戦国大名・上杉家と「惑星探査機はやぶさ」の意外な関係
2019年05月24日 公開 2024年12月16日 更新
<<国際金融論の専門家である真田幸光氏。愛知淑徳大学の教授を務めつつ、官民問わず多くの顧問やアドバイザー業務など活躍しているが、実は戦国武将・真田家の末裔。真田信之から数えて14代目にあたる。
現在は分家であるが、真田本家とはゆかりが深く、しかも祖母は戦国大名・上杉家の本家の長女。当然、上杉家とも縁が深い。
そんな関係から上杉家第17代当主・上杉邦憲氏が真田幸光氏のオンラインサロンにゲストとして招かれ、対談を行った。上杉邦憲氏はなんと宇宙航行力学等を専門とする宇宙工学者で、長年にわたり宇宙開発に携わった。宇宙科学研究所(現JAXA)では惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトに関わっていた。
本稿では当オンラインサロンにて、上杉邦憲氏が「はやぶさ」「はやぶさ2」が挑戦する宇宙空間でのミッションの難しさを語った一節を紹介する。>>
※本記事は真田幸光オンラインサロン「経済新聞が伝えない世界情勢の深相~真田が現代の戦国絵図を読む~」内で公開された内容より一部を抜粋・編集したものです。
小惑星の周りを回っていない!? 「はやぶさ」「はやぶさ2」にまつわる誤解
先日、惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に到着し、サンプル採取のための着陸に成功しました。今後また2回ほど同様のトライをして、2020年に地球に帰ってくる、というミッションになっています。
この「はやぶさ2」の難しいミッションを成功させるための実験や確認をした探査機が1号機「はやぶさ」でした。「はやぶさ」は小惑星「イトカワ」の探査を成功させて地球に帰還しましたが、こちらに私が宇宙科学研究所(現在のJAXA(宇宙航空研究開発機構))で携わっていました。
「はやぶさ」の挑戦は、世界でも前例がなく、誰も挑戦したこともないものでしたので、遂行の過程では困難を極めました。噴くべきガスが噴かない、あるいは逆に変な方向へ噴いてしまって姿勢が崩れてしまう…など、さまざまなトラブルが起こりました。
そんな難題を乗り越えながらも、まさに上杉鷹山公の「為せば成る」の精神で、地球へしっかりと帰ってきました。この難しさをお伝えするために、少し数字を交えながらお話しします。
「はやぶさ」も「はやぶさ2」も探査のために小惑星の周りを回っていると思われる方が多いのですが、これは誤解で実は違うのです。
1号機の時には小惑星「イトカワ」を、現在の2号機は小惑星「リュウグウ」の付近にいることは確かなのですが、周回はできないのです。
というのは、これらの小惑星には重力がほぼ存在しないからです。地球に比べて10万分の1程度しかありません。
惑星を周回できるのは重力があってこそ。では重力がないのに、なぜ惑星探査機たちは、その場所にとどまれるのでしょうか?
秒速1メートルの誤差も許されない! 惑星探査機のシビアなミッション
地球は太陽のまわりを1年かけて回ります。ということは、単純に割り算していくと1秒間に30km動いています。つまり、地球に住む私たちも秒速30kmで移動していることになります。
そこで、探査機がそこにとどまるためには小惑星の公転速度と同じだけのスピードが必要になります。つまり理論的には探査機が同じ速度で移動していれば、小惑星と同じ位置にいることができるわけです。
しかしながら、もし小惑星と探査機の速度にわずかにでもズレが生じたら、何が起こると思いますか? 仮に1秒間に1メートルずれたとします。この数字だけを見れば大した誤差ではないと感じられるかもしれません。
しかし、1日で考えてみるとどうでしょうか。
1日は約8万6千400秒です。秒速1メートル狂うと1日で約8万6千メートル、kmに直すと86kmずれてしまうことになるのです。たった1日でこれだけの差が生まれてしまいます。
さらに、ずれるのが、高度方向だったとしたらどうなるでしょうか。探査機は小惑星より20kmほど高い位置にいることになっていますので、下にずれてしまえば、6時間弱で小惑星とぶつかってしまうことになるのです。
したがって、秒速1mの誤差すら許されないとても難しいミッションだったのです。
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「はやぶさ2」のミッションが成功すれば「太陽系の成り立ち」が判明するかもしれない