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がん治療に携わる医師の「説明責任」~近藤誠氏の川島なお美さん記事に思うこと

2015年12月11日 公開

大場大 《東京オンコロジーセンター代表》

 

最善の情報、最善の医師に辿り着いていたとしたなら……

 文藝春秋 (11月号) に、またもや亡くなられてから声をあげる常套手段で、故 川島なお美さん の近藤誠氏記事が掲載されました。「法律上、亡くなった方は医師の守秘義務の対象ではなくなりますが」という前提を置くことで、亡くなられた川島さんの個人情報をベラベラと公にするのは倫理的にいかがなものでしょうか。

 川島さんは、「肝内胆管がん」と最初に診断されてから間もなくして、近藤氏のもとを訪れ、セカンドオピニオンを求めたというのです。記事の内容は、相も変わらず持論をうまく外挿しながら、医師でありながら非医学的な「観念」の連打を繰り返しています。

 同様な病気を患われた方が誤った情報に引っ張られないためにも、ここで糺してみたいと思います。

 その前に、川島なお美さんの訃報が流れたタイミングで様々な専門性を持った医師たちがメディアを介して盛んにコメントをされていました。しかし、時系列として彼女が「肝内胆管がん」と診断された時点における重要な各論は皆無であったような気がします。

「予後が悪いがん」だから、手術をしても治らなかったのでは?と、なんとなく決めつけられたフワフワした議論もみられました。本当にそうだったのでしょうか。

 「文藝春秋」記事によると

「MRI 検査で二センチほどの影が確認された」
「検査画像では転移の所見は認められなかった」

 要するに、「腫瘍径:2cm大」「腫瘍個数:単発 (1個だけ)」「転移:なし」という条件の「肝内胆管がん」として発見されています。原発性肝癌取扱い規約 第6版 (日本肝癌研究会 編) に従うと、ステージⅠもしくはステージⅡということになります。

 「予後が悪いがん」と決めつけてコメントを発する医師が大勢いたようですが、上記条件の「肝内胆管がん」に対して、適切な手術を受けるとどれほどの予後が得られるのかご存知でしょうか。

 東大病院を中心としたオールジャパン・データ (Y. Sakamoto, et al. Cancer 2015 Epub) によると、5年生存率はステージ I だと100%、ステージⅡで約70%と報告されています。したがって、診断当初は手術で十分に治るチャンスがあったと言えます。

 しかし、近藤氏は手術は「合併症も含めてバタバタと亡くなっていく」「メスを入れたところかにがん細胞が集まり、急激に暴れ出すことが多々ある」危険なもの、と具体的な数字を一切示さないで誇大に恐怖を煽っています。それらの根拠は一体どこにあるのでしょうか。治りたいと願う患者さんに対して個人の思想を押し付けるのみで、医学的に完全に誤ったことを公言しています。そして、なぜそこまでして、先人たちが積み上げてきた日本ならではの緻密な外科学を貶めようとするのでしょうか。

 さて、「肝内胆管がん」という病気が厄介なのは、肝臓には豊富なリンパ流が発達していて、そのふるまいはリンパ節転移を非常に起こしやすいということです。「治癒」を目指すためには、多方向に向かうリンパの流れを意識した専門性の高い手術が「肝内胆管がん」には求められます。

 しかし近藤氏は、川島さんに対して低侵襲 (ストレス) だからという理由で、平然と「ラジオ波での焼却」を薦めています。適切なタイミングで適切な手術によって、「治癒」できるかどうかが議論されるべき病気なのに、目に見える箇所をなんとなく姑息的に焼いたらいいと、個人の主観・嗜好でものを言っているのです。手術で治癒を目指せる「肝内胆管がん」に対してラジオ波焼却による生存利益を示す根拠はどこにも存在していません。放射線治療も然りです。

 医学的に誤った内容を平然と記事にしても恥じない近藤誠氏×出版社、川島さんの尊い命を自らのビジネスに利用することに良心の呵責はあるのでしょうか。

 そして、最近、川島なお美さんの闘病手記『カーテンコール』(新潮社) が刊行され、衝撃的な事実が明らかとなりました。実際のやり取りの中で、患者の立場であった川島さんは、以下のように言われて大変ショックを受けたと記述されています。

(近藤氏)「(前略) 手術しても生存率は悪く、死んじゃうよ」
- 言葉が出ませんでした。
きっと、この先生の前で泣き崩れる患者さんは多々いたはず

 当時の川島さんの「がん」の大きさは径1.7cmだったという記載があります。手術を行えば、上述したように2cmに満たない「肝内胆管がん」は明らかに予後良好であったにもかかわらずです。

 一体なぜ、適切な手術を受けることで得られる生存利益について、公平な説明がなされなかったのでしょうか。そして、次のようにも書かれています。

(近藤)先生がデータを見ながら説明してくれた時間は、約15分。お支払い含めて、20分足らず。消費税がまだ5パーセントの時代、20分のセカンドオピニオンで3万1500円也。領収証は頼んでいないうちから書かれていました。お高い!!

 意気揚々と記事にされた川島さんへのオピニオンは、わずか15分ほどのものであり、なおかつ、川島さんご本人はまるで納得していなかった様子がみてとれます。そして、他の医師にもにセカンドオピニオンを求めたあとで、川島さんは以下のようにも述べています。

(近藤)先生は確かに「私の患者で、胆管がんの人を何人もラジオ波専門医に送り込んだよ」とおっしゃっていましたが、あれって一体なんだったんでしょうか?

 医師としてデタラメを言っても恥じず、患者さんと真摯に向き合わない近藤誠氏の非道さと冷酷さが浮き彫りとなっています。

 川島さんのご病気について詳細に触れることで、「尊い命が帰ってくるわけではないから、無意味な議論だ」「単なる水掛け論に過ぎない」という感想もあるでしょう。しかし、エモーショナルに「なんとなく論」に落とし込むと、その後には何のフィードバックも生まれません。ひとつひとつの反省や検証を積み重ねてきたことで、今の医療は成り立っているからです。

 川島なお美さんのエピソードをふまえて、今後「がん」という病気が自身の現実 (リアル) として訪れた時に、正しいベクトルで自身の「がん」のこと、自身の「人生」のことを、面倒くさがらずに考えて欲しいと思います。

 なぜならば、思考を停滞させてしまった途端に、近藤氏に代表されるようなエセ医学が平然と影響力を持ってしまうからです。一方で、医師は、患者さんの不慣れな主観を鑑みて、優しい気持ちで、正しい方向性を示してあげる責務があります。ひとりでも多くの患者さんが、納得し安心して治療を受けられることを願いつつ、あらためて、川島なお美さんのご冥福をお祈り申し上げます。

著者紹介

大場大(おおばまさる)

東京オンコロジークリニック院長

1972年、石川県生まれ。外科医、腫瘍内科医。医学博士。金沢大学医学部卒業後、がん研有明病院等を経て東京大学医学部附属病院肝胆膵外科助教。外科医と腫瘍内科医の両方の専門性を有するがん治療専門医。2015年に退職し、セカンドオピニオンやがん相談を主とした「東京オンコロジークリニック」を開設。著書に『がんと著書に『がんとの賢い闘い方「近藤誠理論」徹底批判』(新潮新書)がある。

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