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[映画「利休にたずねよ」特別インタビュー] 監督・田中光敏が語る熱い思い

2013年11月20日 公開

田中光敏(映画監督)

『歴史街道』2013年10月号より

 

情熱の人・千利休をどう表現するか

「侘び茶」を完成させた茶聖として、後世に語り継がれている千利休。
その生涯を大胆な仮説をもとに描き出し、直木賞を受賞した『利休にたずねよ』(山本兼一著)が映画化された。メガホンをとったのは『化粧師』『精霊流し』『火天の城』の田中光敏監督。利休を演ずるのは、原作者と監督がこの人しかいないとラブコールを送った市川海老蔵さん。研ぎ澄まされた美意識を持つ男・利休を、監督はどう描き出すのか。この映画にかける熱い思いをうかがった。

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言葉を削いでシンプルに

 山本兼一さんの原作『利休にたずねよ』を読むまでの私は、千利休という人物について、天下人・秀吉に疎まれ、自刃した茶人、茶の湯の大成者といった世間一般のイメージを抱いていました。25年近く前に公開された2本の映画でも、利休は茶聖として描かれ、ベテランの俳優さんが演じていたと思います。

 ところが『利休にたずねよ』を読んで仰天しました。利休が聖人君子ではなく、恋に身を焦がす生身の人間として描かれている。タブーに挑戦している気がしました。特に若い頃の利休は、ギラギラしていて躍動感たっぷり。一読者として読んでいても、利休の心を占めていた女性のことが気になって気になって…。

 しかもこの小説、切腹の場面から遡って書かれているのです。斬新な手法です。

 同じく山本さんの原作『火天の城』を撮ったご縁で、山本さんにお会いした折、利休は枯れた茶聖ではなく、情熱的な人だったということで意気投合。その情熱を生み出したのが、若き日の恋だったという山本さんの大胆な仮説に魅せられ、映像のイメージが次々と湧き上がってきました。

 「この作品の映画化は田中さんに任せるわ」と言われたときは、責任の重さに身が引き締まる思いがしました。

 この映画では利休の若き日の恋を描いていますから、女性にぜひ観てほしい。そんな思いから、脚本は小松江里子さんにお願いしました。原作は多視点で書かれていますが、映画はそうはいきません。利休の茶の一番の理解者は、共に暮らしていた妻・宗恩だったのではないか―。とすると脚本は、宗恩の目線で書くべきだと思ったのです。

 ギラギラした部分を前面に出した若い頃の利休はいいのですが、美への情熱を胸に秘め、もてなしの心をきわめて天下一の茶頭にのし上がっていく利休をどう描くか。ここがポイントになると恩いました。

 原作には、利休の情熱に裏打ちされた卓抜な感性を感じさせる言葉がちりばめられていますが、映画でそれを並べたてても、利休の大きさは伝わりません。そこで言葉は極力削いでシンプルにし、映像で観ていただくことにしました。

 トータル・プロデューサーとしての利休、その並外れた美意識を理屈抜きでわかっていただくためにはどうしたらいいだろうか―。考えた末に、すすきの模様が描かれた漆の硯箱に水を張り、そこに宵の月を映して信長に見せるシーン、桜の花びらが天井から散ってきて客人が驚くシーン、燈籠の和紙に切り抜かれた千鳥が襖や天井に舞うシーンを前半部分に持ってきました。

 茶の湯に関心がある人なら誰でも参加できた北野大茶会のシーンは、そのスケールの大きさ、利休のもてなしの心を表現するために力を入れました。上賀茂神社、三井寺、神護寺の3カ所でロケをし、のべ500人のエキストラの方にご協力いただいています。

 狭い茶室のシーンなどで人物の両脇の余白を生かし、お客様もその空間に一緒にいるかのような感じを味わっていただきたくて、撮影監督の浜田毅さんと相談して、シネマスコープというワイドスクリーンで撮りました。利休の宇宙観を感じ取っていただくには、これしかないと思ったからです。

 

本物が醸し出す奥行き

 この映画の見どころは、本物の茶道具がたくさん登場するところにもあります。本物を使うことで現場に緊張感が漂います。利休役の市川海老蔵さんに、本物の茶器を使っていただくことで、演技に気迫がみなぎるのです。茶器をクローズアップするシーンばかりではありませんが、背景に飾ってあるだけでも、本物があると、レプリカとは違う奥行きのある美しい場面を撮ることができます。

 なかでも利休が実際に使ったと言われる黒樂茶碗を使わせていただいたことは、無上の喜びでした。「万代屋黒<もずやぐろ>」と言われるこの茶碗は、初代・樂長次郎がつくった茶碗で、今の価値で換算すると3億円以上の値で取引された記録もあるほどです。

 ここに至ったいきさつは長くなるので割愛いたしますが、樂家十五代のご当主が「万代屋黒で茶を点てたい」という我々の無謀なお願いに対し、「一晩考えさせてくれ」とおっしゃって、翌日、一度だけ、お湯を入れてもいい」と言ってくださったときは、スタッフから歓声があがりました。

 利休はなぜ黒樂を好んだのでしょう。暗い茶室でこの茶碗を使うと、よく見えないからだと思います。道具の存在すら消すことで、招いた客人にくつろいでいただくという、利休ならではのもてなしの演出なのです。

 樂さんの奥様がジュラルミンケースに入れて撮影現場まで持ってきてくださった「万代屋黒」。切腹を前に末期の茶を点てる利休――。気迫のこもった演技をみせる海老蔵さんをご覧になった奥様が「なんて色気のあるお点前なのかしら」とおっしゃったことは、忘れられません。色気のあるお点前は、人の心をとろかすのです。

 「万代屋黒」が登場したことで、他のものがレプリカでは恰好がつかないと、武者小路千家の若宗匠・千宗屋さんのご協力で個人蔵の赤樂茶碗をお借りすることができ、茶道具を扱う道具屋さんも、売り物である井戸茶碗、熊川茶碗を貸してくださったのです。

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