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[「トヨタ式」の原点]トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉

2013年07月12日 公開

若松義人(カルマン社長、「トヨタ式」のコンサルタント)

 

昨日のことは忘れろ。明日のことは考えるな。

 トヨタ式をひと言で表すとすれば「昨日より今日、今日より明日」と日々改善を重ねることで、日々進歩するということだ。改善による進歩はほんの小さなものであっても、「日々改善、日々実践」を積み重ねていけば、1年後、2年後、さらには10年後に過去を振り返ったときには、相当大きな改革を成し遂げていることになる。

 とはいえ、いい改善ができると、人間は「うまくいった。これでしばらくは大丈夫だ」と満足しがちだ。大野耐一氏はこうした自己満足こそが改善の芽を摘むと考えて、こう話していた。

 「改善しながら、しばらくは大丈夫という頭があると、もうダメで、それ以上の進歩や向上がない。昨日改善したことも、今日はダメなんだ。今日改善したことも、明日にはタメになるかもしれないと考えないといけない」

 今日、どれほどの成功を収めたとしても、そのまま何も変えなければあっという間にダメになるのが、今という時代だ。昨日と比較せず、「明日やろう」などと延ばすことなく、「今日を最悪と考え」て、今日、最善を尽くす。日々改善、日々実践を愚直にやり続ける。それがトヨタのやり方であり、「現状維持は、後退と同じである」と考えることで、はじめて人も企業も「昨日より今日、今日より明日」へと進歩し続けることができる。

 

1人の100歩より、100人が1歩ずつ。

 これがトヨタ伝統の考え方である。たしかに、たった1人の天才が優れたアイデアを出し、企業を引っ張り、大きく業績を伸ばすというケースもあるだろう。100人の凡人よりも1人の天才がすべてを変えてくれるという「スーパーマン志向」だ。

 9代目「カローラ」のチーフエンジニアを務めた吉田健氏の役目は、設計コンセプトの創造にはじまり、車両設計、生産、販売、サービスに至るまで、あらゆるプロセスの監督だった。そのために、エンジンやボディー、シャシーといった技術者が集められたが、吉田氏がそこで最も大切にしたのが信頼感と共有意識だった。

 チーフエンジニアであれば、自分1人の考えでがんがん引っ張っていくこともできる。しかし、それでは人は育たない。若いエンジニアの感覚も生かせない。吉田氏は自分の考えているコンセプトを何百回とみんなに話し、みんなのアイデアを聞いてはコンセプトの修正や深化をはかった。時間はかかるが、このやり方のほうが人は育つ。

 「僕は、1人で悩むよりは100人で悩みたい」

 1人ひとりが「プロ」として考え、自分なりのアイデアを出す。松下幸之助氏が「衆知を集める」といういい方をしているが、トヨタは1人の知恵よりもみんなの知恵、1人の力よりもみんなの力を信じる会社なのである。

 

トヨタ式は、人間の知恵のうえに立つものだ。

 「自働化」は、始祖・豊田佐吉氏の発明した自働織機が、糸が切れたら自動的に止まって不良品をつくらないように設計されていたことに起因している。

 「ジャスト・イン・タイム」は、創業者・豊田喜一郎氏の考案によるもので、トヨタ式の「必要なモノを必要なときに必要なだけ」のことである。

 そして何より大切なのが、「人間の知恵のうえに立つ」である。トヨタ式というと、「かんばん」をはじめとするさまざまな手段が有名だが、そのすべては人間の知恵を引き出すためのものであり、人間の知恵によって改善されていくと考えるところにトヨタ式の大きな特徴がある。それほどにトヨタ式は「人間の知恵」を信頼している。

 難題に直面してすぐに「できません」といった課長に大野耐一氏はこう激怒した。

 「お前には多くの部下がいる。人間は真剣になれば、どれくらい知恵が出るかわからん。なのに部下たちの知恵をまったく無視して、『できません』とは何事だ!」

 知恵はみんなに平等にある。上司の役目は部下に難しい課題を与え、困った状態をつくり出して、部下がもてる知恵を引き出すことにある。まずは部下の知恵を信じろ、部下の無限の知恵を信じろという考え方であり、人間の無限の知恵を引き出せば「できない」ことも「できる」ようになるというのがトヨタの考え方である。

 

平均でものを語るな。

 1970年代半ば、イトーヨーカ堂の創業者・伊藤雅俊氏がトヨタ式に興味をもち、大野耐一氏を訪ねた。在庫を減らしたいのだが、その過程で機会損失が発生することも多く、どうすれば適正な在庫を抱えられるかについて相談するためだった。

 伊藤氏は商売上「3カ月くらいの在庫」が適当と考えていた。それに対して、大野氏は次のようにアドバイスした。「在庫3カ月」といっても、それはあくまでも全体の「平均値」であり、現実にはよく売れる品物の在庫は限りなくゼロに近く、売れない品物は何カ月も埃をかぶっている。正しい在庫管理には「平均値」ではなく、一品一品の適正在庫をチェックする必要があるのではないか、というものだった。

 トヨタの車が世界でどれだけ売れているかを語るとき、世界シェアだけを見ても意味がない。たしかに販売台数では世界第1位だが、国別、地域別に見ていけば日本のように圧倒的に強い国もあれば、新興国などまだまだ微々たる数字の国も少なくない。個々の数字を丹念に見ることで、はじめて本当の意味で世界中の人に愛され親しまれるレベルに到達することができる。

 平均値にも意味はある。しかし、現実のビジネスは1つ1つの積み重ねだ。そのことを忘れて足し算や平均値だけで、すべてがわかったつもりになってはいけないのである。

 

若松​義人

(わかまつ・よしひと)

カルマン〔株〕社長

1937年宮城県生まれ。トヨタ自動車工業に入社後、生産、原価、購買、業務の各部門で、大野耐一氏のもと「トヨタ生産方式」の実践、改善、普及に努める。その後、農業機械メーカーや住宅メーカー、建設会社、電機関連などでもトヨタ式の導入と実践にあたった。91年韓国大字自動車特別顧問。92年カルマン株式会社設立。現在同社社長。中国西安交通大学客員教授。
著書に『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』『トヨタ流「改善力」の鍛え方』(以上、成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』 『なぜトヨタは逆風を乗り越えられるのか』(以上、PHP新書)、『トヨタ式「改善」の進め方』 『「価格半減」のモノづくり術』(以上、PHPビジネス新書)、『トヨタ流最強社員の仕事術』(PHP文庫)、『先進企業の「原価力」』(PHPエディターズ・グループ)、『トヨタ式ならこう解決する!』(東洋経済新報社)、『トヨタ流「視える化」成功ノート』(大和出版)、『トヨタ式改善力』(ダイヤモンド社)などがある。

<書籍紹介>

トヨタが「現​場」でずっとくり返してきた言葉

若松義人著
本体価格 860円

最強の日本企業、その現場で生まれたひと言集! 「昨日のことは忘れろ、明日のことは考えるな」など、トヨタ哲学が詰まった一冊。



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