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[「トヨタ式」の原点]トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉

若松義人(カルマン社長/「トヨタ式」のコンサルタント)

2013年07月12日 公開 2022年12月21日 更新

昨日のことは忘れろ。明日のことは考えるな。

トヨタ式をひと言で表すとすれば「昨日より今日、今日より明日」と日々改善を重ねることで、日々進歩するということだ。

改善による進歩はほんの小さなものであっても、「日々改善、日々実践」を積み重ねていけば、1年後、2年後、さらには10年後に過去を振り返ったときには、相当大きな改革を成し遂げていることになる。

とはいえ、いい改善ができると、人間は「うまくいった。これでしばらくは大丈夫だ」と満足しがちだ。大野耐一氏はこうした自己満足こそが改善の芽を摘むと考えて、こう話していた。

「改善しながら、しばらくは大丈夫という頭があると、もうダメで、それ以上の進歩や向上がない。昨日改善したことも、今日はダメなんだ。今日改善したことも、明日にはタメになるかもしれないと考えないといけない」

今日、どれほどの成功を収めたとしても、そのまま何も変えなければあっという間にダメになるのが、今という時代だ。昨日と比較せず、「明日やろう」などと延ばすことなく、「今日を最悪と考え」て、今日、最善を尽くす。

日々改善、日々実践を愚直にやり続ける。それがトヨタのやり方であり、「現状維持は、後退と同じである」と考えることで、はじめて人も企業も「昨日より今日、今日より明日」へと進歩し続けることができる。

 

1人の100歩より、100人が1歩ずつ。

これがトヨタ伝統の考え方である。たしかに、たった1人の天才が優れたアイデアを出し、企業を引っ張り、大きく業績を伸ばすというケースもあるだろう。100人の凡人よりも1人の天才がすべてを変えてくれるという「スーパーマン志向」だ。

9代目「カローラ」のチーフエンジニアを務めた吉田健氏の役目は、設計コンセプトの創造にはじまり、車両設計、生産、販売、サービスに至るまで、あらゆるプロセスの監督だった。

そのために、エンジンやボディー、シャシーといった技術者が集められたが、吉田氏がそこで最も大切にしたのが信頼感と共有意識だった。

チーフエンジニアであれば、自分1人の考えでがんがん引っ張っていくこともできる。しかし、それでは人は育たない。若いエンジニアの感覚も生かせない。

吉田氏は自分の考えているコンセプトを何百回とみんなに話し、みんなのアイデアを聞いてはコンセプトの修正や深化をはかった。時間はかかるが、このやり方のほうが人は育つ。

「僕は、1人で悩むよりは100人で悩みたい」

1人ひとりが「プロ」として考え、自分なりのアイデアを出す。松下幸之助氏が「衆知を集める」といういい方をしているが、トヨタは1人の知恵よりもみんなの知恵、1人の力よりもみんなの力を信じる会社なのである。

 

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トヨタ式は、人間の知恵のうえに立つものだ。

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