ホーム » スキルアップ » 最適解を導き出す「クリティカルシンキング」

最適解を導き出す「クリティカルシンキング」

2011年07月12日 公開

山中英嗣(グローバルタスクフォース株式会社代表取締役)

《 山中英嗣:著『クリティカルシンキングの教科書』より》

バカの壁とクリティカルシンキング

 養老孟司氏の『バカの壁』(新潮新書)や樋口裕一氏の『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)。ベストセラーとなった両書だが、実は両書のメッセージには、クリティカルシンキングとの共通要素が多く隠されている。
 たとえば『バカの壁』では、出産にまつわるビデオを学生に見せたとき、女子学生は「学ぶことがたくさんあった」と言い、男子学生は「授業で習った通りで既に知っていることだけだった」という。
 同じ授業を受けたはずなのに、なぜこうも認識に違いが出てしまうのだろうか?
 養老氏によると、"女子学生と男子学生の間に「知っている」という内容のレベルに大きな差があった"という。つまり、女子学生のほうが学ぶ視点の広さと掘り下げの点において、深い洞察があったということだ。
 男子学生の知っていることも当然間違いではない。しかし女子学生と比べて知っている「深さ」と「幅」が違った。この違いは、"ロジカルシンカー"と"クリティカルシンカー"の違いを示している。
 論理的な考えは最適解へ向けた必要条件であるが、十分条件ではない。言い換えると、論理的に正しいことは星の数ほどあるのだ。会社だって、利益を追求することも大事だが、倒産してしまうようなリスクを冒さないことも大事だ。
 しかしたいていの場合、それらはトレードオフ("あちらを立てればこちらが立たず")の関係にある。私たちにとって本当に必要なことは、単に論理的な答えを導くことではなく、ある前提における"ベストな答えを導く"ことである。
 いくら論理性があろうと、具体的な洞察や現実感に乏しければ、その論理性には意味がない。「妊娠中は母子ともに健康に特に配慮する必要がある」という認識が論理的に正しくても、具体的に配慮すべき内容が明らかになっていなければ実際の行動へは移せない。
 また、「妊娠中、胎児の正常な発育のためには、植物に多く含まれるビタミンB群の一種である栄養素の"葉酸"を摂取する必要がある」ことがわかっていても、「私たちの体内に吸収される葉酸が、素材の状態のおよそ3分の1程度である」ということを合わせて把握していないと、摂取量を増やしたり不足分をサプリメントで補おうとする行動にはつながらない。
 実際、『バカの壁』に出てきた男子学生の言葉も論理的に間違っているわけではない。単に"浅い"がために使えないのだ。
 "クリティカルシンカー"はその場における最適解を考え、行動し、結果を得ることを目的とする。出産のビデオでいえば、「出産に関し、重要な点なのに教科書ではわかりづらいポイントは何か?」「何が一般的にリスクとされていること以外で落とし穴になり得るのか?」といった主体的な前提の掘り下げを"ビデオを見る前の段階で明確にし、課題の再定義を行なっておける人"のことである。
 一般的に私たちが感じる「地アタマ」の違いも、実は必ずしも「論理力」の差ではなく、このように特に明示されていない前提について掘り下げる「想像力」という一見論理力とは相反するカの差が大きく関連しているのである。
 詳しくみていこう。

想像力不足=無意識行動症候群

 ビジネスシーンに、想像力が必要となる場面はよくある。
 会社の上司から「取引先と会食をするのでレストランを予約しておいてくれ」と指示をされたとき、なんとなく一般的に良さげなお店を"食べログ"検索してしまう。
 もちろん、それも悪くはないし、取引先との会食といっても、必要以上に接待を意識させることは相手にとって好ましくない場合もある。しかし、理想は一般的に良い店を予約することではない。相手にとって良い店を予約することだ。「相手のニーズを満たし満足させる」ためには、まずは相手のニーズを知らなければならない。
 相手のニーズを"満足レベル"ではなく、"感動レベル"で満たすためには、さらにその個々のニーズの重みづけも必要になるに違いない。この「どのレベルでニーズを満たすのか?」といった視点も、誰も教えてくれない、主体的に設定しなければならない前提課題の1つだ。
 ・相手は誰か?
 ・接待なのか、単純な打ち合わせなのか?
 ・相手の好き嫌いは何か?
 ・相手にとって便利なお店はどのエリアか?
  等々...
 "良い店を予約する"、ということは、この場合、"会社の上司の目的を果たすために、必要となる条件を満たし、相手にとって最適な店を予約する"ということに他ならない。最適を目指そうとすると、レストランの予約を取るだけでも事前に把握しておくべきことは意外と多いのだ。
 受験勉強においても、無意識に数学や物理の公式を暗記するだけでは「応用がきかない」のと同様、日常生活でも無意識な過去の繰り返し対応では応用のきかないことが多い。
 したがって、思考力を活かそうと考えるとき、「何のために、どの場面で意識的に想像力を働かすべきなのか?」という思考すべき場面とポイントを正しく認識するための想像力(気づき)が必要となる。私たちは知らず知らずのうちに無呼吸症候群ならぬ無意識行動症候群に陥っていることが多い。
 特に、アカデミックな勉強と異なり、詳しい「前提条件」や「命題」が提供されない日々の日常生活や仕事の現場では、自ら"主体的に前提を把握し、その前提から考えられる問題そのものを再定義し、仮説を設定したうえで、解決に向けた行動をとる"ということを意識的に実践できるかどうかが、成果に結びつく大きな分かれ道となる。

山中英嗣(やまなか ひでつぐ) 山中英嗣(やまなか ひでつぐ)
グローバルタスクフォース株式会社代表取締役。
国内大手通信会社などを経て、ロンドン・ビジネススクール内の新規事業に参画。世界の主要ビジネススクールと共同でMBA卒業生データベースを構築、MBAホルダーの採用支援を事業化(現 Global Workplace、本部ロンドン)。2000年、日本現地法人をソフトバンクグループと合弁で設立。2001年に業態を拡大し、ライン常駐チームによる上場企業の再生・再編を本業とするグローバルタスクフォース株式会社を設立、代表取締役に就任。現在、大手企業グループの再生をはじめ、製造業、ソフトウェア、小売など約50の事業再編を率いる。他に複数の上場企業の社外取締役、関西大学大学院商学研究科の非常勤講師を兼務。

書籍紹介

クリティカルシンキングの教科書

『クリティカルシンキングの教科書』

山中英嗣 著
税込価格 1,575円(本体価格1,500円)
コンピュータやロボットのように課題や前提をインプットされて初めてアウトプットできるのが「ロジカルシンカー」だとすれば、誰も認識していない課題に気づき、問題解決できるのが「クリティカルシンカー」だ。本書では、ロジカルシンカーが、なぜ必ずしも正しい判断をくだせないのか? 最適な課題解決のため「クリティカルシンキング」なぜ大切なのか、豊富な事例をもとに解説していきます。


DRAGON JAPAN 龍の日

アクセスランキング

DRAGON JAPAN 龍の日
  • Facebookでシェアする
  • Twitterでシェアする

ホーム » スキルアップ » 最適解を導き出す「クリティカルシンキング」