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茂木健一郎 脳と占い

2013年08月06日 公開

茂木健一郎(脳科学者)

《『考える脳』より》

科学と迷信のあいだ

脳と占い

 ぼくは10月20日生まれの「てんびん座」である。学生の時、雑誌『ぴあ』の星占いのコーナーを毎号見ていた。別に何の考えもなく、毎回、「おっ、当たっているじゃないか」などと思っていた。

 ある時、ふと気付いて、他の星座の項も読んでみた。おとめ座を見ると、やっぱり当たっている。ふたご座も自分に当てはまる。おひつじ座もどんぴしゃりである。それで、やっと、ははあ、そういうことかと気付いた。

 占いは、1つの芸術である。「あなたは酸素を呼吸しています」などという、明らかに誰にでもあてはまることを書けば、そんなことは当たり前だとバカにされる。一見、自分宛てに書かれたように見えて、実は誰にでもあてはまる文章を書くという絶妙なバランス。そこに「占い」の領域がある。

 『ぴあ』の占いのコーナーを喜んで読んでいた頃、ぼくはもちろん因果性を理解していたし、経験科学の原理もわかっていた。それでも「占い」を読んで喜んでいるぼくがいたということは、人間が、いかに自分の中の整合性にこだわらない、いい加減な存在であるかを示している。

 同時に、経験からして、「占い」は、それがあるメカニズムに基づいているかどうか、「当たる」か「当たらない」かということが本質ではないのだと思う。それは、いわば、脳の認識の回路に働きかける、「プラシーボ」のようなものなのだろう。

 これは薬だと言って、砂糖のかたまりをあげると効く。この「プラシーボ効果」は、脳活動計測によって、脳の自己治癒能力が引き出されるものとわかっている。むろん、限界もある。しかし、限界の範囲内では効くのだ。占いの効用も、つまりはそのようなものだろう。

 プラシーボ効果において、重要なのは文脈である。星座占いは、実はどの星座を読んでも同程度に「当たる」。しかし、自分の星座の項目が、まさに自分宛てに書かれたものであると信じることによって、何らかの作用が生の現場にもたらされるのだ。

 たとえば、「今週は素敵な出会いがあります」と言われて、その気になれば、仕事や遊びで会う人、街で通りすがりの人に対する心の開かれ方が変わってくるかもしれない。もともと何の根拠もないものを、信じることで効果が生まれる。つまり占いは、「鰯の頭も信心から」である。

 ぼくは、未来をぴたりと当てる霊能力者がいるとは思わない。しかし、信じている人の方が、「占い」のプラシーボ効果が高いかもしれない。ぼく自身は「占い」を積極的にやろうとは思わないが、「占い」好きな人が、そのことによって生きる上で損をすると断定するつもりもない。

 もっとも、プラシーボ効果には副作用もある。たとえば、ビタミンを摂取すれば簡単に問題が解決するのに、それを拒否するような場合。占いも、参考程度にするならよいが、その言葉を墨守するようだと生のフレキシブルな力学を大いに阻害するだろう。

 現代社会を生きる上で、1つの「世界知」として、「占い」には根拠がないことを理解するのは有益だと思う。一方で、「占い」が根強く人気を保っているのは、進化論的にそれを信じる人に一定の利益がもたらされてきたからだと考えられる。あくまでもバランスの範囲において。

 

迷心と科学は自由競争すればいい

 モノをつくろうと思ったら、科学を理解し、技術を学ばねばならぬ。いくら呪文を唱えても、時計はちゃんと動かない。しかし、一方で、「迷信」が人間の心にとって魅力的なことは確かである。

 迷信は魅力的だから、子どもの頃から大いに触れて、その文法を学び、「免疫」をつくるのがよい。迷信的な世界観を排除するという考え方には、「表現の自由」という点からも、精神の強靭さという点からも反対である。

 子どもの頃、『世にもふしぎな物語』という本を夢中になって読んだ。中でも惹きつけられたのは、少年が、牧場の柵から飛び降りたその瞬間に、友人たちの前で消えてしまったというエピソード。そんなこともあるかもしれぬと、公園でブランコから飛び降りるときヒヤリとした。

 「心霊写真」の本も好きで、何冊も持っていて熱心に眺めた。人と人の間に、恐ろしい顔が写っている。「これは信憑性が高い」などと解説が載っている。自分たちの写真にも心霊がいたらどうしようと、現像するたびにドキドキした。

 UFOの本を読むのも大好きで、いろいろな写真をこれはトリックかな、などと眺めた。いわゆる「空飛ぶ円盤」が、アダムスキーというクリエイターによる創造物だと知るのは、ずっと後のことである。

 コックリさんも流行って、友人たちとやった。好きな女の子の名前を言ってください、というときには、自分と友人の指がそっちの方のひらがなに向かってしまうのではないかとドキドキした。

 小学校の時は、血液型も好きで、ぼくはO型だからおおらかで社交的な性格なのだと合点していた。その一方で、B型の友人に、あいつは個性的でいいな、と嫉妬したりした。

 やがて、アインシュタインに出会い、物理に夢中になり、宇宙の進行がハミルトニアン(ハミルトン関数)によって書けるということを知った。量子力学的不定性を除けば、因果的決定論が正しいらしいことも学んだ。その過程で、迷信たちは、ほよほよと消えていった。

 高校の時は、分子生物学に魅せられて、一時期、物理かどっちにしようかと迷った。人間は精巧にできた分子機械である。迷信たちの分は悪くなり、そちらの世界観を深めていっても、その先はないと確信するに至った。

 迷信を敵視し、排除する人たちがいる。ぼくは、迷信であっても別にかまわぬと思う。迷信と科学は、自由競争すればいい。迷信は魅力的である。ぼくの場合は科学が勝ったけれども、そうじゃない人が世の中にいても驚かない。

 子どもの頃から迷信の魅力に慣れ親しんでいないと、むしろ危険だと思う。大人になってから出会うと、へんな道に行ってしまうかもしれない。何事も、免疫が大切だ。子どもたちは、大いに迷信を楽しむと良い。

 なぜ、人間の心にとって迷信は魅力的なのか。これは、よくよく考えてみるべき問題だ。心脳問題とも大いに関係する。魅力的な迷信の文法がわかれば、人間の心の解明に大いに資するだろう。

 

<書籍紹介>

考える脳考える脳

茂木健一郎 著
本体価格1,600円

毎日を考え抜くことから、ひらめきは生まれる……ツイッター上で50万人のフォロワーをうならせた150編の名文を一冊に集成。



著者紹介

茂木健一郎(もぎけんいちろう)

脳科学者

脳科学者。ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別研究教授。
1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。
主な著者に『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『脳内現象』(NHKブックス)、『脳と仮想』(新潮社)、『「脳」整理法』(ちくま新書)、『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)、『脳と創造性』『脳が変わる生き方』(以上、PHPエディターズ・グループ)などがある。

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