"お調子者"や"太鼓持ち"といったネガティブなイメージが強い、ドラえもんのスネ夫。しかし富山大学の横山泰行名誉教授によると、あの立ち回りの上手さこそ、厳しい社会をたくましく生き抜くための重要なスキルだといいます。
本稿では、書籍『ポケット版「スネ夫」という生きかた』より、「スネ夫流ホメ方の作法」を分かりやすく解説します。
※本稿は、横山泰行著『ポケット版「スネ夫」という生きかた』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
心を許してしまうほど上機嫌になる、スネ夫流ホメ方の作法
スネ夫のホメ力といえば、激怒するジャイアンをうまくなだめるという「お約束の展開」で、みなさんおなじみのことと思います。スネ夫のことばの力は偉大ですよね。
彼がもし総理大臣になったら、世界平和に貢献しそうな勢いです。
なぜジャイアンは、スネ夫にホメられると気持ちがよくなって心を許すのでしょうか。ちょっと心理学を借りて説明を試みたいと思います。
富山大学で教職に就いていた頃の私の専門は、前半は「学校保健」、後半は「生涯スポーツ」と「ドラえもん学」でした。ですが、心理学の本もよく読みます。教育心理学や社会心理学を知っていると、人生のいろいろな場面で役に立つからです。
たとえば「なぜ、あの人はこう言ったのか?(行動したのか?)」という相手の気持ちやリアクションを推察するときに、心理学は強力な武器となります。カンタンな入門書を読むだけでもじゅうぶん楽しめるので、みなさんもぜひ心理学を活用してみてください。
また、スネ夫の言動を分析するのに、心理学はもってこいの学問です。こんな私のスネ夫研究は、世界に類を見ない"偉業"ではないでしょうか!?
余計な前フリはさておき......、心理学をひもとくと、スネ夫のホメ方は直球ストライクで、大変効果的であることがわかります。
その人が大切に思っていること、強い関心をもっていることを心理学の用語では「自我関与」(※1)と呼ぶのですが、「自我関与が大きいほど、ホメられるとうれしく感じる」とされています。
たとえば、スネ夫に歌をホメられたジャイアンが骨抜きになってしまうのは、彼が歌うことが好きで、歌に対して真剣であり、自分の歌を評価されたいからといえます。だから、どんな状況でも「歌」をホメられれば、間違いなくごきげんになってしまう、というわけです。
この考えかたでいくと......。仕事を頑張っている人は仕事の成果を、自分の破天荒さを自慢するような自称・ワイルドな人は行動の1つ1つがワイルドなのをホメると効果的!? ということになります。なんとなくうなずける理論ですよね。
実際に、この理論を実践しているスネ夫のシーンを見てみましょう。
---------
「レコード製造機」で、ジャイアンのレコードを作ってあげたのび太。ジャケットにはジャイアンがかっこよく写った写真まで入っています。大喜びしたジャイアンは、道でレコードを売り始めました。
それに気づいたスネ夫は、しずちゃん(※2)やクラスメートにジャイアンのレコードを買わされないように、回り道することをコッソリすすめて回ります。噂はあっという間に広がり、ジャイアンがいる通りには、ばったりと人通りが無くなってしまいました。
いぶかしく思ったジャイアンは、「とうぶん近よらないほうがいい」とヒソヒソ話しているクラスメートを発見します。
「やいこらっ」と怒るジャイアン......。
すると、異変に気付いたスネ夫がすかさずお金を持って現れ、ジャイアンのレコードを買い求めようとします。ほかの仲間たちも集まってきました。
「レコードだしたんだって。なぜ早くおしえてくれないんだよ」
「わるいわるい、このつぎからちゃんとでんわするよ」
スネ夫のホメことばに急に、上機嫌になるジャイアンでした。
『てんとう虫コミックスドラえもん 第11巻』
小学館第18話目「ジャイアンの心の友」
---------
どうでしょう、スネ夫の変わり身の早さは、さすがですね!ここでもまたまた、ホメの高度なテクニックが使われています。
「レコードだしたんだって。なぜ早くおしえてくれないんだよ」というスネ夫の問いかけのセリフですが、これは遠回しな形でジャイアンをホメています。
人に質問することで「あなたに興味がありますよ」という気持ちを伝えることができます。誰だって、自分自身のことに興味を持ってもらえたらうれしいですよね。それが、自我関与の大きなこと(強い関心をもっていること)についての問いだったら「なおさらうれしい」というのが、老若男女を問わず、人間に共通した性質なのです。
『渡辺篤史の建もの探訪』にも使われている!?
自我関与というものがよくわかるテレビ番組があります。
『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日系)をご存じでしょうか。建築作品として評価できるお宅を俳優・渡辺篤史さんが訪れ、紹介していくという番組です。「いや〜、すばらしい!」とどんな物件からも魅力を引き出してしまう渡辺さんのトークは、「究極のヨイショ芸」と称され、他のタレントからマネされるほど人気です。
この番組で私がいつも注目してしまうのは、渡辺さんよりもむしろ家主さんの表情です。渡辺さんに、間取りや設計、果ては建築の意図などを聞かれて、家主さんは非常によい表情で答えを返されています。
考えてみれば、家などというのは一生に一度、できるかできないかという買い物。運よく家を建てられた人にとっては、とてつもなく大きな自我関与があるはずです。その家について、あれこれ聞かれて、うれしくならないワケがありません。
この番組は、2026年には38周年を迎えるというご長寿番組ですが、長続きしているのも素直に納得できます。
このように、誰かをホメたいときは、相手が大切にしていることやモノについて質問してみてください。ジャイアンに限らず、誰の心も根っこのところでは、けっこう単純なのかもしれませんね!
(※1)「自我関与」
ある事柄を自分のもの、あるいは自分に関係があるものとして考えること。その人が大切だと思っているものほど「自我関与が大きい」という。
(※2)登場人物「源静香」の作中での呼び方について、アニメなどでは「しずかちゃん」とすることが多いですが、本書ではマンガでの表記である「しずちゃん」を使用しています。








