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「ネガティブ思考」で仕事は案外うまくいく

西多昌規(精神科医/医学博士)

2014年03月07日 公開 2022年11月10日 更新

《『「しがみつかない」人ほどうまくいく』より》

 

ネガティブ思考は案外大事!

 

ネガティブ思考は仕事に欠かせない?

 「ネガティブ思考」「マイナス思考」は、しばしば悪者として扱われます。しかしわたしは、仕事面では、ネガティフ思考は欠かせないと考えています。

 わたしは医師という職業柄、いつも最悪の事態を考えてしまうクセがついてしまっています。

 「この人は、果たして治るのだろうか」

 「薬の副作用が出たら、どうしよう」

 「家族トラブルを調整するなんて、到底無理」

 仕事については、「ネガティブ思考」が、わたしの考え方の基本になっています。根拠のない空気のような「ポジティブ思考」「プラス思考」だけで突っ走るのは危険極まりないことです。

 「危険な手術だけれども、やってみないとわからないよ」

 医師にこのように能天気に説明されて、安心できる人などいないでしょう。

 へコんだ気持ちの切り替えは必要ですが、リスク対策を無視した考えは単なる責任放棄です。

 医療だけではなくどんな仕事でも、最悪の事態を想定することは悪いことではありません。1%だろうと、100メートル中の1ミリの10万分の1だろうと、不測の事態を想定しておくのは大切なことです。

 ネガティブ思考は、将来のリスクを予測する能力において欠かせないものです。どんなにイマジネーションを働かせても、想定外のことは生じるものです。想定外のトラブルに柔軟に対応できるスキルは、「ネガティブ思考」から生まれると思うのです。

 「きっと悪いことが起こる」

 「どうせうまくいかないだろう」

 危険や失敗をある程度予知し、回避することは、動物の本能とも言えます。大昔の原始人を想像すれば、ポジティブ思考で「この猛獣、大丈夫だろう」と安易に近づいていたら、たちまち食べられてしまっていたことでしょう。

 警戒、用心、準備――自分や家族、仲間の身を守るために必要なこの概念は、原始人も本能として持ち合わせていました。しかし現代人は、ある程度は意図的に身につけるしかありません。そのためには、「ネガティブ思考」を全否定せずに、そこにプラスの意義を見いだすことです。

 

うまくいかなかったこともエネルギーになる

 過去の失敗や些細な出来事をクヨクヨ悩むのも、ネガティブ思考の一種です。

 「クヨクヨしているなんて、ダメだ……」

 と自己嫌悪に苛まれる人もたくさんいるでしょう。わたしも仕事での不愉快な記憶を引きずりやすいタイプです。しかし、そういったクヨクヨ、難しく表現すれば「逡巡」「躊躇」が、前向きな進歩につながることも少なくありません。

 他人から見ればどうでもいいような小さなことや不愉快なこと、うまくいかなかったこと――これが大きな発見につながったり、成功へのエネルギーとなったりすることも多いのです。

 一流の企業家や研究者、アスリート、芸術家などは、素人には理解できない些細なことにこだわります。結果や成績を尋ねられても、「自分はまだまだダメだ」「さらに練習が必要」などというストイックなコメントを発する人が、ほとんどではないでしょうか。

 ラフな楽天家よりも、きめ細かい心配性の人が、仕事で成功する素質を持っているのではないか――そう、わたしは考えています。

 

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