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「21世紀型の職人」を作りたい

秋山利輝(秋山木工グループ代表)

2011年04月04日 公開 2021年05月21日 更新

「21世紀型の職人」を作りたい

 

人にしつこく、おせっかいに関わる。そんな先輩や親方など、若者にとってうるさく、煙たがられる存在が日本社会から姿を消そうとしている。そんな時代にいまなお徒弟制度を採り入れ、新入社員を「丁稚」として扱いながら一流の家具職人として育てる職人工房が、大きな注目を集めている。オーダーメイドの高級家具を製造する職人工房「秋山木工」(神奈川県横浜市)だ。

代表の秋山利輝氏は、自身も皇居正宮殿に納入する家具をつくる腕利き職人だが、若者を甘やかす現代日本の風潮に異を唱え、昔の丁稚制度を採り入れた厳しい修業を通じ、技能五輪メダリストを育てるまでになった。

「一流の職人は技術より人間性」と信じる秋山氏は、若者と四六時中、時間を共にし、礼儀、感謝、尊敬の気持ちをもつ職人をつくりあげるべく、厳しい指導を行なう。

そんな秋山木工には、毎年2~10人の新入社員が採用され、北海道から沖縄まで一流国立大の卒業生も交ざり、倍率は十数倍だ。「やる気がない」といわれる現代の若者を秋山氏はどう育て、モノづくりと職人文化を継承しようとしているのか。秋山式「人の育て方」を聞いた。

 

ウチは、江戸時代そのまま

(桐山)秋山さんの著書『丁稚のすすめ夢を実現できる、日本伝統の働き方』(幻冬舎)を拝読しましたが、毎年、桜の花が咲く季節になると、秋山木工の工場では髪を刈るバリカンの音が響き渡るそうですね。それも男女関係なく、入社したら誰もが頭を丸めるとか。

(秋山)はい。木工職人になるための厳しい修業が始まるからです。4年間寮に住み込み。親との面会、恋愛はいっさい禁止。

木工の技術はもちろん、食事の食べ方から手紙の書き方、人との話し方まで徹底的に社員教育を行ない、怒鳴ったり、頭を小突くこともしばしばです。生半可な気持ちでは、丁稚生活を全うすることはできません。その覚悟を決めるために、頭を丸める。ほかにも周りからみれば、時代錯誤だと思われるような細かい生活のルールまで決められています。ウチは、江戸時代そのままです。

(桐山)昔からの「徒弟制度」といわれる仕組みを採り入れて、社員を育てているそうですね。

(秋山)「徒弟制度」というのは、江戸時代から約270年間にわたり、日本で行なわれてきた商店主を育てる育成制度です。

当時は親方が丁稚(関東では坊主ともいわれていた)を住み込みで雇い、給料を払わない代わりに着るものや食べるものを与え、一人前の店主や職人になれるよう教育していました。秋山木工では、この制度を採り入れ、新入社員を一人前の木工職人へと育てていくんです。

(桐山)どのぐらい修業すると、一人前の職人になれるのでしょう。

(秋山)入社してからの4年間は、職人の手伝いをしながら基礎を学ぶ、いわゆる下積み時代。ですから職人修業に集中するため、寮に住み込みで生活し、寮でも工場でも食事の準備や工場の雑用をし、現場では職人の作業をしながら、工具の扱い方、材質の知識をはじめとする家具づくりの基礎を学びます。私の会社には、現在30人の社員がいますが、このうち、約半数が「丁稚」として働いています。4年間の下積み時代を終えて試験に合格すると、晴れて一人前の「職人」になり、私も名前を呼び捨てではなく「君」付けで呼ぶようになります。

(桐山)給与はどうなっているのですか。

(秋山)住み込みで働きますから、給料から各自寮費を払い、食費や光熱費などは、寮ごとに毎月1万~2万円を積み立てて、そこから払うようにしています。こうした生活費や雑費を払うと手元に残るのは3万円程度ですが、そこから、カンナやノミを1本ずつ揃え、仕事に必要な道具を順番に買う。道具は職人の「命」ですから、必ず自分の給料から買うようにさせています。入社してからの2~3年はそれだけで精一杯ですから、余分なものを買う余裕などありません。しかしお金が足りないからといって、親からの仕送りや小遣いをもらうことは、いっさい禁止です。

つらい思い、苦しい修業というのは、将来への「糧」であり、将来、壁を乗り越えるための「投資」なんです。

(桐山)その後に独立ですか。

(秋山)いえ。それから4年間、いわゆる「お礼奉公」をしてもらいます。徒弟制度では昔から、一人前になった恩は、育ててくれたところで数年間働いて返す。親方に育ててもらった感謝の気持ちを表わすためです。この考え方に基づいて、職人になってからの4年間は、秋山木工の傘下にある5つのグループ会社に派遣して、その工場で腕を振るってもらいます。生活面でも、寮から出て、一人暮らしをするようになり、技術的な指導は各工場の先輩や社長が行ないますが、立ち居振る舞いや生活態度に関しては私が直接指導し、職人になっても思い上がったり、驕ったりする状態が出てきたら、すぐに叱り飛ばす。(笑)

そうして職人として4年間働いたあとは、自動的に退職してもらう。つまり首です。ウチは、育ったら首にする。退職したら、独立するか、他の会社に移るか、海外に活躍の場を移すか、本人が選択し、さらに腕を磨いてもらいます。

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子を「職人」にする親の覚悟を問う

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