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なぜスネ夫の夢は叶わなかった? ドラえもん研究者が考える成功の条件

横山泰行(富山大学名誉教授)

2026年10月19日 公開

なぜスネ夫の夢は叶わなかった? ドラえもん研究者が考える成功の条件

『ドラえもん』の未来では、スネ夫は会社の社長となり、忙しく仕事をこなしています。一方で、彼が本当に夢見ていたのは「デザイナーになること」でした。

富山大学人間発達科学部名誉教授の横山泰行さんは、スネ夫が夢をかなえられなかった理由を、「ビッグマウス」ではなかったからだと読み解きます。

本稿では、書籍『ポケット版「スネ夫」という生きかた』より、「ビッグマウス」の効用について紹介します。

※本稿は、横山泰行著『ポケット版「スネ夫」という生きかた』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

ビッグマウスこそ、成功の秘訣だった!?

「ビッグマウス」と聞いて、みなさんは誰を思い浮かべますか? 古くは「ビッグ発言」で話題を呼んだ田原俊彦さん、亀田兄弟、サッカーの本田圭佑選手などでしょうか。

本田選手が「ビッグマウス」だとして、その発言ばかりを集めたインターネットのサイトがあります。その一部を見てみましょう。

「サッカーで緊張したことはない」
「ボールを持ったら、とりあえず俺を見ておけ」
「状況に応じてチームのためにエゴを消さないといけないが、理想は90分エゴを出すこと」
「欧州スカウトの見る目のなさを感じている」
「本田圭佑のストーリーは始まったばかり。今後のストーリーの筋書きは、自分自身で決めることだと思う」

確かに、これらの発言は「ビッグマウス」なのかもしれませんが、私のような年を重ねた人間から見ると「若いって素晴らしい」と、ほほえましく感じます。

「ビッグマウスであり続けること」、すなわち反骨精神やチャレンジ魂を持ち続けることは難しいことだと、体験的にわかっているからです。年をとると誰でも疲れて丸くなってきますからね......。

どうやら日本人は、自信に満ちた人やポジティブな人を、面白おかしくとりあげるような風潮がある気がします。ひょっとして、「私だって言いたい放題、デッカくてかっこいいことを言ってみたい」という抑圧された願いがあるからかもしれません。

実は私は、ビッグマウスな人にこそ成功のヒントがひそんでいるような気がしてなりません。

『ドラえもん』の登場人物の中では「ビッグマウス=スネ夫」という先入観があるかもしれませんね。ですが、意外とそうでもありません。どちらかといえば、できそうにないことをいつも約束してしまうのび太のほうが、ビッグマウス体質ではないでしょうか?

とくに、自分の夢について、スネ夫は積極的に明かしていません。「スネ夫の将来の夢はデザイナーだった」という事実を、みなさんご存じでしたでしょうか?

スネ夫がジャイアンに恥ずかしそうに夢をカミングアウトするという、めったにお目にかかれないスネ夫的ビッグマウスな場面を紹介しましょう。

 

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着替えの回数が多く、ママに叱られるのび太。いつものようにドラえもんに助けを求め、「きせかえカメラ」を手に入れます。それは「画用紙に描いた絵を入れて撮影すると、被写体にそのデザイン通りの洋服を着せることができる」というすぐれた機能をもつカメラでした。調子に乗ったのび太は、「きせかえカメラ」を片手に、さっそく町へと飛び出します。

のび太が最初に出会ったのはジャイアンとスネ夫。わざと女の子用のワンピースのデザインをカメラに入れて、ふたりを撮影したところ、彼らはかわいい「女子ファッション」に一瞬にして変身してしまいました。怒ったふたりにボコボコにされたのび太は、カメラまで取り上げられ、泣きながら逃げ帰ります。

一方「きせかえカメラ」を手に入れたふたりは、将来の夢を語り合います。

スネ夫は「デザイナーになろうと思って勉強中なんだ」と、こっそり描きためている洋服のデザイン画を披露しました。

驚いたジャイアンですが、スネ夫に負けじと「ファッションモデルになるのがゆめ」と打ち明けます。彼らは「ふたりで組んでファッションショーをやらないか」と大いに盛り上がります。

『てんとう虫コミックスドラえもん 第3巻』小学館
第11話目「きせかえカメラ」

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結局、スネ夫は「会社の社長になって忙しく仕事をこなす」という未来の設定になっており、残念ながらデザイナーになる夢は実現しませんでした。

 

ビッグマウスな人の成功例

しかし、現実の世界ではビッグマウスな人の成功例はたくさんあります。

みなさんもよくご存じの方ですと、元水泳選手の北島康介さん。アテネ・北京オリンピックで見事に2大会連続で金メダルを獲得しました。彼のモットーは「有言実行」。大会の前から「金メダルを狙えるところにいる」「目標は金メダル」と公言していたそうです。

このように、「スゴイこと」「大きいこと」を宣言することには、心理的に大きな効果があります。心理学では、これをアファメーション(※1)と言うそうです。

宣言されたことばは、本人や周囲の人間の無意識の中に深くもぐり込み、やがてそれが実現するように、本人や他人の行動にじわじわと影響が出てくるのだそうです。

いわゆる、「思い込み」というものでしょう。もちろん、人により効果の程度は違うと思いますが、面白い現象だと思いませんか。

私は、「ビッグマウス」には「アファメーション」に近い効用があると感じています。

もちろんそれだけではなく、能力を最大限に発揮できるような環境づくりや、本人の努力も重要になってきますが。そうでないと、ただの「大風呂敷を広げる人」で終わってしまいますからね!「ビッグマウス」に、環境づくりや本人の努力などの要因が重なれば、鬼に金棒というわけです。

「もしかすると、スネ夫は恥ずかしがらずに、デザイナーになる夢をもっともっと、語ればよかったのでは......」と、老婆心(老爺心?)ながらに思います。私は『ドラえもん』のすべてのコミックスを読破しましたが、スネ夫がデザイナーになる夢について語っている場面は、実は4か所しかないのです。

さあ、あなたもスネ夫を反面教師にして(!?)、「ビッグマウス」を始めましょう。

 

(※1)「アファメーション」
英語で「宣言・断言affirmation」のこと。動詞のアファーム(affirm)とは「断言する」という意味である。

プロフィール

横山泰行(よこやま・やすゆき)

富山大学人間発達科学部名誉教授・教育学博士

1942年岐阜県生まれ。1976年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。フルブライト交換留学生(ペンシルベニア州立大学)。生涯スポーツ論専攻。ドラえもんアナリスト。登場人物が夢や悩みにどのように対応し、解決したかを考え、人生を豊かにする方法を模索する「ドラえもん学」を研究。1999年、富山大学にて単位認定のない自由参加型ゼミ「ドラえもんの世界」を開講。ドラえもんの誕生日である同年9月3日には、ホームページ「ドラえもん学コロキアム」を開設し(現在は閉鎖)、「ドラえもん学」を宣言。2004年、高岡市立中央図書館と富山大学研究室に、1344点の雑誌初掲載時の作品のコピーと初版の単行本を置いた、「ドラえもん文庫」を開設。主な著書に『「のび太」という生きかた』『「のび太」が教えてくれたこと』『「スネ夫」という生きかた』(アスコム)があり、これらで合計50万部を突破している。

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