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真田信之と信繁は、いつ、どこで生まれたのか?―最新研究で謎を解く!

平山優(日本中世史研究家/大河ドラマ『真田丸』時代考証)

2015年10月15日 公開 2023年03月31日 更新

真田信之と信繁は、いつ、どこで生まれたのか?―最新研究で謎を解く!

《PHP文庫『大いなる謎 真田一族』より》

二転三転する信繁の生年

 真田信之(関ヶ原合戦後、「信幸」から改名。ここでは便宜上、「信之」とする)は、永禄9年(1566)に昌幸の嫡男として誕生しました。生まれた場所は定かでありませんが、『加沢記』によると戸石城で、生母は昌幸の正室・山之手殿とされます。

 信之の出生時、父・昌幸は甲府で武田信玄の側近として活動していることから、普通に考えれば甲府で生まれたと推定されます。ただ、戸石城で誕生したのが事実ならば。同城は武田氏より真田氏に管理が委ねられていた可能性を示唆していて、興味深いものです。

 幼名は不明ですが、源三郎を仮名〈けみょう〉としており、武田氏より偏諱を受けて「信幸」と名乗ったと推定されています。なお元服の時期を考えると、武田信玄ではなく、勝頼から偏諱を受けたのでしょう(勝頼の嫡男武田信勝より偏諱を受けたとする記録もある)。

 次に信繁ですが(「幸村」と称される経緯は後述)、その生年は永禄10年(1567)とされています。ただしこれは諸系譜類に、慶長20年(元和元年、1615)5月7日に49歳で戦死したとの記録から逆算したもので、確実な記録で裏付けることができません。

 仙台藩に仕えた末裔による「仙台真田系譜」には、元亀元年(1570)2月2日出生とあり、享年46と記されています(小西幸雄『仙台真田代々記』宝文堂、1996年)。46歳説は『武辺咄聞書』にも見え、実を言えば、信繁の生年は確定されていないのです。果たしてどちらが正しいのでしょうか。

 まず、通説の永禄10年説には大きな問題点があります。天正13年(1585)の第一次上田合戦の際、信繁は父・昌幸の命により上杉景勝のもとへ人質として送られますが、その時彼は「弁丸」と幼名で呼ばれており、しかも「御幼若之方」と記録されています。もし永禄10年生まれであれば、すでに信繁は19歳になっているはずであり、きわめて不自然なのです。

 成人しても幼名と諱を組み合わせて称している人物もおり、必ずしも幼名を使用しているからといって子供であったと断定はできません。ただそれだと、「御幼若之方」という上杉方の認識と相違することになります。

 それならば元亀元年説はどうかといえば、第一次上田合戦の時には16歳だったことになり、元服前であれば弁丸でもいいでしょうが、「御幼若之方」というには少し年齢が行き過ぎている感が否めません。私か思うに、実際は、もう少し若かったのではないでしょうか。

 それを示唆する史料があります。大坂の陣(慶長19年〈1614〉、同20年〈1615〉)で、後藤又兵衛(基次)の麾下だった長澤九郎兵衛の体験記である『長澤聞書』に「真田左衛門は四十四、五にも見えた。額に二三寸ほどの傷跡があり、小柄な人物だった」とあるのです。

 一方で、九度山での幽閉生活中、信繁は故郷の姉婿・小山田茂誠に送った手紙の中で「急に老け込んでしまい、歯も抜け髭も真っ白で老人のようになってしまいました」と嘆いています。つまり、大坂入城当時の信繁は、年齢に見合わぬ老いた風貌だった可能性が高いのです。

 それを前提に考えると、長澤九郎兵衛の「四十四、五にも見えた」との証言は、実年齢はもっと若かった可能性を示唆しています。残念ながら決め手がありませんが、天正13年当時に10代前半ならば、弁丸の幼名と上杉方から「御幼若之方」と呼ばれた事実に整合性がとれるのではないでしょうか。私は、信繁は天正初年(1573)ごろの生まれではなかったかと考えています。

 なお、信繁の出生地は、普通に考えれば兄・信之と同じく甲府ということになるでしょう。

<著者紹介>

平山優(ひらやま・ゆう)

昭和39年(1964)、東京都新宿区生まれ。立教大学大学院文学研究科博士前期課程史学専攻(日本史)修了。専攻は日本中世史。山梨県埋蔵文化財センター文化財主事、山梨県史編纂室主査、山梨大学非常勤講師、山梨県立博物館副主幹を経て、現在、山梨県立中央高等学校教諭。日本中世史に関する精力的な研究活動を行い、2016年放送の大河ドラマ「真田丸」の時代考証を担当。
著書に、『武田信玄』『長篠合纖と武田勝頼』(以上、吉川弘文館)、『戦国大名領国の基礎構造』(校倉書房)、『天正壬午の乱[増補改訂版]』(戎光祥出版)、『山本勘助』(講談社)、『真田三代』(PHP研究所)など多数ある。

 

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