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“本物の営業マン”は、売れるものを「作る」ことを考える

佐々木常夫(東レ経営研究所特別顧問)

2011年08月09日 公開 2022年12月27日 更新

佐々木常夫

トヨタの重役が知らなかった「日本製」

売り先を変えることで、まったく売れなかった商品が大ヒット商品になった例の1つが、東レの開発した人工皮革エクセーヌです。

なめらかで暖かみのある風合いを持ち、それでいて従来の本革や人工皮革より格段に手入れがしやすく耐久性もある。非常に優れた製品ですが、日本ではどのアパレルメーカーにも相手にされず、当初はまったく売れませんでした。

ネックは値段で、当時羊の草が1平方メートルあたり1000円程度であるのに対し、エクセーヌは6000円ぐらいしたのです。それが売れるようになったのは、アメリカのデザイナー、ロイ・ホルストンに採用されてからです。

彼のデザインする服はジャクリーン・ケネディやハリウッド女優など当時のファッション・リーダーたちから愛用されていました。彼がエクセーヌで服を作って彼女たちに着せたところ、いっきに注目が集まり、エクセーヌは飛ぶように売れだしたのです。

日本で6000円で高いと言われたものを2万円ぐらいで売りましたが、それでもどんどん売れました。アメリカのファッション界は日本のように「羊と比べていくら高い、安い」といった価値観で動いていないからです。

その後、同じことが自動車のシートでも起こりました。当初エクセーヌはコートの素材として使われましたが、現在エクセーヌの最大の用途は自動車のシートです。

エクセーヌを自動車のシートに使ってもらうにあたり、最初は当然のことながら日本最大の自動車メーカーであるトヨタに持ち込みました。ところが、従来から使っている本革のほうが安いということで、まったく相手にされませんでした。

風向きが変わったのは、やはり海外で採用されてからです。イタリアのランチアという自動車メーカーが採用し、その後メルセデス・ベンツやBMWなどでも使われるようになりました。

やがてトヨタの重役がヨーロッパに来た際、今乗っている車のシートの素材が日本製と知って驚いたそうです。このとき重役が周囲に「こんな製品知っているか?」と聞いたところ、誰も知らなかったとのことです。末端のほうで情報が止まっていたのでしょう。

営業マンと同様に、商品を買う側も「我が社の利益の最大化を図る方法はできるだけ安いものを買うこと」と思っています。従来より高いものには興味を示さないし、そうした情報も上には入らないようになっているのです。

つまり、営業マンはこの情報を誰に持っていくのが一番よい条件で売れるか見極めることが大事で、さもなくば、せっかくニーズのある商品であったとしても世に出なくなることがあるのです。

 

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