっとした旅行気分が味わえる。

日本人が東京で沖縄料理店に行き、沖縄のかりゆしウエアを着ている店員を見たり、沖縄のお酒を飲んだりして、プチ沖縄旅行気分に浸るのと少しだけ似ている。

 

日本に存在する貴州料理店

そんな貴州料理の有名店が東京にある。

店名は「貴州火鍋」。店の前を通ったことがあるが、残念ながら開店時間よりだいぶ早くて入れなかった。

飲食店予約サイトや個人のSNSなどで紹介されている記事を見ると、店名の通り、貴州省名物の火鍋を中心に、珍しい貴州料理を出していて、中国人だけでなく日本人の間でもファンが増えている。貴州料理といえば、ほぼこの店の独壇場といってもいいようだ。

店のサイトによると、店主は貴州省遵義(ズンイー)市の出身。遵義市といえば、貴州名物の酸スワンタンユー湯魚の発祥の地だ。私が貴陽に滞在していたときも、ほとんど毎晩、夕食のときに円卓に出てきたのがこの酸湯魚だった。

酸っぱくて辛いスープに川魚や野菜がたくさん入っている。寒い時期に食べたら身体が温まるし、夏の暑い時期にビール片手に食べるのもいい。これらを東京で手軽に味わえるという。

私は高田馬場にある「成都姑娘」で酸菜魚を食べた。貴州省、雲南省、四川省は似た料理もあるので、成都がある四川省でも食べる習慣がある。

ところで、遵義は中国では有名なところだ。人口は約740万人。ここは1935年、中国共産党が「遵義会議」を開いたという歴史的な場所。この会議で毛沢東が中央政治局常務委員に選出され、軍での指導権が高まったといわれている。

そういう歴史的な場所だからか、上海市や山東省青島市など、あちこちに遵義路という名の道ストリート路がある。中国の住所は、たとえば上海市なら上海市〇〇区〇〇路という表記が一般的で、〇〇区は市の下に該当し、その下の〇〇路は町の名前だ。東京都千代田区大手町、みたいな感じ。そこに使われているので、馴染みがある。

 

プロフィール

中島恵(なかじま・けい)

フリージャーナリスト

1967年、山梨県生まれ。新聞記者を経て、フリージャーナリスト。
公式ホームページ http://keinaka.com/ 
著書は出版順に『トラブらないトラベル会話 広東語』(三修社)、『職は中国にあり』(夏目書房)、『ポジャギ 韓国の包む文化』(白水社)、『中国人エリートは日本人をこう見る』、『中国人の誤解 日本人の誤解』(いずれも日経プレミアシリーズ)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』(中央公論新社)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)、『中国人エリートは日本をめざす』(中央公論新社)、『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は財布を持たないのか』『日本の「中国人」社会』『中国人は見ている。』(いずれも日経プレミアシリーズ)、『中国人のお金の使い道』(PHP研究所)、『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)がある。

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