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「ネガティブ思考」で仕事は案外うまくいく

西多昌規(精神科医/医学博士)

2014年03月07日 公開 2022年11月10日 更新

ポジティブ疲れに要注意

 

日本人には「あるがまま」が似合う

 ネガティブ思考は、特にビジネスにおいては持っておくべき思考法の1つでしょう。ただ、日常生活でネガティブ思考ばかりでは自分も周囲も辛気くさくなってしまい、元気がなくなってしまいます。

 物事には、良い面と悪い面が存在します。なるべく良い面を捉えていく考え方の「ポジティブ思考」は、非常に大切であることは間違いありません。特に部下や子どもの教育・指導では、良い面を伸ばしていくことが求められます。

 ポジティブ思考の有名なたとえ話として、水が半分入っているコップを見て、「もう半分しかない」と思うか「まだ半分残っている」と思うかというものがあります。もう1つは、靴のプロモーションのためにアフリカにやってきたセールスマンの寓話です。

 セールスマンAが 「ここでは、靴などだれも履いていません。靴の販売は絶望的です」と悲観的になったのに対し、セールスマンBは 「ここでは全員、裸足です。靴が売れるのは間違いありません」と、ポジティブで楽観的な考えが浮かんだのです。

 Bに代表される「ポジティブ思考」。自己啓発書や女性誌でも、常に関心を惹くテーマです。たしかに、陰気で他人の悪口を言う、欠点をアラ探しして指摘する、すべてを悲観的に捉えている――こんな人が周囲にいれば、こちらまでネガティブな態度が伝染してしまうでしょう。

 しかし、死にたいくらいに落ち込んだときに、

 「前を向かなきゃ!」

 「ダメダメ、こんな考え方じゃ」

 と、テレビドラマのようなポジティブぶりを発揮できる人は意外に少ないのではないでしょうか。斜に構えがちなわたしは、なにか強引な白々しさを感じてしまいます。

 仕事の失敗、自分や家族の病気、友人の裏切り、眠れないくらいの失恋経験――「自殺を考えたことはありますか?」というアンケートの問いに、自信を持ってノーと書ける人の数は限られるのではないかと推測します。

 最近流行している「禅」の思想ではありませんが、もともと日本は仏教文化が強い国です。「あるがまま」という言葉が似合う国民性は健在です。欧米諸国にみられるような「勝ち」にこだわり、自分を奮い立たせるという思想は合わないように思えます。

 

適度に期待値を下げてみる

 おそらくプロテスタントを源流とするポジティブ思考は現代社会に必要とはいえ、あまりにマッチョすぎるポジティブ思考を強いると、日本人には思考疲労が生じてくる心配があります。

 「どうしてわたしは前向きになれないんだろう?」

 「あの人は陽気で前向きなのに、自分は暗くてダメだ」

 「前向きになれない自分は、存在価値がない」

 と、ポジティブ思考疲れは、“他人との比較→自分の過小評価”につながります。

 ほどよいネガティブ思考を積極的に取り入れてみると、ポジティブ思考疲れが多少はほぐれるのではないでしょうか。「どうせダメだろう」「うまくいけば御の字」などと適度に期待値を下げてみるのです。

 人間の気分は、たえず変動するものです。ハイテンションもへコんだ状態も、長続きするものではありません。今がネガティブな考え方ならば、しばらくすればポジティブに戻りやすいとも言えるのです。無理やりポジティブにならなくても、人間の気分や意欲には復元力があることを念頭に置いてください。

 

<書籍紹介>

「しがみつかない」人ほどうまくいく

西多昌規 著

いつも不安でなんとなく疲れている原因は、「理想の自分」にしがみついているから!? 精神科医が心の余裕を取り戻す方法を伝授!

<著者紹介>

西多昌規

(にしだ・まさき)

精神科医・医学博士、自治医科大学精神医学教室・講師

1970年、石川県生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。国立精神神経医療研究センター、ハーバード・メディカル・スクール研究員を経て、現職。日本精神神経学会専門医、睡眠医療認定医など、資格多数。スリープクリニック銀座でも診療を行うほか、企業の精神科産業医として、メンタルヘルスの問題にも取り組んでいる。
著書に『「器が小さい人」にならないための50の行動』(草思社)『「昨日の疲れ」が抜けなくなったら読む本』『「月曜日がゆううつ」になったら読む本』(以上、大和書房)『水曜日に「疲れた」とつぶやかない50の方法』(朝日新書)『今の働き方が「しんどい」と思ったときのがんばらない技術』(ダイヤモンド社)『脳がスッキリする技術』(宝島社)『「テンパらない」技術』(PHP文庫)などがある。

 

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