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Voice9月号書評から

『Voice』編集部

2011年08月19日 公開 2024年12月16日 更新

国難に克つ――論戦2011

『国難に克つ――論戦2011』

櫻井よしこ 著
ダイヤモンド社/1,500円(税込)
 本書は、2010年と2011年、著者が『ダイヤモンド』をはじめ各誌に寄稿した時事評論を編んだものである。だからこそ、一つひとつの文章を読み進めるにつれ、「われわれにはこの間、あまりにも凄まじい時期を生きてきた」ことを痛感させられる。
 民主党政権の混迷、尖閣での中国漁船衝突事件、ロシア大統領の国後訪問、中東ネット革命、そして東日本大震災と原発事故......。いま何が起きているのか。誰が、いかに蠢いているのか。そして、それは歴史的にいかなる意味があるのか。日常の瑣事のなかでただ過ぎ去ってきたいくつもの事件を振り返り、あらためて真実に直面するとき、気が遠くなる思いすらするのだ。
 本書で浮かび上がるのは、「数限りない悲喜劇の後ろ側に、国家の喪失が透けてみえる」構図である。絶望のなかに残された数少ない希望は何かを明確に指し示そうとする著者の想いが、われわれの胸を打ってやまない。(T.K)

原発はなぜ日本にふさわしくないのか

『原発はなぜ日本にふさわしくないのか』

竹田恒泰 著
小学館/1,365円(税込)
 3.11以降、日本のエネルギーをめぐる情勢は一変した。菅総理の「脱原発宣言」もあって、まさに議論は百出である。
 一般的には革新陣営が「反原発」であるのに対し、保守陣営は「原発賛成・推進」という構図が語られる。しかし環境問題の専門家でもある著者はいう。「保守の人こそ、日本にふさわしくない原発には反対すべきだ」と。
 「核兵器を持つためには原発が必要」「原発が止まったら電気が足らなくなる」「原発の発電コストは安い」......。こうした原発の「常識」を次々に覆し、「原発の安全は労働者の死に支えられている」「原子力は神の領域を侵す」など、「原発が日本にふさわしくない理由」を明確に描き出す本書は、読者の立場にかかわらず強烈な読後感をもたらすだろう。
 わが国の文化背景までを踏まえた保守論者による初の「反原発論」をぜひ一読されたい。(T.F)

戦争を取材する

『戦争を取材する』

山本美香 著
講談社/1,260円(税込)
 あるとき日本の子供からいわれた「戦争をなくすなら世の中をリセットしちゃえばいい」との言葉を深刻に受け止め、現代人に「戦争の実態」を伝えたいとの想いで書かれた本書。レバノン、コソボ、ウガンダ、イラクなど、取材した戦地での体験が、現地の人の言葉とともに物語のようにつづられる。掲載されている多くの写真のなかでも、子供たちの輝くような自分が、とても印象的である。(E.T)

生涯うなぎ職人

『生涯うなぎ職人』

金本兼次郎 著
商業界/1,500円(税込)
 200年続く老舗のうなぎ屋「野田岩」の五代目が語る自叙伝。80歳を過ぎたいまでも毎日、厨房に立つ。嗜好や時代の変化とともに味や職人の育て方を変えてきたなど、伝統を守るために革新を貫くという王道の経営論を展開。ワインにも造詣が深く、日本でハーフボトルワインを提供したのは、同点が初めてだとか。多彩な趣味をもち、自由な発想で次代を切り拓く姿勢に学ぶべき点が多い。(T.N)

ある少女にまつわる殺人の告白

『ある少女にまつわる殺人の告白』

佐藤青南 著
宝島社/1,470円(税込)
 「亜紀ちゃんの話を聞かせてください」と、10年前にあった、ある少女をめぐる忌まわしい事件の情報を集める一人の男性。虐待に直面した少女の過去を探ることでみえてきた真実は、さらに衝撃の結末を迎える。現代にはびこり続ける児童虐待の実態と、その痛ましさゆえにページを閉じられなくなる本作。被害者が被害者を生む負のスパイラルに読者もどっぷりとはまり、脱出不能となる。(M.T)

Voice 2011年9月号

Voice 2011年9月号

国家の帰趨を左右するエネルギー政策を政局の具として弄び、拙速に「脱原発依存」を唱える菅総理の責任は、あまりにも重いといえます。いまや右も左も感情的な原発アレルギーを煽る時代、今回の総力特集は「『電力危機』の戦犯は誰だ」と題し、真に国益を見極めた冷静な議論だけを網羅しました。もう1本の特集は、「再び"高度成長"を遂げる日本」。ビル・エモット氏と竹森俊平氏の白熱対談は、必読です。上杉隆氏の新連載もスタート。今月も、知的議論をご堪能ください。

 

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