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最適解を導き出す「クリティカルシンキング」

山中英嗣(グローバルタスクフォース株式会社代表取締役)

2011年07月12日 公開 2022年06月27日 更新

最適解を導き出す「クリティカルシンキング」

ロジカルシンキングのできる「頭がいい」はずの人が、はたして正しく問題解決できているだろうか? むしろ論理だけが先走って行動できなかったり、他人の批判ばかりするダメ出し人間になっていないだろうか?

前例やマニュアルは通用しないと言われるこれからの時代に、誰も認識していない課題に気づき、問題解決できる「クリティカルシンキング」が求められている。

「指示待ち」ではなく「提案する」ビジネスパーソンになるために必要なクリティカルシンキングを山中英嗣氏が紹介する。

《 山中英嗣:著『クリティカルシンキングの教科書』より》

 

バカの壁とクリティカルシンキング

養老孟司氏の『バカの壁』(新潮新書)や樋口裕一氏の『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP新書)。ベストセラーとなった両書だが、実は両書のメッセージには、クリティカルシンキングとの共通要素が多く隠されている。

たとえば『バカの壁』では、出産にまつわるビデオを学生に見せたとき、女子学生は「学ぶことがたくさんあった」と言い、男子学生は「授業で習った通りで既に知っていることだけだった」という。

同じ授業を受けたはずなのに、なぜこうも認識に違いが出てしまうのだろうか?

養老氏によると、"女子学生と男子学生の間に「知っている」という内容のレベルに大きな差があった"という。つまり、女子学生のほうが学ぶ視点の広さと掘り下げの点において、深い洞察があったということだ。

男子学生の知っていることも当然間違いではない。しかし女子学生と比べて知っている「深さ」と「幅」が違った。この違いは、"ロジカルシンカー"と"クリティカルシンカー"の違いを示している。

論理的な考えは最適解へ向けた必要条件であるが、十分条件ではない。言い換えると、論理的に正しいことは星の数ほどあるのだ。会社だって、利益を追求することも大事だが、倒産してしまうようなリスクを冒さないことも大事だ。

しかしたいていの場合、それらはトレードオフ("あちらを立てればこちらが立たず")の関係にある。私たちにとって本当に必要なことは、単に論理的な答えを導くことではなく、ある前提における"ベストな答えを導く"ことである。

いくら論理性があろうと、具体的な洞察や現実感に乏しければ、その論理性には意味がない。「妊娠中は母子ともに健康に特に配慮する必要がある」という認識が論理的に正しくても、具体的に配慮すべき内容が明らかになっていなければ実際の行動へは移せない。

また、「妊娠中、胎児の正常な発育のためには、植物に多く含まれるビタミンB群の一種である栄養素の"葉酸"を摂取する必要がある」ことがわかっていても、「私たちの体内に吸収される葉酸が、素材の状態のおよそ3分の1程度である」ということを合わせて把握していないと、摂取量を増やしたり不足分をサプリメントで補おうとする行動にはつながらない。

実際、『バカの壁』に出てきた男子学生の言葉も論理的に間違っているわけではない。単に"浅い"がために使えないのだ。

"クリティカルシンカー"はその場における最適解を考え、行動し、結果を得ることを目的とする。

出産のビデオでいえば、「出産に関し、重要な点なのに教科書ではわかりづらいポイントは何か?」「何が一般的にリスクとされていること以外で落とし穴になり得るのか?」といった主体的な前提の掘り下げを"ビデオを見る前の段階で明確にし、課題の再定義を行なっておける人"のことである。

一般的に私たちが感じる「地アタマ」の違いも、実は必ずしも「論理力」の差ではなく、このように特に明示されていない前提について掘り下げる「想像力」という一見論理力とは相反するカの差が大きく関連しているのである。詳しくみていこう。

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