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自分の仕事は自分で考える―“営事一体”デンソーの事業部制

加藤宣明(デンソー社長)

2014年05月02日 公開 2024年12月16日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』 2014年5・6月号Vol.17[特集]実践! 自主責任経営 より》

 

迅速な意思決定、責任の明確化、経営者の育成などのメリットがある反面、ムダが多かったり組織のカベが生じやすかったりするデメリットも指摘される事業部制だが、この制度を50年にわたって維持し続けているのが、自動車部品最大手のデンソーだ。そこには、制度のメリットを生かしつつデメリットを小さくするための、絶妙な仕掛けがあった。デンソー伝統の社風にもふれながら、加藤宣明社長に話をきいた。

<取材・構成:加賀谷貢樹/写真撮影:石田貴大>

 

 

「事業グループ」に権限委譲

 デンソーは、1949(昭和24)年にトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車。以下、トヨタと表記)の電装品およびラジエーター部門が分離独立してスタートしました。

 電装品というのは、自動車部品のうち電気関係の部品の総称で、もともとは銅線の巻き線技術を生かしたモーターなどが主体でした。また、ラジエーターの熱交換技術が今日のカーエアコンにつながっています。

 1953(昭和28)年、事業の幅を広げていくためにドイツのロバート・ボッシュ社と電装品に関する技術提携契約を締結、このころに、開発や生産の技術から工場経営に至るまで、会社そのものとしての転換期を迎えました。

 このとき、それまで当社が培ってきた技術や、他社から譲り受けた技術にとどまらず、自分たちで新たに事業を興そうという取り組みを始め、1955(昭和30)年に噴射ポンプ準備室を開設。それが、精密加工部品からなるパワトレイン(エンジンおよび、エンジンでつくり出された回転エネルギーを効率よくタイヤに伝える装置)製品事業に発展しています。

 こうした各事業における技術開発を進化させ、経営のスピードを追求するために、当社は1963(昭和38)年に事業部制を導入しました。

 導入当初は、電装第一事業部、電装第二事業部、部品化成事業部、冷暖房事業部、噴射ポンプ事業部などからなる7つの「製品別事業部制」を敷いています。私が入社した1971(昭和46)年は、事業部制が始まってすでに何年もたっていました。私自身は冷暖房事業部に配属されましたが、これが当たり前の組織の形だと思っていました。今の社員たちも、ごく当たり前のものとして事業部制を受け止めていると思います。

 デンソーの事業部制はその後、幾度かの変遷を経てきましたが、なかでも大きかったのは、1975(昭和50)年に行われた「事業本部制」への移行でした。

 このときのことは、私もよく覚えています。オイルショックで経営が厳しくなり、製品機能の類似した事業部を3つの事業本部に集約したのです。各事業本部の中に製造部や設計部、生産技術部などを設け、機能別に大()りに分けて効率化を図ろうとしたのです。

 もう1つの大きな変化が、1984(昭和59)年に実施した「事業本部・事業部制」への移行で、これが当社における現在の組織の原型になっています。

 事業本部制移行時にいったん廃止していた事業部を復活させ、製品別に事業運営を行う一方で、複数の事業部をまとめて1つの事業本部として括り、類似事業間のシナジーを追求するというものでした。現在は「事業本部」を「事業グループ」と言い換え、パワトレイン機器事業グループ、電子機器事業グループ、情報安全機器事業グループ、熱事業グループの四つからなる「事業グループ・事業部制」を敷いています。

 「事業本部・事業部制」もしくは今日の「事業グループ・事業部制」を導入した理由は、権限委譲をより踏み込んで行うためでした。従来、総合企画部が持っていた各事業の経営管理機能を、各事業グループ長が直轄する経営企画室に移管しました。事業グループ長には、「あなたは事業グループの社長だから、思ったように経営してください」と話し、日ごろの事業運営におけるほとんどの権限を渡しています。

 事業グループに対し本社は、デンソーの将来のことを考えたり、各事業部が行なっているオペレーションをサポートしたり、全社的なコーポレートガバナンス(企業統治)の構築・推進を担ったりするものという位置づけです。また本社の経理部門は、対外的に発表する全社的な決算を行いますが、事業グループ単位の決算はすべて各事業グループの経営企画室でできるようになっています。売上管理やコスト管理、収益管理、さらには資産管理も、各事業グループで可能にしています。

 

事業軸と地域軸を両立させて

 事業部制のよい点は、“技術開発のスピード”が向上することに加えて、事業部としての経営効率の追求が容易になり、“経営のスピード”も速くなることです。その意味で、技術開発や事業成長を進めていくうえで、事業部制は非常に強力な武器になります。

 ところがその反面、事業部制の下では業績重視の傾向が強まるので、各事業部間にカベが生じたり、社外よりも社内論理が優先してしまいがちになるというデメリットもあります。

 たとえばある時期、当社が材料や部品などを発注するサプライヤー(仕入先)に対して、こんなことが起きていました。それは、ある事業部では「こういう調達方針で、品質保証もこんなやり方でやってください」と言う一方、別の事業部では違うことを言っていたのです。もちろんそれぞれに理屈はあったのですが、サプライヤーにとっては、デンソー1社に対して事業部ごとに3通り、4通りの対応をしなければならないケースが出ていたのです。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

<掲載誌紹介>

2014年5・6月号Vol.17

5・6月号の特集は「実践! 自主責任経営」

「自主責任経営」とは、“企業の経営者、責任者はもとより、社員の一人ひとりが自主的にそれぞれの責任を自覚して、意欲的に仕事に取り組む経営”のことであり、松下幸之助はこの考え方を非常に重視した。そしてこれを実現する制度として「事業部制」を取り入れるとともに、「社員稼業」という考え方を説いて社員個人個人に対しても自主責任経営を求めた。
本特集では、現在活躍する経営者の試行や実践をとおして自主責任経営の意義を探るとともに、松下幸之助の事業部制についても考察する。
そのほか、パナソニック会長・長榮周作氏がみずからを成長させてきた精神について語ったインタビューや、伊藤雅俊氏(セブン&アイ・ホールディングス名誉会長)、佐々木常夫氏(東レ経営研究所前社長)、宇治原史規氏(お笑い芸人)の3人が語る「松下幸之助と私」も、ぜひお読みいただきたい。

 

BN

著者紹介

加藤宣明(かとう・ のぶあき)

株式会社デンソー 社長

1948年愛知県生まれ。慶應義塾大学卒業後、日本電装株式会社(現株式会社デンソー)に入社。冷暖房企画部長、総合企画部長等を経て、2000年に取締役就任。’05年デンソーヨーロッパ社長、’07年専務取締役を経て、’08年より現職。

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