テラモーターズの挑戦~失敗しなければ成長できない
2013年10月31日 公開 2024年12月16日 更新
《『「メイド・バイ・ジャパン」逆襲の戦略』より/写真撮影:稲垣純也》
日本は外から見なければ、わからない
またか、と思った。
テラモーターズを創業し、ビジネスでアジアを飛び回るようになって数年になるが、どこの国でも日本人ビジネスマンへの批判は概ね同じだ。「日本人同士で群れる」「意思決定が遅い」「態度があいまいで具体的に何をしたいのかわからない」
僕自身、何度も経験しているが、アジア諸国のビジネスの現場では、スピード感が何よりも大切だ。初対面のその日に業務提携の話が出ることも稀ではない。重要事項があっという間に、それこそ日本企業の数倍のスピード感で決定され、どんどんビジネスが具体化していく。日本企業の担当者が「本社に持ち帰って検討」しているころには、もう韓国や中国の企業が、さっさと現地企業との契約を済ませていることだろう。
もちろん軽はずみで衝動的な判断は避けるべきだが、日本人のあまりに慎重すぎる姿勢がアジアの人たちをあきれさせ、韓国や中国の企業にみすみすチャンスを奪われてきた原因になっていることは間違いあるまい。
でも幸いなことに、アジアをはじめ世界の人たちはまだ、日本企業やその商品を高く評価してくれている。かつてソニーやシャープが、画期的でユニーク、かつ高性能な製品をひっさげて諷爽と世界市場にあらわれたあの時代のことを、みんな、しっかりと覚えてくれている。
むしろ僕たち日本人以上に、あの時代の日本企業の躍進を、強烈な印象として脳裏に刻んでくれている。そして良質な製品をつくる日本人の繊細で高度な技術力、メンテナンスにもきちんと応じてくれる誠実な姿勢を愛してくれているのだ。
実際、僕たちのような名もないベンチャー企業がアジアで相手にしてもらえるのも、これまで日本企業の先輩諸氏が長い年月をかけて培ってくれた「信用」によるものが非常に大きい。
しかし、今やその技術力や信用だけでは勝てない状況になってきている。
日本企業は、製品レベルや技術力で勝っても、「人」で負けているのだ。実際にアジアで戦っている僕自身、日本人ビジネスマンの能力の劣化は認めざるをえない。そして今、その「負け」が日本企業を、ひいては日本という国の存在価値自体をのっぴきならない状況に追い詰めている。
すぐに、なんらかの手を打たないと、先人たちが築いた信頼も、技術力も職人技も、近い将来、すべて失われていくだろうし、日本という国自体が国際社会での存在価値を失ってしまうだろう。
では、どうすればいいか。
答えは単純だ。「人」がダメにしてきた日本を立て直すのは、「人」しかいないのである。
実践に勝る研修などありえない
僕たちテラモーターズでは、ベトナムとフィリピンに1人ずつ駐在員を置いている。2人ともまだ20歳代の若者で、海外勤務は初めてだ。フィリピンの関鉄平(2012年入社)にいたってはまだ23歳、新卒でテラモーターズに入社してすぐに、フィリピン駐在となった。
「若いから」「経験がないから」という甘えは、テラモーターズでは通用しない。彼らは、現地法人の設立、販売網の開拓、製造体制の確立、現地政財界とのコネクションづくりなど、社の命運を左右するような極めて重要なミッションを、敢えて与えている。
もちろん、必要な場面では私がアドバイスやサポートはするが、あくまでも現地ビジネスの主導権は彼らにある。当然、その分、会社からは厳しく結果を要求されるので、大変なプレッシャーも感じているだろうし、おそらくどの課題も彼らの現時点の能力を超えているはずだ。でも、2人とも決して投げ出すことなく、必死の働きをしている。
「無謀だ」「失敗したら誰が責任をとるんだ?」という批判があるかもしれない。1年近くかけて新人研修を行なうような教育体制をとっている大企業の方には、笑われてしまうかもしれない。
でも、僕の実感では、研修は所詮、研修。実践に勝る研修などありえないし、現場に放り込んだほうが、成長のスピードははるかに早い。
現場で課題と格闘していれば、イヤでも自分に何がたりないのか、何を身につけなくてはならないのかがおのずとわかる。課題を解決するのは自分しかいないので、勉強や情報収集も必死でやらざるをえない。現場経験を積んでいくうち、まるで戦場で兵士の神経が研ぎ澄まされるように、鋭い現場感覚も身についていく。だから傍目にもわかるようなスピードで、どんどん成長していくことができるのだ。
手前味噌で恐縮だが、実際にテラモーターズの社員は、他社の同世代の社員と比べると桁違いに仕事ができる。彼らがもともと優れていたからではない。彼らは人の倍のスピードで成長したのだ。
そんな彼らを見ていると、日本の大手企業がよくやっている「新人研修」は、やる気満々で入社した伸び盛りの若手社員を社内に押し込めておくためにやっているようなもので、実に残念な習慣だと思わざるをえない。
聞くところによると、日本企業に就職した外国人が、長い新人研修や、年功序列で入社後数年間は上司のサポート的な仕事しかできない体制に失望し、
「こんなことを続けていたら30歳になるころには、世界に通用しない人材になってしまう」
と会社を去るケースが後を絶たないそうだ。世界のスピード感を知っている彼らから見れば、日本企業のスピード感は話にならないほど遅いのだ。
このスピード感覚のずれを修正しない限り、日本企業に真の意味でのグローバル化は成し遂げられないだろう。
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