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一芸に熟達せよ

『歴史街道』編集部

2010年11月24日 公開 2023年03月31日 更新

徳川家康

「勝つことばかり知りて、負くるを知らざれば、害その身に至る」徳川家康(1542~1616)

織田がつき 羽柴がこねし 天下餅 座りしままに 食うは徳川――。
 そんな狂歌が生まれたのは、江戸幕府の屋台骨がゆるんで神君の威光も薄れ、尊皇擾夷思想が広まり始めた19世紀半ば。しかし、座して天下を手にしたかのように揶揄するのはおかしい。応仁の乱の勃発から百数十年にわたる戦乱の世にピリオドを打ち、辛抱に辛抱を重ねて泰平の世の礎を築いた徳川家康が、あまりに気の毒すぎる。
 家康は1542年、三河国の土豪・松平広忠の嫡男として岡崎城で誕生し、3歳で生母・於大(伝通院)と生き別れとなった。父は駿河国守護である今川氏の庇護を受けており、於大の兄・水野信元が今川と敵対する尾張の織田氏と同盟したため、離縁せざるを得なくなったのだ。
 幼名竹千代時代の悲運はさらに続いた。6歳で織田信秀(信長の父)、8歳からは今川義元のもとでの長い人質暮らしが始まる。
 元服して松平元信となった家康は、今川氏の重臣の娘で義元の姪にあたる築山殿を妻に迎えたが、桶狭間の合戦で義元が敗死したことで自立の道が開け、織田信長と結んで三河国の平定にあたる。
 やがて徳川姓となり、1570年に居城を浜松とした。姉川の戦いで浅井長政を破ったが、1572年、西上の大軍を起こした武田信玄が浜松城を素通りしようとしたところを追撃し、三方ヶ原で大敗を喫して浜松城へ逃げ戻る。しかし、さすがは家康だ。自身への戒めとするために描かせたという、苦渋に満ちた肖像画が残っている。
 家康は若かりし日から武田信玄を武略の師として仰ぎ見ていたという。その信玄は西上途上で発病して没する。1575年、家康は信長とともに設楽原で武田勝頼軍を破った。さらに甲州を攻め、ついに勝頼を自殺に追い込んだので、その戦功により信長から駿河国を与えられた。
  間もなく大きなドラマの展開があった。中国攻めで奮戦する羽柴秀吉を救援するため上洛した信長が、宿舎の本能寺を明智光秀に襲われて自刃してしまったのだ。信長の招きをうけ堺見物をしていた家康は明智軍の兵が固める畿内を逃れ、伊賀越えで三河へ帰還した。すぐさま光秀討伐軍を率いて尾張まで進軍したが、時すでに遅し。秀吉は備中高松の陣を払うや、"中国大返し"と呼ばれる離れ業により、京都南方の山崎に陣を張り、明智光秀軍を撃破していたのだ。
 信長亡きあと、旧武田領の甲斐・信濃や上野国などでは一揆が多発し、越後の上杉勢や相模の北条勢の侵攻も受けた。その混乱を乗り切って家康は甲斐・信濃・駿河・遠江・三河の五ヶ国を領有したが、秀吉の勢いには勝てなかった。
 小牧・長久手の戦いこそ有利に進めたものの、同盟した織田信雄(信長次男)が秀吉の口車に乗せられて講和してしまう。信長遺児を助けて秀吉を討つという大義名分を失った家康は、撤退を余儀なくされる。味方陣営が次々と秀吉に攻略され、家康も秀吉の懐柔策に折れる格好で臣下の礼をとることになった。
 小田原征伐には豊臣方の軍として出陣。北条氏が秀吉に屈服し、家康は北条氏の旧領である関東の領主として移封される。朝鮮出兵の軍役は免れたので、兵力・財力の温存に努めた。そして、秀吉が病に倒れたことで家康の天下取りへの動きが本格化していった。関ヶ原合戦の勝利を経て、1603年に征夷大将軍に任ぜられて江戸に幕府を開く。老体に鞭打っての体制固めは、75歳で亡くなるまで続いた。
 日光東照宮等に掲示されている『神君(家康公)御遺訓』は、当人が書き遺したものではなく後世の作とされるが、そこには現代人の道標となる格言がちりばめられている。
 「人の一生は、重荷を負ふて遠き道をゆくがごとし。急ぐべからず。
  不自由を常と思えば不足なし。心に望み起こらば困窮したる時を思い出すべし。
  堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思え。
  勝つことばかり知りて負くるを知らざれば、害その身に至る。
  己を責めて、人を責むるな。及ばざるは過ぎたるに勝れり」
 戦上手ぶりから「海道一の弓取り」と称された家康が、負けることを知ら  ない勝ちっぱなし人生ではかえって害があるとしているところに注目したい。
 受験競争に始まって同僚との出世競争、ライバル企業との生き残り競争と、勝った負けたが一生ついてまわるが、挫折の数だけ人は強くなることもできる。今日の負けに打ちひしがれず、明日の勝ちへとつなげるような考え方で人生の荒波に立ち向かいたいものだ。

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