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はやぶさを取り入れた宇宙教育

的川泰宣

2011年06月09日 公開 2021年05月26日 更新

はやぶさを取り入れた宇宙教育

"はやぶさ""こうのとり"などでの宇宙探査の成功で人々に与えた影響と、これから必要という宇宙教育について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)名誉教授的川泰宣氏に語ってもらった。

※本記事は、PHPムック フューチャーサイエンスシリーズ『「最新」宇宙探査がよくわかる』より、一部を抜粋編集したものです。
 

世界中に反響を呼んだはやぶさの成功

――はやぶさ、こうのとり2号のミッションが成功しましたが、日本の国民に与えた影響は大きかったですか?

はやぶさの講演に行った先では、やはり手応えはありますよね。ただ講演を聞きに来る人は、はやぶさが好きな人が来ているので当たり前のことなのですが、今回のはやぶさやこうのとりの成功は、宇宙に興味がない人にも知ってもらえたのではないかなと実感しています。

――2010年12月8日、あかつきの金星軌道投入に失敗しましたが、どう思われましたか?

正直、皆さんと同じように僕もガツカリしました。はやぶさのように、最後はミッションを達成してくれるといいんですが......。20年くらい前に今回のような失敗が起きたら諦めていたと思います。しかし最近は故障の解析やデータの読み方が進歩しているので、まだいろんな可能性があることが分かっています。あかつきは軌道変換エンジン以外はすべて正常で、計算によると金星の近くを通る小惑星があって、もしかするとその小惑星の観測ができるかもしれません。

――あかつきのターゲットは金星ですが、途中でターゲットを変更することは可能なのですか?

物理的には可能ですが、今回のあかつきは軌道変換エンジンが不調なので、大幅に軌道を変えることは難しいんです。金星の近くに月のような衛星があれば一番いいのですが、地球と金星の間には何もないんです。金星に近づきすぎているので、地球に戻ってくることもできません。しかし、金星の軌道近くを周回する小惑星を見つけたのはすごい発見でした。45万個もある小感屋の中で、よく見つけたなと感心しました。

――的川先生の中で、これまでで一番思い出深い宇宙ミッションは何ですか?

自分にとってすべてのミッションがかわいい息子のような存在ですが、1976年に打ち上げた衛星コルサは、印象深いミッションでした。コルサは打ち上げてから軌道の監視を続けていたんですが、2段目の燃料に火がついたとたん、機体が傾いて経路が水平になったんです。3人で監視していて、何が起こったのかさっぱりわからなくて......。高度は80キロメートルくらいで、このまま3段目の燃料に点火しても、人工衛星にはなりましたが、あまり意味がないという話になって、チーフの先輩が「じゃあコマンド電波を打つ練習をしよう」という決断を下して、3段目の点火を中止して太平洋に落ちていきました。そのときのショックは大きかったんですが、その失敗が3年後の衛星「はくちょう」や、1985年の試験惑星探査機の「さきがけ」の成功につながったんだと思います。

――「はやぶさ」にはこれまでのすべての経験が、活かされているんですね。

そうです。1998年に打ち上げられた火星探査機のぞみの失敗は、はやぶさに活かされていますよね。のぞみは太陽フレアによって電源が故障してしまい、通信のほとんどが不能になった時期があったんです。そのとき、1ビット通信などの通信方法をあみだしました。通信路が細くなると、1つの質問に対して、「イエス」「ノー」という1ビットの返答ぐらいしかしないんです。たとえば「温度は5℃以上ですか?」「10℃以上ですか?」などと順番に開いていって、やっと温度がわかる程度。

――果てしない作業ですね。

はやぶさの通信が厳しくなったときも、呼びかけの電波をずっと送り続けました。しかし返答はありませんでした。みんな半分諦めかけていたんですが、はやぶさのプロジェクトマネージャーだった川口君だけは諦めていませんでした。スタッフが粘り強く信号を送り続けていたとき、彼は「がんばれ、がんばれ」という叱咤激励ではなく、黙々とポットのお湯を入れ替える作業をやっていたんです。プロジェクトマネージャーの彼が毎日何回か、ポットのお湯を取り換えることで、「自分は諦めていない。このポットが温かい限りミッションは生きている」という意思表示を示していたんだと思います。はやぶさから反応があったとき、みんな一斉に喜びをわかちあいました。

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