ディズニーランドでは、なぜ「外が見えない」のか
2014年12月15日 公開 2024年02月01日 更新
※本稿は、ホリテーマサロン テーマパーク研究会著『ディズニーランド 成功のDNA』(PHP研究所)から一部を抜粋し、編集したものです。
なぜ「外が見えないこと」が重要なのか
思い出してみてください。あなたが東京ディズニーランドに出かけたとき、パーク内に入る前からわくわくした気持ちになることを、そして園内に一歩足を踏み入れたとたん、たちまち物語の世界に溶け込んで現実世界を忘れてしまうことを。
思う存分に楽しんで、ディズニーランドから帰るときになって初めて、あなたは魔法が解けるように現実世界に戻っていくのです。
ほとんどのゲストが同じようにこの気持ちを味わっているはずです。この気持ちの秘密について、まずは解き明かしきましょう。
ディズニーランドを訪れたとき、あなたはパーク内から外の建物を見たことがありますか? 思い出してみると、外の建物が見えた記憶はないはずです。
近くにある大きなホテルは見えませんし、京葉線が高架で走っているはずなのに見えません。また、川を渡った向こうに葛西臨海公園の高さ117メートルの大きな観覧車があるのに見えませんし、すぐ横にあるショッピングモール・イクスピアリも、リゾート内を一周するディズニーリゾートラインも見えません。
なぜでしょうか? 答えは簡単です。土を高く盛り、さらにそこに木を植えて、外が見えないようにしているからです。土は高いところでは15メートル以上、低いところでも10メートル以上は盛られています。
パーク内に入ると建物などに巧みに隠されてしまうのですが、外周を回るとパーク内の各所に土が高く盛られているのがよくわかります。
中から見てわかりやすい場所は、「トゥーンタウン」の入り口を入ってすぐのところです。ここだけやや不自然に木が高く生えているのがわかるでしょう。
この裏側にはベイサイドステーションがあり、大きなホテルが何軒も並んで建っています。「トゥーンタウン」自体があとからできた場所なので、ここだけ後づけで木を生やした形跡があります。
他の場所はどうでしょう? 地図上で見ると、「ジャングルクルーズ」の裏がイクスピアリになっています。ここも土が盛られて木が植えられています。
また、リゾートラインに乗ったことがある方は気づいたかもしれませんが、東京湾側に出る直前に不自然にグツと低くなるところがあります。これはポートディスカバリー側から見ると、まるで目の前に海が広がるように見えるように、水が噴き出る水門のオブジェクトの裏側にリゾートラインが走っているからです。
こうしたことはすべて、パーク内から外部の余計な景色が入ってこないようにする工夫です。パーク内を歩いているときは外界の情報は一切入ってきません。徹底的に外の情報を排除しているのです。
なぜこんなにも外の景色が見えないようにしているのでしょうか?
なんと、イクスピアリを建設するときもパーク内から見えない高さに設計し、しかも実際にたくさんのバルーンを揚げて建物の高さを想定しながら検証したそうです。バルーンが少しでも見える箇所があれば、設計図の修正を行っていきました。
これは他の部分でもいえることですが、図面上だけで判断せず、必ず徹底して現場検証を行うのがディズニーのやり方です。
余談ですが、ディズニーはあらゆるイベントでも現場検証を徹底的に行っています。
たとえば、東京ディズニーランドのグランドオープニングのときに、ワールドバザールの中でシンデレラ城に向かってゲストのために何千という椅子を並べる計画がありました。
この場所は一見すると平坦に見えるので、椅子を等間隔で並べれば、どこからでも見えるはずだと考えていたそうです。
しかし、ディズニー側はリハーサルで椅子を実際に並べるように要求してきたのです。さすがに何千という椅子を借り出すだけで大きな費用がかかってしまいますから、予定の半分の数だけ椅子を借りてきて、2度に分けて椅子を並べてみました。
すると、ディズニー側が危惧していたとおり。等間隔で並べただけでは舞台が見えない場所があって、あわてて並べ方を修正したそうです。そのとき、ディズニーの徹底した現場検証につくづく感心したそうです。
世界観にこだわるシステム
では、今度はパークの中を歩いたときのことを思い出してみてください。
隣合っているテーマの境目をよく見ると、木が生い茂っていたり、道が曲っていたりします。特に顕著なのは、境目が門のように絞り込んだ形になっていることです。これによって隣のテーマに移動するまでは次のテーマが見えないようになっています。これも、目の前にあるテーマからゲストの気持ちをそらさないための工夫です。
ディズニーシーにも同じことがいえます。ヴェネチアン・ゴンドラがあるメディテレーニアンハーバーと、ニューヨークの町並みが続くアメリカンウォーターフロントは隣接しているのに、隣のテーマはまったく見えません。
そう、その場所はわずかに傾斜した丘になっていて、土を盛ることによって、互いに見えないようにしてあるのです。たしかに、ヴェネチアの隣にニューヨークが見えたら、それだけで違和感がありますし、興醒めです。
他に注目してほしいのが通路のつくり方です。ウェスタンランドとトゥモローランドの通路のラインを見るとわかりますか、西部開拓時代の道は曲がっていて、未来の道はまっすぐに延びています。これも時代ごとの特徴を表す工夫です。徹底して他の情報をさえぎることで、世界観を生み出しているのです。
なぜディズニーはこのような世界観にこだわるのでしょう? それは、ロサンゼルスのディズニーランドがオープンする前まで話がさかのぼります。
当時、自分の理想とする遊園地をつくるために世界中を視察していたウォルト・ディズニーが、デンマークにあるチボリーガーデンに行ったときでした。
チボリーガーデンは、堀の中につくられた遊園地で、外界から遮断された非日常空間を上手につくりだすことに成功していました。この非日常空間に包まれて、遊園地の楽しさに没頭できたことに彼は非常に感動したそうです。
この感動を求めて、ディズニーランドも外界情報を一切シャットアウトし、テーマごとの物語に入り込めるようにはじめからつくられているのです。
<著者紹介>
ホリテーマサロンテーマパーク研究会
ホリテーマサロンは、メディア関係者が東京ディズニーランドの総合プロデューサーを務めた堀貞一郎氏を招いて開催していた朝食会が発展してできた勉強会です。この会は、毎回1つのテーマについて講師から話を聞くことと、1業種1会員の異業種交流会であることが決められていました。後に帝国ホテルで毎月開催されるようになり、2月と8月を除いて、毎月1回ずつワインやビールを片手に、招いた講師の講演を聞いたあと、フリーディスカッション形式で知見を広めていきました。講師には。事業家・作家・芸術家・学者・アスリートなど、さまざまな方々が登場しました。ときには、堀氏自身が講師となって、「東京ディズニーランドを誘致した当時の話」や、「モーツァルトの楽しみ方」「長江とダム建設と西遊記」「歌舞伎はこう見ればもっと楽しい」など多彩な話が繰り広げられました。
2012年5月の記念講演を最後にホリテーマサロンは幕を閉じましたが、その後、株式会社プラネットの代表取締役・小池和人氏を中心に「テーマサロン」として引き継がれています。